横山幸雄ピアノQ&A136 から  Q50 美しい音色とは?

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Q50. ショパンのバラード第3番を勉強していますが、先日レッスンで「音色が暗い」と言われました。「美しい」「明るい」音色を出すにはどのようにすればよいのでしょうか。



 

「美しい」と思う音色は人によってそれぞれ違うと思うし、また一流のピアニストたちはそれぞれ皆独自の音色を持っており、CDを聴いて即座に誰の演奏なのかわかるものさえある。音色をさまざまに変化させてより鮮やかな色彩の変化を持つ演奏家もいれば、墨の濃淡のような質感で表現する演奏家もいるように、何が良くて何が悪いのかというのは非常に難しいことである。

 少し具体的に挙げてみると、例えばある和音を弾くときに、当然のことながら全部の音が同じような音量もしくは音質で鳴っていれば、どう考えてもあまりきれいに聴こえることはないだろう。1番上のメロディの音が出ていればきれいに聴こえるわけだが、それが出すぎれば和音としての厚みがなくなり、やせた音色や質感になってしまう。一方、和音の中の比較的低いほうの響きを充実させれば、厚みのある音になるが、ただそれも行きすぎれば野暮ったく、汚く濁って聴こえてしまう。

 さらに演奏者による音色の違いに加えて、作曲家の求めている音色の質感の違いという問題もある。例えばブラームスは比較的低い音域に、音の響きを集めた書き方をしているが、これは厚みのある暖かい音色を意識したからだと思う。それに比べてショパンは、ずっとすっきりとした音色になるように、低い音域には音の響きを集めていない。また、リストは全音域にわたって効果的に音を散らすことによって、ピアノという楽器が1番よく鳴るということを知り抜いていた作曲家とも言える。

 さて、演奏者の音色の「暗い」「明るい」について言えば、たぶん音色が暗く感じられてしまうのは多くの場合、旋律がつくる音楽の輪郭がはっきりしないでぼやけてしまっている場合ではないだろうか。例えば楽曲中にフォルテと書いてあっても、メロディだけはフォルテで、他の 音は本当になでるように小さなぽかした音で弾かなければうまくいかないこともある。そういったコントラストの問題が大きくあるのではないかと思う。そして、印象として「暗い」と思われる理由の一つとして、リズム感が重いということも原因の一つかもしれない。

 しかし、一般的にそういったことを全部ひっくるめて「暗い音」「明るい音」という言葉を使う傾向があるような気がする。先生が生徒に対してアドヴァイスするという点から考えれば、もっとより的確なボキャブラリーを増やす必要もあるのではないだろうか。これは現在ピアノを 勉強している人にとってだけでなく、将来教える立場に立ったときにも必要となる事柄だ。



「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 4 テクニック」

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