ウィーン少年合唱団の“響き”

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ウィーン少年合唱団の“響き”
ウィーン少年合唱団インタビュー

今年も天使の歌声がやってきた!
あのシューベルトも団員だった、歴史あるウィーン少年合唱団の来日ツアーが今年も始まりました。
天使の歌声をつくる秘訣は? 団員は歌いながらどんなことを考えているの?
来日中のヴィルト先生、キム先生と団員たちに聞きました。
質問者:四野見和敏(指揮者)
(こちらの記事はうたの雑誌「ハンナ」2014年5月号掲載記事です)

三つの大切なこと

四野見 現在、ウィーン少年合唱団の日本ツアーが行われていますが、今日は伝統ある“ウィーン少年合唱団の響き”に対するヴィルト先生の考え方をお聞きします。
ヴィルト 私たちの響きに対してその特徴を解明することは大変難しいです。それぞれの方がこの響きを独自の解釈で捉え、その特色を言い表しているからです。しかし私たちは、ウィーン少年合唱団の響きを作り、それを受け継いでいく上で大切にしていることがあります。まず第一に、その子どもが本来持っている音色や響きの特性を生かすための個人指導をしています。そこには全ての子どもが、同じ音色で歌うべきだという考えはありません。全体の響きの基盤となっている子ども一人一人の声は個別差があり、体や性格がそれぞれ違うので統一されたやり方での発声指導はしていません。発声の個人レッスンにおいて指導者は、子ども一人一人の声から質の良い響きを見つけ、それを育てることを目標としています。その子どもに一番合った方法からスタートし、次第にあの伝統的な響きに近づけるように導いていきます。
 二番目に大切なことは、体によく共鳴した響きを創り上げることです。私たちは、例えばイギリスの少年合唱団と同様に、かなり多くのレパートリーを持っているので、どんな曲でもその良い響きで歌わなければなりません。例えばルネッサンスのモテットの真っ直ぐなメロディーラインを歌う時は、声を充分に体で支えて歌います。また私たちが毎週日曜日にモーツァルト、ハイドン、シューベルトのミサ曲を歌ったり、ウィーンフィルと一緒にブルックナーのミサ曲を歌う時などは、少年合唱団といえども、体を使った力強い響きが必要です。ただ軽い頭声で綺麗に歌うことはできません。この場合は体をよく使って共鳴させる発声が必要なのです。合唱指導者、ヴォイストレーナーは注意深く観察しながら子どもの声帯、筋肉を開発していかなければなりません。どんなふうに体を使うと効果的か、どこの難しさがあるのかを気づかせたり、子どもの変化していく成長過程を見守りながら援助していきます。
 三番目に大事なことは、響きに対するイメージを持たせることです。一部の子どもたちを除き私たちのところに来る子どもたちは、最初は普通の一般人の子どもたちと同じように、響きに対するイメージは乏しいのです。私たちのところに初めて来た子どもは先輩の子どもたちと一緒に響きをつくる体験をさせます。合唱全体の響きの中でまわりの子どもたちがどんな声で歌っているかを聴いたり、ソリストがどんな声で上手に歌っているかを聴かせます。この聴く体験は、ウィーン少年合唱団の響きのイメージを共有することを目的とし、その理想的な響きのイメージを常に念頭に置き、それに少しでも近づくために個別の発声レッスンをします。

団員に聞く

四野見 それでは団員の皆さんに聞きます。ウィーン少年合唱団の中で歌う時、どんな点に難しさを感じますか。あなたが歌っている時、今うまく響いているかそうではないか自分でわかりますか?
マサヤ はい、わかります。僕は歌いながら自分の声をよく聴いているからです。ある音域ではよく響いたりしますが、ある音域ではうまく響かせることができないことはわかります。そんな時は声帯が変になります。
四野見 皆さんが最初にウィーン少年合唱団に入団した時は、自分の声をうまく響かせることは難しかったと思います。声をうまく響かせていると感じたのはいつごろですか?
フィリップ 初めは非常に難しかったです。自分で良い響きを生み出すまでは、半年ぐらいかかりました。
アドリアン 僕は今回初めてウィーン少年合唱団の団員として日本で歌います。最初は難しかったけれど、これまでヴォイストレーナーの先生や指揮者の先生のおかげで、うまく歌えることができました。
四野見 発声に関して具体的に先生にお聞きします。呼吸との関係ですが、どのようなポイントで練習をしていますか?
ヴィルト 毎日の合唱練習の前は個人レッスンで定期的に呼吸法のトレーニングをしています。歌にとって良い呼吸法を身に付け、それを歌唱でいかにうまく機能させるかが重要なポイントです。例えば息を出す反動から吸う練習、呼吸と発音の関係などを練習します。これらの練習を通して大切なのは、身に付けたことが歌に素早く応用できることであり、最終的には自動的にあるいは無意識にできるようになるのが、このトレーニングの目標です。
四野見 キム先生、あなたは基礎トレーニングに対してどんな考えをお持ちですか?
キム ヴィルト先生と同じ考えです。これらの基礎トレーニングを通して、体がいちいち考えなくとも正しい呼吸に対応できるようになります。合唱練習の時にその効果が活かされます。

頭声共鳴の獲得

四野見 頭声共鳴の獲得には、どのような練習をしていますか?
ヴィルト 頭声共鳴は我々の響きの根本を成す重要な要素です。ウィーン少年合唱団は他の合唱団と比べて広い音域を持ち、部分的にはソプラノが非常に高かったり、アルトが非常に低く歌ったりしますが、私たちは胸声に頭声発声をブレンドさせた響きを追及しています。今日では日本でもそうだと思いますが、ヨーロッパでもこの方法は重要視されています。ヨーロッパでは小学生の多くは低い音域(胸声)で歌わせますが、子どもには高い音域を響かせる頭声共鳴があることがわかっているので、ウィーン少年合唱団ではさまざまなトレーニング、特に筋肉を引っ張る練習をして、低い音域(胸声共鳴)に頭声共鳴をミックスさせるように導いていきます。
四野見 横隔膜を使った呼吸法について、その練習にはどんなものがありますか?
ヴィルト 横隔膜を使った呼吸法の獲得のためにさまざまなトレーニングをしています。最初の段階としての練習は、横隔膜の存在を知り、それがどのように動いているのかを体験させます。床に寝て呼吸してみたり、起きて体を動かしながら呼吸してみたり、子どもが体のどの部分を使うと横隔膜が動くのかを意識させる練習です。その後、リズミカルに子音を発音しながら腹筋を積極的に動かす練習を加えていきます。息を吸い込む時に無理に吸うと体がこわばるので、横隔膜を使った呼吸により体を緊張させないようにします。そして、常に横隔膜が自動的に反応し、無意識に素早くできるようにします。

響きに影響する要素

四野見 それでは最後に、ウィーン人の国民性や独特の発音は、ウィーン少年合唱団の響きに影響を与えていると思いますか?
ヴィルト 私たちの響きに影響を与えている要素は、さまざまな点から見ることができます。まずは、ドイツ語自体が表情豊かな言語だということです。とりわけシューベルトやシューマンの作品などにおいては、それを歌う人間の表情や感情と一体となったドイツ語の響きが味わえます。したがって国民性の違いも、おのずと響きの違いにも表れてくると思います。
 ウィーン(オーストリア)の人々にはGemütlichkeit温かく、居心地の良さを大切にする国民性があります。ドイツ人のようにあまり厳格で厳しくはありません。ウィーン人は穏やかであるがエモーショナルなところもあり、この二つの要素がウィーン少年合唱団の響きを形づくっています。また、ウィーンの発音(ウィーンなまり)の影響もあります。したがって私たちの響きはまろやかでふくよかな響きです。それはウィーンフィルの弦楽のようにたっぷりと芳醇な音色でもあり、これが私たちの伝統的な響きでもあるのです。
(うたの雑誌「ハンナ」2014年5月号より)

この記事を掲載のハンナ2014年5月号はこちら
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