横山幸雄ピアノQ&A136 から  Q49 やわらかな音を出す方法は?

HOME > メディア > コラム > 横山幸雄ピアノQ&A136 から  Q49 やわらかな音を出す方法は?
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Q49. モーツァルトのピアノソナタをいろいろなCDで聴いたのですが、どうも音色が気に入りません。音がかたくてキンキンしているように聴こえてくるのです。どうしたらもっとやわらかな音でかわいらしくてしっとりしたタッチで演奏できるのでしょうか。



 これには二つの点から考えることができると思う。CDという機械が、果たして本来のその人の出そうと思っていたピアノの音色を正確にとらえきれているのかという問題点。そして聴く人自身がどういう感性でもって、どういう音をイメージして聴くのかという点である。

 作曲家と演奏家という本質論に立って言えば、モーツァルトの時代には現代のピアノはなかったわけで、モーツァルトが想像した音で演奏をしようと思ったら、古楽器を使った演奏に限られてしまう。ただ「古楽器」という言葉が示しているように、モーツァルトにとって当たり前で新鮮であったはずの楽器も、現代から見れば古めかしい楽器となってしまう。音として物理的に同じような音が嗚ったとしても、昔の人と現代の人とではそれをとらえる人間の感覚が違うわけだから、モーツァルトが新鮮に感じていた音色を我々は新鮮に感じることはできないという、矛盾を含んでいるわけだ。

 僕の想像としてはおそらく、演奏家がそういうキンキンした演奏をしたかったというよりも、その楽器がもともとそういう音を発する楽器であったという可能性が一番高いような気がする。また録音のマイクや技術者の感性でつくられるものもあるだろう。どんなマジシャンのようなテクニックを持った超一流のピアニストでも、その楽器の性能を超えることはできない。突き詰めて話をしていけば、理想の楽器というところに行き着いてしまうわけだが、演奏家の立場からすれば、演奏会1回1回の与えられた状況でベストを尽くすしかない。そのときに持つ印象が楽器のせいなのか、ホールのせいなのか、演奏者の特徴なのかをとらえるのは、人の演奏を聴く場合において、判断をするのが難しい部分である。

 モーツァルトに限って言えば、後のロマン派や近代の作品のように、現代ピアノの性能をフルに生かして演奏するために書かれた作品ではないので、現代ピアノの持っている音色のすべてを使うことが難しいとも言える。プロコフィエフで使うようなフォルテをモーツァルトで使ったらやっぱり変だ。しっとりとした音でモーツァルトを聴きたい、そのイメージはとてもよくわかるが最終的に大きな問題になるのは、果たしてそういう音に調律師の技術でつくることができても、 同じ楽器でラフマニノフのコンチェルトを弾けるのかということだ。ピアノのコンサートでは曲によって楽器を変えるわけにはいかないのだから。僕としてはどちらも表現可能な楽器が理想のピアノだけれど、そうなかなかお目にかかれるものでもないのが現状だ。



「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 4 テクニック」

もくじへ
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 
KAWAI
YAMAHA WEBSITE