横山幸雄ピアノQ&A136 から  Q24 海外留学

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Q24. 最近は国内でも外国の先生が講師をされていたりするので、お金をかけて海外へ行かなくてもいいかなと思い、留学しようか悩んでいます。どのような基準で留学先を選ぶべきなのか、海外留学のメリットはあるのか、アドヴァイスをください。



 海外留学に対して何を求めるのか。質問にもあるように、今のご時世、日本にいてもたくさん外国からピアノ教授がやってくる。ならば、なぜわざわざ外国にまで出かけていって勉強するのか。

 僕は留学というのは、「誰に習うのか」と同じくらいに大事なこととして、「どこに住むのか」という点が挙げられると思う。ショパンやドビュッシーなど多くの作曲家が住み活躍したパリや、モーツァルトやベートーヴェンなど挙げたらきりのないくらいの作曲家を育んだウィーンをはじめ、ヨーロッパ各地の街には西洋音楽を勉強する上できっとヒントとなるような伝統のエッセンスがあふれている。ベートーヴェンがもし日本に生まれ育っていたらあのような作品を書かなかったと僕は思うが、ということは、かつての大作曲家が教育を受け、活躍したのがどこの街であったか、ということはとても重要なことではないだろうか。

 音楽に限らず文化的なものというのは、環境と過去の蓄積の上に成り立つものだろう。僕の考えでは、どんな天才も教育と伝統なしには花開かない。日本にはそういった意味で、教育はあっても西洋音楽の伝統があるとは言えない。そのためにも留学は意味がある。

 次に言えることは、音楽教育の過程において一般的に留学を考えるような年齢、つまり20歳前後に先生が変わっても、180度演奏を変えることは難しい、ということである。音楽の進歩も人の体の成長と一緒で、早い時期に身につけたほうが吸収も良い。

 僕のところにも自分の勉強の方法に自信を持てない学生が時折訪ねてきて、アドヴァイスをすることもあるけれど、そのときにいつも難しく感じるのが、今の時点で何ができるのかということだ。それまでにその学生が質の良い教育を受けていればさらにその上へとステップアップができるけれど、基本的な部分に欠点がある学生も少なくない。そういう場合、その部分を徹底的に勉強しようとすれば、学校の試験などのカリキュラムに支障が出ないとは限らない。

 ところで、留学についてだが、現実にはそう甘くない。海外に出かけても成果が出せなかった場合、留守にしていたブランクで日本における受入先がいつもあるとは限らない。実際には、日本の学校を卒業して、やることがなくなってしまったから留学してみた、という人も少なくないらしい。言葉の壁と一人暮らしの寂しさ・・・などの現実の厳しさに精神のバランスを崩すこともなくはないだろう。
 要は本人がどのくらい留学してみたいと思っているかで決めてよいのではないかと僕は思う。最近は航空運賃も安くなり、とりあえず1ヵ月という単位で試してみることもできるだろう。そこで得るものがあるのかないのか、身をもって実感するのが何よりかもしれない。



「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 2 学ぶ・教える」

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