フロイデ! ベートーヴェン交響曲第九番〜歓喜の歌の発音とうたいかた〜 実践編  一度きりの《第九》ではなく、息の長い合唱活動を! 合唱指揮者 郡司 博

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合唱指揮者からのワンポイントアドバイス

 

一度きりの《第九》ではなく、息の長い合唱活動を!     合唱指揮者 郡司 博

 

 第4楽章のあの有名なテーマは、素朴で単純なメロディーですが、これが、みごとな二重フーガの大合唱から、アダージョ、フィナーレと展開していくのが「歓喜の歌」です。まさにこれは、無から無限を生みだす人間の可能性の証明であり、クラシック音楽の神髄でもあります。
 最近、アマチュア《第九》合唱団全盛の中にあって、プロ合唱団が歌う《第九》をほとんどきけなくなってしまいました。この十数年、各地で《第九》合唱団を指導してきた私がこんなことをいうのも不謹慎ですが、ほんものの《第九》がきけなくなって残念な気がしています。数百人のアマチュアがどんなに努力しても、プロ合唱団のあの密度の濃さと迫力にはとうていかなわないと思います。
 《第九》という作品は偉大であるがゆえに、カザルスが「音楽を愛し、平和を愛する人々は全世界で《第九》をうたおう」と呼びかけました。現在のように、人類を破壊しつくしてしまう核の脅威がさけばれているとき、この作品をうたう意味は大きいでしょう。また日常の社会生活の中で、あまりにも人間性が失われ、ひとりひとりがばらばらになっているとき、そこへの参加者が、演奏会を成功させるために連係し努力していく体験は、ひとりひとりの人生に大きな財産になることは事実です。
 しかしそこにとどまっているだけでは、その偉大な財産も色あせてくるでしょう。まして《第九》の合唱部分をうたっただけでは合唱の喜びなど知るよしもないと思います。私たち合唱指揮者は、初めて参加した人にも、はやく音楽そのものの中に感動を味わえるようになって、一度きりの《第九》ではなく、息の長い合唱活動を続けてほしいと願っています。発声法や読譜力を学び、音楽的に自立した感性(同時にそれは近代西洋音楽への興味)を身につけて、みずから主体的に音楽づくりに参加できるようになってほしいものです。
 クラシック音楽は、かめばかむほど味が出てくるものです。一度口に入れただけでは、その奥深いよろこびを知ることはできません。著名な作曲家の作品には、必ずといっていいほどオーケストラ付合唱作品の傑作があります。これらの作品は私たちにつきることのない音楽の喜びをあたえてくれるでしょう。さまざまな作品にふれ、また《第九》にもどったとき、以前よりもっと《第九》の偉大さに気づくと思います。

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