横山幸雄ピアノQ&A136 から  Q22 ダブルレッスン

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Q22. 今師事している先生は、テクニックの面など非常にていねいに教えてくれるし、音楽的にも自分が表現したいものをうまく引き出してくれる素晴らしい先生だと思っています。ただ、今度コンクールのためにドビュッシーを弾かなければならないのですが、先生はドイツものが中心でフランスものはあまり得意ではないようです。他の先生にも少し見てもらいたいと思っているのですが、破門と言われたらどうしようと考えるとこわくてなかなか切り出せません。


 なぜか日本では、先生を変えたり、並行して他の先生に見てもらったりすることが非常にやりにくい環境のように見受けられる。本質論から言えば、あくまでも生徒の側がお金を払ってレッスンを受けているわけだから、先生に無理やり引き止められる筋合いはないであろう。

 だが、熱心な先生であればあるほど生徒を自分一人で抱えたがる傾向があるようだ。それによって、非常に親密になり音楽的にもより深く得られるものもあるだろうが、周りが見えなくなってしまうという危険性も含んでいる。一方で、他の先生に自分が教えていること(教えられていること?)がばれてしまうという恐れ、あるいは自分のやり方を教えたくないという気持ちが、先生側にもあるような気がする。

 もし先生と生徒の間に信頼関係が築かれていれば、ある時期に自分以外の先生に見てもらいたいと生徒が言い出したときに、その生徒の言うことを信頼することもできるであろう。また「自分以外の先生につくことによって得られるものがある」と思える先生というのは、基本的に自分自身の教えていることに自信があるからこそであろう。逆に生徒のほうも、先生と生徒の信頼関係ができていれば、「先生は本当に今の自分に必要だから、これをこういうふうに教えてくれている。だから他の先生のところに行かないほうがいいのではないか」と自ら感じるはずだ。

 しっかりと基礎が出来上がった学生ならば、いろいろな先生からさまざまなアドヴァイスを受けても、自分の中でうまく選択していけるだろが、例えば中学生ぐらいの年齢では奏法や音楽のつくり方がバラバラになってしまって、どう弾いていいのかわからなくなってしまう可能性もあるから、自分のスタイルが固まっていないうちは先生を変えないほうがいいという意見もあるようだ。確かにそれも一理あるが、結局それを取捨選択するのは本人なわけで、その取捨選択する場を取り上げてしまう権利は、先生にはない。本当に生徒のことを思って言っている場合もあるだろうが、その場合でも他のやり方を見てみるということがマイナスになるとは思えない。生徒に才能があれば、どの先生がどう教えようが関係がないとも言えるわけだし、そうでなかった場合においても、広く世の中を見てみるという点からもマイナスには働かないと思う。

 僕自身はフランスに留学してからショパンコンクールまでの間に、公開レッスンなどで一度だけという先生も含めれば、20数人の先生に聴いてもらっている。より多くの人にアドヴァイスを受けることは、僕にとってはプラスになったし、一般的にいっても、決して悪いことではないのではないだろうか。



「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 2 学ぶ・教える」

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