楽器の事典ヴァイオリン 2章 オールド・ヴァイオリンの名器 44 謎に包まれた人物 

HOME > メディア > 楽器の事典ヴァイオリン > 楽器の事典ヴァイオリン 2章 オールド・ヴァイオリンの名器 44 謎に包まれた人物 
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

謎に包まれた人物

 ガルネリ・デル・ジェスほど謎に包まれたヴァイオリン・メーカーはいない。
 その作り出した楽器が、ある時代にはストラディヴァリウスを凌駕する驚異的な性能を持ち、その後、突如として、「ドランク・ヨーゼフ」あるいは「ドラック・ヨーゼフ」などともよばれるいかがわしいヴァイオリンに化けたのを始めとして、出生および死亡の年代すら判然としないのである。
 ヴァイオリンの専門書を見ても、次の通り、さまざまな記録がある。
 b.1687、 d.1742
 b.1686、 d.1742
 b.1683、 d.?
 なお、比較的新しいアメリカの研究書によると、1698年8月21日生まれ、1744年10月死亡とある。
 さらに、クレモナに残されている古文書によれば、1702年までは彼の記録が残されているが、不思議なことに、それ以降の記録は全くないという。
 その上、さらに奇妙なことに、彼の家系すら判然とせず、実はバーバラ・フランチ ーこの人物については解らないー の息子であるとの記録もある。

 貧乏と芸術は同意語である。 ―という言葉が残されている。
 
 古来、その例は多い。音楽としてのベートーヴェン、シューベルト、あるいは画家としてのゴッホ、モジリアーニなど、本当に貧乏であったかどうかは解明できないが、後の世の人びとは、彼らを題材にして、さまざまな興味のある伝え話を作り上げた。
 極貧と逆境と戦って芸術上の偉大な功績を残したというフィクションは、ロマンの上でも、ドラマとしても誠に魅力のあるものである。真偽のほどは別として、デルージェスの生涯には、同じような、信じられないようなエピソードが残されていて、真面目一点張りであったストラディヴァリとは逆に、成功と挫折が入り乱れ、波乱曲折の短かい人生を駆け抜けたというロマンがある。天才とか超能力というものは、習練の積み重ねと必死の努力によって得られるものではなく、突然の才智の閃きで現れるもので、その反面、注意散漫、茫然自失あるいは奇行・愚行を伴うことがあると云われている。
 デル・ジェスの作り出したヴァイオリンには、文字通り、古今東西を通じての、最高な絶品のかずかずがあると同時に、欠点が如実に現れたもの、あるいは劣悪なものなどが、玉石混淆の状態で混り合っていると伝えられている。
 以下、デルージェスが残した楽器の形態や音色で権威者たちが区別した、彼の生涯の4つの時期について記録をたどってみよう。


楽器の事典ヴァイオリン 1995年12月20日発行 無断転載禁止



▶︎▶︎▶︎2章 45 最初の時期(1710~1721年)ー徒弟時代
▷▷▷楽器の事典ヴァイオリン 目次

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 
KAWAI
YAMAHA WEBSITE