羅生門[全2幕]久保摩耶子作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

M. Kubo, Rashomon 1993~1996

羅生門[全2幕]久保摩耶子作曲


登場人物❖

真砂(S) 多襄丸(たじょうまる)(T) 武仁(T) 裁判官(B) 木こり(Br) 僧侶(C-T) 武仁の姑(真砂の母)(Ms) 警官(T)

概説

 ヨーロッパで活躍する久保摩耶子のオペラ第一作。現代音楽に重点を置く「シュタイヤーの秋」音楽祭の委嘱で作曲され、同音楽祭の幕開けに上演された。原作とは一部役柄の名前が異なっている。さまざまなオーケストラの技法を駆使して、心理的な要素を高めている。

 

第一幕

 

 第一場 プロローグ 羅生門を法廷の場にした裁判。傍聴人たちの殺人の真実の解明を求める声がして、裁判官は彼らに静粛を求めてから開廷を宣言する。

 第二場 尋問  裁判官に対して、木こりはいつものように早朝人里離れた山科の先の森に杉の木を切るために行くと、藪の中で死骸を発見したと証言する。下草が踏み荒らされていたので激しく戦ったことを示しているが、凶器は見つからず、一本の紐と女の櫛だけが残されていたと言う。

 次の証人は旅の僧侶で、道すがら一組の男女を見かけたと証言する。顔は見えなかったが女が馬に乗り、太刀と弓矢を携えた男がその馬を曳いて歩いていたと言う。三番目に殺された武仁の姑(真砂の母)が証言する。彼女は娘真砂の所在はわからないが、娘と婿の武仁の二人は実家から若狭へ向かう帰途で、立派で優しい男だった武仁に恨みを持つような人は考えられないと言って嘆く。

 第三場 尋問  悪評高い盗人で、札付きの凛辱(りんじょく)者である多襄丸が警官に連れられて現れる。彼は自嘲気味に自ら極悪人であると名乗り、武仁殺しを自白する。警官は月明かりの中でいかに首尾よく犯人を捕えたかを報告する。しかし多襄丸は女の尻などは追わないと述べる。傍聴人たちは嘘つきめと言って騒ぐので、裁判官はそれを制止する。

 第四場 遭遇 多襄丸は犯行に至った経緯を供述する(バラード「そよ風だ!そよ風だ!この風がなかったらこの世も辛いな」)。それによると、いつものように食事をして昼寝をしていると、武具を持った男と馬に乗った女が通りかかって目を覚ます。多襄丸は男を殺してでも美しい女を奪おうと決心する。

 場面は武仁と多襄丸との回想となる。多襄丸は武仁を盗賊が隠した宝の場所へ案内すると言って森の中の墓に連れ込み、武仁を負かして杉の木に縛りつけた。そして夫の身に恐ろしいことが起こったと言って真砂を欺き、木に縛られた武仁のもとに連れて行った。

 第五場 凜辱 多襄丸の供述は続く。真砂は夫を助けようと隠し持った小刀を振るうが、逆に押さえられてしまい、多襄丸は真砂を手に入れた。

 間奏曲 木に縛られた夫の目の前で真砂は多襄丸に犯される。

 第六場 多襄丸の愛 真砂を手込めにして多襄丸はすぐに立ち去ろうとする。しかし真砂は二人の男によって自分の恥が知られたからには、男たちに生死を賭けて戦うよう求め、自分は勝ち残った男に連れ添うつもりだと言う。

 

第二幕

 

 第七場 真砂 真砂は自分が夫を殺したと供述する。凜辱された後、多襄丸は武仁を罵って去った。真砂は夫の軽蔑と嫉妬の冷たい目に耐えられなくなった。いっそ夫に殺されたほうがよいと思い、もはや夫婦として生きられないので一緒に死のうと決心したと言う。

 第八場 彼岸から あの世から武仁が供述する。妻の真砂が多襄丸に凜辱されたことによって、武仁は初めて心の安らぎを得た。このような行為が行われたのも真砂が多襄丸から愛されたからで、真砂が多襄丸に夫を殺すよう求めたのも多襄丸に連れ添わんとしたためだ。しかし多襄丸は自分を殺さずに縄を解いた。真砂は叫び声を上げて藪の中に逃げ込み、多襄丸がその後を追った。真砂が夫を殺してと言った言葉に深く傷つけられたので、武仁は自分で命を絶つ決心をした。

 第九場 フィナーレ 真実の歌 裁判の傍聴人たちの間で、真相についてさまざまな推論の声が上がる。多襄丸が武仁を殺したのだと言う人たちがいる一方で、真砂が夫を殺したと言う考えの人たちがいる。また別の人たちは武仁が自殺したのだと言う。そしていずれも自分たちの考えが真実だと信じて疑わない。裁判官は、真実を隠していると言う傍聴人の声に対して、真相は自分にもわからないが、真砂、武仁、多襄丸の三人いずれもが無罪であるしかし同時に三人が殺人者であると結論づける。傍聴人たちは裁判官を罵り、真実は自分たちで見つけるとの叫びを繰り返して走り去る。

 第十場 エピローグ 人々が去った後、真砂と多襄丸の二人だけが取り残される。多襄丸は真砂にお前が好きだと言うが、真砂は小刀を見つけるとそれを振り上げる

Reference Materials



初演
1996
年9月29日 グラーツ歌劇場(オーストリア)

日本語初演
2002
1115日 日生劇場(東京)

原作
芥川龍之介/「藪の中」

台本
久保摩耶子/ドイツ語(日本語台本とも)

演奏時間
第1幕55分、第2幕50分(日生劇場初演時)

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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