横山幸雄ピアノQ&A136 から  Q13 ピアノを教えるときに大切なこと

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Q13. ピアノを教え始めてもう15年以上たちますが、「将来のびる」と思って期待していた子が突然やめてしまったり、趣味で始めた年配の方にどこまで技術的なことを求めればいいのかと迷ったり……いつも悩んでいます。


 1人ひとり音楽の感じ方や、体格、指の特性などあらゆる面において異なっている。それぞれの人に対して最も適切なアドヴァイスをするということは、教える立場の人にとってなかなか難しいことだ。質問にあるように、「特に楽しむことを第一に趣味でピアノを弾いている人に対して、どのくらい専門的な部分まで教えるべきか」あるいは「子どもに現段階でどこまで難しいことを教えればいいのか」など、程度の見極めが難しい。
 音楽のような芸術的なものは必ずしも「正しい」「誤っている」とはっきり分けられるものではない。そこが音楽を教える際の難しさの源だろう。僕が思うに、「生徒一人ひとりに対してその時点で一番必要なアドヴァイスをすること」、これができる先生が名教授と言われるのだろう。もう少し具体的に見れば、大きくいって生徒の「年齢」「性格」「環境」この三つの観点をバランス良く混ぜ合わせて考えることが必要だと思う。
 まず、年齢的なことから。中学生までが一番体が成長するのと同時に吸収力がある時期なはずなので、その時点では音楽が嫌いにならない程度に正しいことや良いことを導きつつ、またときには半ば強制することも必要かもしれない。早ければ中学生くらいになると、自我も相当出てくる。「音楽は芸術だ」ということを盾に、感覚的なことだけに終始してしまう場合も往々にしてあるようだが、「どうしてそのように弾かなくてはいけないのか」をときには言葉で理論的に説明することも必要だろう。

 またおとなになって始めた人の場合、子どもほど吸収は早くないかもしれないが、「やりたい」という強い意志があるはずだ。それを上手く利用し、かつ無理がないように少しづつ進めていけばよいだろう。技術的なこともおとなだからといって進歩しないわけではないので、本人が望むのであれば上達のためには欠かせない。
 次に、環境的な面。多くの場合は週に一度のレッスンだろう。週に1回レッスンのときに真剣に音楽に取り組んでいたとしても、もちろんそれで進歩がまったくないわけではないが、その生徒一人ひとりの感性が育つかどうかは、結局その人の日常生活にある。日常がそれほど音楽のある生活をしていない人の場合、それ以上の要求をしても、混乱するか嫌になってしまうだけだろう。
 最後に、性格的な点について。とても素直で先生の言うことをよく聞く生徒の場合、ある程度強制することはやりやすい方法かもしれない。しかし、そればかりに頼ると、気がついたときには、まったく自我のない、自らの表現意欲のない演奏になってしまう危険性がある。また僕がそうであったように(?)、独立心の強い生徒の場合は、理論的に説明したり、演奏でもって「このようにすると素晴らしくなる」ということを目の前で見せなければ、納得しないときもあるだろう。
 こういう具体的なことを抜かしたとしても、先生と生徒というものは根本的に信頼関係で成り立っているものであるから、人間のお互いの相性という問題もあるだろう、尊敬される先生になるということは難しい。


「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 2 学ぶ・教える」

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