日本の合唱音楽を世界に発信したい――山田和樹

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日本の合唱音楽を世界に発信したい――山田和樹

今世界から注目を集める若きマエストロ山田和樹さんが、2014年4月、東京混声合唱団(東混)音楽監督に就任した。
日本の合唱界の一端を担うプロ合唱団の音楽監督として、また長年指揮者を務める合唱団への思いをうかがった。
(こちらの記事はうたの雑誌「ハンナ」2014年9月号掲載記事です)

――東京混声合唱団で指揮し始めた頃から音楽監督に就任した今、心境の変化はありましたか?
 2004年以来、最初は客演指揮者として、次にコンダクター・イン・レジデンスとして、ブザンソンコンクール優勝後はレジデンシャル・コンダクターとして、そして今年4月からは音楽監督として長く関わっている間に、実に200回以上の演奏会を共にしてきました。心境の変化というよりも、この10年で、団員さんとの距離感が縮まり、コミュニケーションや音楽づくりがとても楽しい時期になっています。
――音楽監督として、東京混声合唱団でどのような音楽づくりを目指していらっしゃいますか?
 日本を代表する合唱団として高い技術力や作品の理解力、幅広いレパートリーの維持と開拓はもちろん、何よりもお客さまと感動を共有するための音楽づくりに力を入れていこうと思っています。
――東京混声合唱団での活動が、他の活動に影響を与えていますか?
 もちろんです。岩城宏之先生もおっしゃっていましたが、東混を指揮することでオーケストラの指揮にも変化がありますし、合唱作品の勉強は全てのジャンルの音楽に活かすことができます。
 スイス・ロマンド管のメンバーにも「ヤマダは合唱が得意だから」とよく言われます。歌をもとにした音楽づくりが、本場ヨーロッパで認められているのはうれしい限りです。
――日本と海外の合唱団の違いを感じられたことはありますか? あるとすれば、どんなところでしょうか。
 読譜力や技術力に関しては違いを感じたことはありませんし、むしろ日本の方が優れていると思う部分もあります。しかし、体力やもって生まれた体格などは決してかなわないだろうと思います。海外の合唱団では、舞台の底が鳴っているような共鳴感を感じることがありますが、そういう感覚は、日本の合唱団では希薄かもしれません。
 どちらが良くてどちらが悪いということではなく、日本の合唱団はその良さを大切にしながら活動していくことが大事だと思っています。
――合唱とオーケストラの指揮で、意識の違いはありますか?
 よく聞かれる質問ですが、違いを意識したことはありません。ただ、合唱作品はテキスト(詩)をもっているので、そこでのイメージ作りやメッセージをどう伝えるかということは、合唱特有のものがあります。
――“オーケストラの一部としての合唱”と“合唱”の演奏、それぞれの魅力を教えてください。
 例えばベートーヴェン「第九」などでも、合唱を「オーケストラの一部」と捉えたことはないんですね。あくまで合唱は合唱で、そこにオーケストラがあるかないかということになると思います。ですから合唱とオーケストラで一緒に演奏する場合は、その響きが溶け合うのも魅力ですし、ある時はあえて響きを対立させておもしろい効果を引き出すこともあります。
 合唱だけの時は、声そのものやテキストにより集中できるという魅力がありますね。
――声という楽器が持つ魅力は何でしょうか。
 声は身体のコンディションの影響を如実に受けます。コントロールするのが難しい側面もあると思いますが、誰でもいつでもどこでも歌えるという点が一番の魅力ではないでしょうか。また、パーソナリティがはっきりと表れてくるというのも、声のおもしろいところですね。
――アマチュアとプロの合唱団の違い、プロの合唱団だからこそできることは何でしょうか。
 音楽を前にして アマチュアとプロの垣根はないと思っています。最初からプロである人はいませんから。音楽を希求する原点にはだれにでも“アマチュア精神”があるわけです。
 そのうえで果てしなく音楽を探求していくのがプロとしての姿勢です。ですから、プロにとって理想的なのは、さまざまな角度から作品へアプローチすることができるように「引き出しが多い」状態です。ただ指揮者の音楽を具現化するのではなく、合唱団自体が音楽をもつこと、アンサンブルという会話の中で指揮者と共に新しい音楽を作っていくこと。それこそが、プロの合唱団が先陣を切っていくべきことだと思います。
 2012年に東混がクセナキスの『オレステイア』という舞台作品を演奏した時、これは東混にしかできない世界に誇れる音楽だという確信をもちました。音楽的にも演出的にも難題が続出していたにもかかわらず、彼らは決して「できない」と言いませんでした。また、どんなに忙しくて大変な時も、東混メンバーから「疲れた」という言葉を聞いたことはありません。プロの底力を感じました。
――これからの日本の合唱界の展望と、そこで東京混声合唱団が担う役割は何でしょうか。
 日本の合唱界は、これ以上に発展することがあるのだろうかと思うほど大変充実しています。その中で東混が担っていく役割は、日本の合唱音楽を世界に発信していくこと、また海外の合唱作品を日本に紹介していくことだと思います。常に新しい合唱の在り方を模索し続け、さらにそれを周りに提起していくことが求められていくと思います。
――山田さんにとって東京混声合唱団とは?
 東混から“プロフェッショナルとは何か”ということを教えてもらいました。東混とは、仕事をしている感覚ではなく、人間対人間の関わりを強く感じます。それは、音楽にも必ず表れると思っています。
――最後に、合唱愛好家のハンナ読者の皆さまにメッセージをお願いします。
 東混は日々進化しています。その変化をぜひ会場にて、皆さんの目と耳で感じていただけたらと思います。皆さまのご来場を、心よりお待ちしています。

(うたの雑誌「ハンナ」2014年9月号より)

この記事を掲載のハンナ2014年9月号はこちら
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