リベルタンゴ、オブリヴィオン

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CD付
リベルタンゴ、オブリヴィオン 

(忘却)品切れ中


ピアノ3バージョン[ソロ・連弾・2台ピアノ]による

アストル・ピアソラ 作曲 

山本京子 編曲

A4判/68頁

定価2,800円+税

ISBN 978-4-88364-207-0

 

 

クラシック愛好家にも人気のあるアストル・ピアソラ。
彼の代表的な2曲を、ソロ、連弾、2台の3つのバージョンに編曲し、1冊におさめました。
編曲の山本京子はこれまでにも多くのピアソラ楽曲の編曲を手がけ、また武田ゆかとピアノデュオ「mumuki」を結成し、神戸を拠点に演奏活動をおこなっています。
今回の編曲はmumukiがライブで演奏しているバージョンを収録。華やかで演奏効果の高い内容となっています。

解説

独自の世界を作り上げたピアソラ

 アルゼンチンが世界に誇る音楽家アストル・ピアソラ(1921〜1992)は、バンドネオン奏者、楽団リーダー、作曲家、編曲家として、タンゴ界のみならず20世紀の音楽界に優れた業績を遺した。だがその人生は順風満帆と呼ぶにはほど遠かったし、彼自身が大いに悩める人でもあった。

 ターニング・ポイントは何度か訪れたが、その最大のものが、タンゴの現状に失望し、さりとて未来には希望がもてず、憧れのクラシック界に活路を求めようとしてパリに留学した1954年に、師事したナディア・ブーランジェから「あなたの個性は、クラシック作品ではなくタンゴの中にこそあるのです。あなたはそれを捨ててはいけないのよ」との薫陶を受けたとき。
 帰国後にタンゴ革命へと大胆に乗り出したピアソラは、周囲の無理解に苦しみつつ、1960年代には自己の五重奏団をベースに独自のモダン・タンゴのスタイルを確立していく。1968年のオペリータ(小オペラ)『ブエノスアイレスのマリア』や、1971年〜72年に率いた究極のグループ、コンフント9(九重奏団)などで音楽的に頂点を極めたピアソラだったが、閉鎖的なブエノスアイレスでの活動はもはや限界に達していた。

自由を求めてーーリベルタンゴ

 心臓発作による病気療養を経て心機一転、海外に活動の拠点を移すことを決意したピアソラは1974年3月、気心の知れたミュージシャンたちとのグループを封印し、イタリアにむかう。これもまた大きな転機だった。そこで最初に録音したアルバムの冒頭を飾ったのが、アルバム・タイトルにもなったリベルタンゴである。タイトルは「リベルタ(自由)」と「タンゴ」を組み合わせた造語で、当時のピアソラの心境を表したものといえるだろう。
 アルバム『リベルタンゴ』以降1977年までにイタリアで当地のスタジオ・ミュージシャンらと録音されたものは、ピアソラ本来のアコースティックなスタイルとは異なる、エレクトリックでフュージョン寄りの音作りがなされていた。その後1978年に五重奏団を再結成し、充実した1980年代への足掛かりを掴んだピアソラは、1974〜77年のフュージョン路線は失敗だったと総括している。また、この時期の作品で五重奏団再結成後も(当然アレンジは変えて)レパートリーに残ったのは、歌ものを除けばリベルタンゴ1曲のみに留まった。
 確かにこの時期の演奏は、他の時期の作品に比べて、タンゴ的な密度は薄まっていたが、このイタリア時代の精力的な活動があったからこそ、ピアソラという名がヨーロッパを中心に各国に広まり、今日の世界的評価の礎が築かれたのである。オリジナル・バージョンのリベルタンゴをシングル・カットするために、プロデューサーのアルド・パガーニはピアソラの意図に反して演奏時間を短くさせたというエピソードも残っている。商売人として知られるパガニーニは、ピアソラを「売る」ために最大限の努力を払ったのだ。もちろん、単に売れ線を狙っただけの作品ではなかったことは、この曲が様々に形を変えて聞き継がれ、弾き継がれていることからも明らかである。

美しいメロディーで魅了ーーオブリヴィオン

 五重奏団を率いて世界を巡る演奏活動が完全に軌道に乗っていた1984年に書かれたオブリヴィオン(忘却)もまた、パガーニに因縁のある作品。パガーニがプロデュースした最後の作品となった、マルコ・ベロッキオ監督のイタリア映画『エンリコ四世』(日本未公開)のサウンドトラック盤でメイン・テーマとなった曲である。これもオリジナルは五重奏団ではなくミラノのスタジオ・ミュージシャンたちとの録音で、ピアソラにしては「甘すぎる」サウンドだったが、同年のミルヴァとピアソラ五重奏団とのリサイタル・シリーズ『エル・タンゴ』で、ディヴィッド・マクニールのフランス語詞を得たこともあって、その美しいメロディーは広く人気を集めることになる。これもまた、作曲者本人の最初の意図を離れて、作品が生き続けていく、その好例と言えるだろう。

2005年12月26日 斎藤充正

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