
Q34. 先生は毎日ハノンを30分は弾きなさいと言いますが、面白くないし退屈でたまりません。もっといろいろな曲を弾いたほうが楽しいと思うのですが・・・。
スポーツの分野でも基礎体力をつけるための基礎トレーニングが好きな人と、例えばそれを応用した実際のゲームが好きな人がいて、これには個人差があるようだ。比較的理論的にものを考える人は、音楽でいうハノンのような肉体的な基礎トレーニングをわりと苦にしないように見受けられる。なぜなら「どうして今それをやらなければいけないのか」ということを理屈で考えられれば、弾けないまま曲に突入して、そこで壁に当たるよりも効果的だということが理論的にわかるからである。ただ楽しさだけを追い求めて音楽やスポーツなどをやった場合、確かにハノンや基礎トレーニングが面白くないという意見もよくわかる。
かつての旧ソ連時代には、10歳を優に超えるまで、まともな曲はまったくやらずハノンと指の訓練しかしなかった人もいるなどという話を聞いたことがあるが、その結果出てきた演奏はピアノを弾く機械人間みたいなものだった。やはり「何のために機械的な、もしくは技術的なトレー ニングをしなければいけないのか」を感じていなければ、やる意味がないと僕自身は考えている。
自分が弾きたいと思う作品とともにハノンを正しく勉強していれば、ハノンを勉強したことによって得られた技術は普通の楽曲を演奏するときにも応用できるはずで、その楽曲がよりうまく弾けたという充実感があれば、ハノンの勉強も少しは楽しくなるのではないかと思うし、むしろ「必要だな」とさえ感じることもあると思う。しかし、どうしても退屈だと感じたり、必要性を実感できないのであれば、やってもしょうがないだろう。
ちなみに、僕自身はハノンを使ったことはない。似たような課題を少しやったことはあるが、なぜこれらを勉強しなければいけないのかということを考えたときに、例えばそれが3と4の指の独立であったり、親指をくぐらせる練習だとわかると、そういう既成の楽譜をわざわざ使わずに、自分で適当なパッセージを考えて練習をしたりした。教材としてのハノンは決して悪いものだとは思わないし、その発展型としてのピシュナなどは非常に効果的なものだと思う。ピシュナの中にも、僕にとっては比較的練習せずに楽に弾けるものと、難しく非常に指に効果のあるものがあったので、中学、高校時代には短時間ですむ形に自分で適当に直して勉強したこともあった。
また、ハノンの中にある音階とアルペジオに関しては、ピアノの奏法上とても必要なことなので、一定レヴェルより上の演奏を目指すのであれば、これらはある時期、集中して練習する必要があると思うし、それらがうまくいかないのに他の曲をどんどん演奏するのは、手の形や指使いの自然さ、調性感など、いろいろなことを考えた上でも非常に危険なことであるとさえ言えるだろう。ある種の才能のある人は、ことさら練習しなくても音階などすぐに弾けてしまうかもしれないが、たとえそうであっても、調性の確認のために一度はスムーズに弾けるまで弾いてみて悪いことは―つもないだろうと思う。
「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 3 ピアノ練習法」
もくじへ