実用版ドビュッシーピアノ作品集VI
喜びの島/仮面
中井 正子 校訂
■菊倍判/32ページ
■定価:本体1,000円+税
■ISBN 978-4-88364-179-6
現在一般的に使われているジョベール版を底本とし、フランスにおいておこなわれている伝統的な修正を校訂に採用。定本に見られる明らかな印刷上の誤りを訂正し、校訂者による補足(臨時記号、音価、フレーズ)はすべて[ ]で明示してあります。また、フランス語による楽譜は( )内に意訳を記載。指使いとペダリングは、学習者のために一般的、実用的と思われるものを付しました。
収録曲
喜びの島/仮面
解説
《喜びの島》《仮面》の特徴 小鍛冶邦隆
《喜びの島》と《仮面》は、《ベルガマスク組曲》を翌1905年に出版するフロモン社より、1904年初めに刊行が予告されている。この際、第2曲に〈サラバンド〉を置く、3曲からなる組曲構成が見られるが、結局〈サラバンド〉は書かれず、上記2曲が個別に、デュラン社からそれぞれ1904年10月と9月に出版された。
《喜びの島》は従来からフランス・ルイ王朝の画家アントワーヌ・ワトーの雅宴画『シテール島への船出』と関連づけられ、また《仮面》はルイ王朝趣味の「仮面劇(マスク)=イタリア古典即興喜劇」を暗示することから、1903年から04年に至る、ドビュッシーの王朝趣味=雅やかな宴(フェト・ガラント)と関係していると考えられる。《ベルガマスク組曲》や、1903年に出版されたヴェルレーヌの詩による歌曲集《雅かな宴》第1集は、1890年以前の旧作に基づく、世紀末の上流サロン趣味を反映したものであるが、《喜びの島》や《仮面》、また1904年に作曲された《雅やかな音楽》第2集は、より個性的な感性と技法による新たな王朝風趣味を装いつつ、《ペレアス》以後のさらに深い人間性と芸術的洞察に満ちた創作といえよう。
《喜びの島》は、ドビュッシーの最初の結婚の破綻と、銀行家夫人のエンマ・バルダックとの愛人関係という複雑な人間関係から逃避すべく、1904年7月から8月にかけてジャージ島からディエップに滞在中に完成されたと考えられる。短い序奏の後、7小節以後の左手の官能的なハバネラのリズムと、右手の喜ばしいジーグ風の動きや、67小節以後の「波打つように表情豊かに」と指示された情熱的でゆるやかなバルカローレ(舟歌)を思わせる音楽、また21小節以後のファンファーレ風音型は、コーダにおいて上記のバルカローレ風の旋律と結び合わされる。ワトーの『シテール島への船出』(1717)と関連づけられるジャージー島への愛の逃避行以前に大半が作曲されていたとしても、この音楽が当時のドビュッシーとエンマの愛情関係を反映していると言われるのは事実であろう。
《仮面》は、8分の6拍子と4分の3拍子の複合リズムによるギター風音型から、同時期に作曲された《版画》におけるスペイン趣味(〈グラナダの夕べ〉)を、中間部の5音音階風の部分(174小節以後)も、同様に《版画》における東洋趣味(〈バゴダ〉)を思わす。しかしながら、イ短調(ハ長調)の「生き生きと気まぐれ」な主部と、嬰ハ長調と変ト長調の遠隔調による2つの美しいエピソードの色彩的対比や、冒頭1〜4小節の主要動機による全音音階的な移行部(236〜269小節)、同様に362小節以後の主要動機による暗示的なコーダ等、精緻な技法による音楽である。
《喜びの島》と《仮面》は、1905年2月10日にリカルド・ビニェスにより初演された。
校訂の技法 中井正子
この楽譜は、ピアノ学習者がなるべくドビュッシーの音楽を理解しやすく学べるように意図した実用版です。デュラン社初版(1904年)を底本として、パリ国立図書館所蔵の自筆譜も参照しています。
デュラン版に見られる明らかな印刷上の誤りについての訂正と、校訂者による補足(臨時記号、音価、休符はすべて角カッコ[ ]で明示しました。フレーズの整合性については、一部校訂者により明示せず訂正してあります。また、フランス語による楽語は( )内に意訳を付しました。
「指使い」については、学習者のために一般的と思われるものをつけました。
「ペダリング」(ダンパー・ペダルと弱音ペダル)については、指使い同様、学習者のために実用的なペダルを付けました。ただし当然ながら、演奏者、楽器、会場などの条件で変化しうるものです。校訂者によるペダル表示のための記号は以下の通りです。
(本楽譜をご覧下さい)
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