楽器の事典ヴァイオリン 2章 オールド・ヴァイオリンの名器 25 フランチェスコとオモボノ

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フランチェスコとオモボノ

 ストラディヴァリの死後、彼の息子のうち二人がその仕事を引き継いだと伝えられている。
 フラッチェスコ・ストラディヴァリ1671~1743)とオモボノ・ストラディヴァリ(1679~1741)である。
 この二人の人物牡、イタリアのオールド・ヴァイオリンのメーカーたちのうちで、最も謎に満ちた、不可解なものである。
 父の死に際して、この2人の息子は、仕事場に残された相当数の未完成の楽器を引き継いだに違いない。なお、不満足な完成品も少なからずあったはずである。 ーストラディヴァリは、若い頃には不満足な楽器は焼き捨ててしまったが、晩年にはこのようなことはしなかった。ー
 さて、息子たちは、これらの楽器を、自分たちのラベルをつけて、売ったのではないかという疑問が残る。
 
 (注) コジオ伯爵の記録によれば、ストラディヴァリがこの世を去っだとき、仕事場に残っていた楽器の数は、ヴァイオリンが91本、ヴィオラが数本およびチェロが1本、さらに、装飾つきの楽器が1組 ー多分クァルテットのものであろうー であったとある。なお、製作の記録は全く残されていなかった。良心的なメーカーは製作の記録を残すはずであるが、ストラディヴァリは、その手紙の中のスペリングをたびたび誤るほどであったので、記録を作るのが苦手であったと思われる。
 この疑問に対して、次に列挙するような、さまざまな説が残されている。
 
 ☆ストラディヅアリの晩年の作品のある程度の数は、誤って、彼の息子たちの名前となっている。しかし、彼は決してこの事実を確認して売ることはしなかった。
 ☆フランチェスコーストラディヴァリの作品は、彼の父のヴァイオリンのように天性の素質を持ったものではなかったが、当時のクレモナのものとしては、最も芸術的な楽器であった。
 フランチェスコは、アントニオーストラディヴァリとカルロ・ベルゴンツィの楽器の優れた点を合わせて、音質の極めて優れたヴァイオリンを作り出すために努力したのである。
 ☆フランチェスコについては、彼の作った楽器は1本もないので、未だに明白には解っていない。しかし、オモボノは極めて優れた能力を持ったメーカーであった。当時のどのメーカーよりも、その父の技術を忠実に受け継いでいる。
 ☆オモボノは、修理と販売ばかりしていて、ほとんどヴァイオリンは作らなかった。
 ☆オモボノの楽器は3本残されているが、その製作年代がすべて1740年で、いずれも、疑いもなく本物である。
 特にそのうちの1本は、父の晩年の作品に酷似している。f字孔、胴のアーチ、ハーフリング、美しい材料および赤褐色のニスなどの素晴らしさはそっくりである。とても修理ばかりをしていたメーカーの作品とは思われない。
 ☆現在までにフランチェスコの作品として確認されたヴァイオリンは1本もない。しかし、ホッティンガーのコレクションのなかには美しいフランチェスコの本物の楽器と云われるものが1本あり、これを購入したウーリッッアー社のカタログでも、この楽器を「フランチェスコの最高なヴァイオリンでその保存状態も最高である。」と述べている。それは1742年の作品で、コジオ伯爵がフランチェスコの弟のパオロから購入したストラディヴァリの遺品の楽器のうちの1つで、「サラブエ」と名付けられている。ウーリッッアーは、このヴァイオリンが驚異的な音色とレスポンスをもっていたために、最後まで、誰にも売らなかったと伝えられている。
 フランチェスコは、1743年の11月5日にこの世を去っている。
 この日に輝やかしいストラディヴァリの王国はその終焉を迎えたのである。
 
 アントニオ・ストラディヴァリの最後の息子であるパオロは、父親が50年以上も仕事をしていたピアッツア・サン・ドメニコの家の1階で織物の店を開いていた。しかし、1746年頃に、都合のよい場所を求めて、クレモナのドーモ ー教会― の近くに移動した。
 アントニオの古い弟子であるカルローベルゴンツィがその仕事を受け継いだが、彼は、不運にも、その翌年に死んでいる。結局、アットニオ・ストラディヴァリの仕事場は、1776年に、パオロの息子である、アントニオ・ストラディヴァリという同名の孫によって売られてしまった。


楽器の事典ヴァイオリン 1995年12月20日発行 無断転載禁止



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