横山幸雄ピアノQ&A136 から  Q44 タッチの秘密

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Q44. 先日、「指と鍵盤の角度が垂直になるように、第一関節からふり下ろすように打鍵するように習ったが、日本では違うのか」と聞かれました。自分自身は、あまり指を立てるのは現代のピアノには向かないと習っていましたし、高い位置からふり下ろすたりすると、音がかたくなったり、いい音にならないのではと思っていたのですが、どう考えるのが適当なのでしょうか。



 素晴らしい成績を残すスポーツ選手の大半が、科学的分析による理論を採り入れているのに比べて、ピアノの奏法メカニズムは、あいまいで主観的なことが多く根拠のないものだらけというのが現状だ。

 まずタッチとは何なのか。ごくごく単純にわかりやすく言えば、止まっているところから下方向へ約10mm動く鍵盤をどう動かすかを指している。そして、その鍵盤の手前のほうから見て奥のほうにはハンマーがあって、そのハンマーが弦に当たる瞬間の速度によって、音量や音色は無限に変化する。一度力が加えられて動き始めたハンマーは常に加速か減速をしていて、さらにハンマーフェルトの弾力を考え合わせると、ハンマーの先端が弦に到達してから最終的にはねかえるまでにもわずかな時間が存在し、その間のわずかなハンマーの動きが音量もしくは音質を決定する。また、ハンマーは鍵盤の向こう間に直接ついているのではない。複雑でどれも必要なアクション機構を経て、間接的に鍵盤に対してシーソーのように動くようになっている。いずれにしても「(演奏者が直接触れることのできる)鍵盤によって、ハンマーの動きをコントロールすること」という認識をもって接して、はじめてタッチの話が成り立つ。

 良いタッチとは、このコントロールの可能性の幅を広く持つことであり、音が美しいと感じるピアニストの奏法は、その組み合わせ方がうまくできている場合を指す。そういうことを無視して、指を立てたほうがよいとか寝かせたほうがよいとか、指の腹で打鍵したほうがよいとかいった話はあまり意味がない。

 例えば指先を立てて打鍵するより、指の腹で打鍵したほうがやわらかい音がすると感じることがあるのは多くの人の指摘することだ。指先のかたい部分で打鍵した場合、鍵盤と指先の衝撃がまず無駄なエネルギーとなるし、止まっていた鍵盤は、その瞬間の一撃で勝手にハンマーへ向かって進んでいってしまう。それに対して指のやわらかい部分で打鍵されたときには、その指のクッションが衝撃を受け止めてくれるし、ハンマーの動きはじめの速度が遅くなり、その後の弦に達するまでの速さのコントロールがしやすくなる。これは指の腹というだけでなく、指の表面の弾力(いわゆる個人的な体質から くるものも含めて)に関係しているはずだ。

 少し難しいかもしれないが、ハンマーの動きはじめが、打鍵する指に感じることができればしめたものだ。 逆にすばやいパッセージを弾くには指は立てていたほうが、敏捷性があるはず。これは人間の手の構造の問題で、誰でもやってみればわかるだろう。このことを理解する早道は、やはりアクションを含めて「ピアノという楽器をまず理論的に理解すること」と言える。

 ちなみにここに書いたことは僕自身の考えであり、他の多くのピアニストが同じように考えているかどうかは定かでない。また、純粋に単にメカニズムについて書いているのであって、そのことと表現される音楽の芸術性とは、また違った問題であるということも忘れてはいけない。



「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 4 テクニック」

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