楽器の事典ヴァイオリン 2章 オールド・ヴァイオリンの名器 26 装飾の付いた楽器

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装飾の付いた楽器

 15、16および17世紀の有名なヴィオールのメーカーたちは、彼等の作る楽器に装飾をつけたり象眼細工をほどこすことに誇りを持っていた。
 当時の楽器の愛好者であった王侯貴族たちはこれらの、美術品としての一面を持つ、ヴィオールなどを好んだのである。
 その代表的なメーカーとしては、ドイツのハンブルグのヨアヒム・ティールケ(1641〜1719)がいた。
 彼は、優れたヴァイオリンも作ったが、驚嘆するほどに美しい象眼細工のつけられた、芸術的なヴィオールやギターなどを残している。
 初期のヴァイオリン・メーカーたちはこの傾向を受け継いでいた。例えば、アンドレア・アマティがフランス王シャルル9世のために作った24の楽器には、すべて、王の象徴である装飾がつけられていたし、二コロ・アマティも、ルイ14世のフランス宮廷のために、デコレーションのついた美しいヴァイオリンを作っている。
 なお、当時には、装飾的なデザインあるいは絵画がつけられたものあるいは象眼細工がほどこされたものの他に、コーナー、ペグまたはテール・ピースなどに貴重な宝石が埋め込まれた楽器さえ作られていた。
 ストラディヴァリも、このような装飾つきの楽器を作っており、そのデザインその他の技術は最高なものであった。
 現在残されているこの種の楽器の数はわずか11本 ーつまりヴァイオリンが8本、ヴィオラが2本とチェロが各1本ー である。
 最初に作られたのは、1677年製作のアマティ・モデルのもので、最後の楽器は、1722年の、「ロード」と名付けられたものであった。
 ストラディヴァリは、当時の高貴な人びとのために、細密な描写、つまり花、果物、アラベスク模様の装飾がついた楽器あるいは、黒檀、象牙などの象眼細工を加えた眼を奪うような美しい楽器を作ったのである。
 それらのなかに、1709年の、スペイン王のフェリペ5世のために製作した3本の美麗なヴァイオリンがある。
 装飾つきの最高の楽器は、1709年の、「グレフュール」と名付けられたヴァイオリンであり、言葉では到底表現できないほどの芸術性を持っていると伝えられている。
 これらの貴重な楽器のうちの1本がわが国にもある。1677年作の、「サンライズ」である。
 アーナルド・バルツィが残した「ストラディヴァリの家庭」という本のなかに、次のような記録がある。
 ーストラディヴァリは、最初の結婚をした1667年から後の数年間、つまり1667年から1680年までは、あまり多くのヴァイオリンを作っていない。その理由は、彼は彫刻あるいは象眼細工をしたほうが収入が多く得られたので、ヴァイオリンの製作は副業となってしまった。ー
 超人、ストラディヴァリは、芸術家としても、飛び抜けたスーパーマンであったのである。


楽器の事典ヴァイオリン 1995年12月20日発行 無断転載禁止



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