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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
イタリアオペラ
G. Donizetti, L’Elisir d’Amore 1832
愛の妙薬[全2幕] ドニゼッティ作曲
❖登場人物❖
アディーナ(S) ネモリーノ(T) ベルコーレ(Br) ドゥルカマーラ(B) ジャンネッタ(S)
❖概説❖
第一幕
第一場 のどかな農場前の広場。野良仕事の合間に農夫や娘たちが楽しそうに休んでいる。奥の木陰で本を読んでいる農場主の娘アディーナを、彼女に憧れている若い農夫ネモリーノがうっとりと眺めていると(「何という可愛い人だ」)、アディーナは読んでいる本が面白いと言って突然笑い出す。皆にせがまれて「トリスタンとイゾルデの物語」の一節を読んで聞かせ(「つれないイゾルデ」)、こんな惚れ薬があったら良いのにと言う。
その時、ベルコーレ軍曹が率いる兵士たちがやって来る。ベルコーレは村一番の娘アディーナにひと目惚れして花を捧げ、羊飼いパリスの神話に託して彼女にさっそく結婚を申し込む(「昔パリスがしたように」)。娘たちは彼の態度に好感を持つので、ネモリーノは悲観する。アディーナもベルコーレの申し出を内心嬉しく思うが、本気では取り合わないので、ベルコーレは兵士たちを引き連れて農場の中に向かう。
村人たちも仕事に戻り、広場にはネモリーノとアディーナだけが残る。ネモリーノはアディーナにおずおずと求婚するが、彼女は適当にあしらって自分をあきらめるように言う。それでもネモリーノが本気で自分を思っているのを知ったアディーナは、心の奥では彼を好ましく思いながらも表面では拒み続ける。
第二場 村の広場。ラッパの音がするので村人たちが何だろうと言っているところに、インチキ薬売りのドゥルカマーラが馬車に乗って現れる。彼は人々の無知に乗じて自分は名医だと称し、安ぶどう酒を万病に効く妙薬だと言葉巧みにまくしたてるので(「お聴きあれ、村の衆」)、皆は争って買い求める。
ひと商売が済んでドゥルカマーラが居酒屋に入ろうとすると、ネモリーノに呼び止められて妙薬をせがまれるので、安ぶどう酒を惚れ薬と称して高く売りつける。ドゥルカマーラは、有頂天になったネモリーノにその薬は一日経つと効き目が出ると説明して、その間に村から逃げてしまおうと考える。
薬を飲んで陽気になったネモリーノが鼻歌を歌っているので、そこに現れたアディーナはびっくりする。明日になればと、薬の効き目を信じているネモリーノは大きな態度をとる。そこにベルコーレがやって来るので、自尊心を傷つけられたアディーナは、ネモリーノへの当てつけからベルコーレの求婚を受け入れる。しかし薬の効能を信じるネモリーノは強気でいる。その時、伝令が予備隊は明日出発せよという命令書を持って来るので、ベルコーレはアディーナに今日中に結婚しようと迫る。さすがの彼女も躊躇(ちゅうちょ)するが、行きがかり上それを受け入れる。驚いたネモリーノは、せめて明日まで待ってくれと懇願するが、ベルコーレに追い払われ、皆にはお人好しぶりを馬鹿にされる。アディーナは皆を結婚の祝宴に招くと言うので、ネモリーノはドゥルカマーラに助けを求める。
第二幕
第一場 アディーナの農場の中。婚礼の宴席が華やかに開かれ、ドゥルカマーラも招かれている。ベルコーレが公証人を連れて来てアディーナに署名を求めるが、さすがの彼女も内心ためらって夜まで待つように頼む。ネモリーノは、もう一本薬を売って欲しいとドゥルカマーラを訪れるが、金の持ち合わせがない。来合わせた恋仇ベルコーレから、入隊すれば栄光と名誉と恋愛が約束されて大金がもらえると言われ、その誘いに乗る。ネモリーノはさっそく入隊契約書に署名して、すぐにドゥルカマーラを探しに行く。ベルコーレは、恋仇を入隊させるのは吹聴する価値があるとほくそ笑む。
第二場 夕暮れの村の広場。ジャンネッタや村娘たちが来て、ネモリーノの叔父さんが死んで彼に莫大な財産が転がり込むことになったと噂している。そこにドゥルカマーラからまた買い求めた薬を飲んで、良い気分になったネモリーノが登場する。 大金持ちになる彼を娘たちがチヤホヤするので、彼はてっきり薬が効いて来たと思い込んで気分が良い。ネモリーノが娘たちにもてるのを見て、アディーナは少々心配になる。ネモリーノもアディーナも遺産のことはまだ何も知らない。ネモリーノはドゥルカマーラに感謝し、ドゥルカマーラも自分のインチキ薬の効き目にびっくりする。ネモリーノは、薬の効き目でアディーナも自分に傾いて来るだろうと自信たっぷりである。
アディーナは娘たちの様子から、誰かにネモリーノを取られはしないかと不安を覚えてドゥルカマーラに相談する。そしてネモリーノが愛の妙薬を買うために自由を売って兵士になったと聞かされ、ネモリーノの真情を知ったアディーナは深く感動する。ドゥルカマーラは彼女にも愛の妙薬を売りつけようとするが、賢い彼女は、愛は自分の力で勝ち取ると言ってその手には乗らない。この様子を遠くから見ていたネモリーノは、目に涙を浮かべるアディーナの様子から、彼女の本心を知って感動する(「人知れぬ涙」)。
アディーナはベルコーレから入隊契約書を買い戻して来たと言って、契約書をネモリーノに渡し、自分のお陰であなたはもう自由になったと言う(「受けとって、あなたは私のために」)。それでも勝ち気な彼女は自分からは彼を愛していると言わないので、ネモリーノは愛されていないのなら軍隊に入ると言う。ついにアディーナも我慢しきれなくなって、二人ははっきり愛を確かめ合う。
兵士を引き連れて現れたベルコーレもアディーナをあきらめて出発する。ドゥルカマーラが、ネモリーノは叔父の遺産を受け継いで村一番の大金持ちになったと言うので、アディーナもネモリーノも驚く。ドゥルカマーラはすべて愛の妙薬の成せるわざと言うので、人々は争って彼の薬を買い求める。たちまち全部売り尽くしたドゥルカマーラは、人々の歓声に見送られて村を出発する。
Reference Materials
初演
1832年5月12日 カノッビアーナ劇場(ミラノ)
原作
ウージェーヌ・スクリーブ・オーベール/歌劇「惚れ薬」
台本
フェリーチェ・ロマーニ/イタリア語
演奏時間
第1幕67分、第2幕55分(フェッロ盤CDによる)
参考CD
● ボニー、ウィンベルイ、ヴァイクル、パネライ/フェッロ指揮/フィレンツェ5月音楽祭管・唱(DG)
参考DVD
●ゲオルギウ、アラーニャ、アライモ/ピド指揮/リヨン国立歌劇場管・唱(D)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止