私の指揮法――第2走者 岸 信介

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うたの雑誌「ハンナ」2014年1月号掲載記事
指揮者リレーエッセイ
私の指揮法 第2走者 岸 信介


「歌い手から指揮者へ」

 第2走者の岸です。リレーエッセイということで1走の清水敬一氏が颯爽と走り抜けて来られバトンを受けましたが、どちらかというと私は実際に走るのも短距離よりは長距離、合唱団との付き合いも長くじっくり、といったのんびりした人間かもしれません。
 私は国立音楽大学声楽科を卒業し、その後「日本合唱協会」に入りました。
 日唱は創設当初から精緻なハーモニーを追及するプロ合唱団で、長く音楽監督を務められた山田一雄先生には本当にたくさんの貴重な薫陶を受けました。私の指揮の原点は山田先生です。他にも和声を厳しく訓練してくださった増田順平先生、そして日唱に縁の深い秋山和慶、若杉弘両先生からも言葉に尽くせないほど教えを受けました。山田先生は怖いとか、指揮がわかりにくいとか、思い返すといろいろなことを言われていますが、とても人間的で、まさに音楽そのもののような方でした。ゲネと本番ではテンポが変わったり、指揮もわかりづらいのは、歌う側としては戸惑うこともあり、若かった私は先生に尋ねたこともありました。それは、私が未熟だったからですが、今になって山田先生の言われたことが、反芻するように栄養になっています。音楽はいつも流れていて、活き活きと形を変え、瞬間にきらめくように……それを歌う側から引き出すために指揮者は、音楽を推進させ、揺らし、時にはルバートする場合もあります。日唱での数年は私が現在まで合唱指揮者として歩む礎となりました。秋山先生は実に端正で美しく無駄のない指揮、ピノさん(若杉先生の愛称)は熱く情熱的な指揮、増田先生からは楽譜に厳しく妥協のないハーモニーを構築すること、そして山田先生からは人間的な血の通った音楽を体で伝えることを。
 また当時「プロ合唱団連合」(プロ連)が組織されていて、イタリアオペラの合唱やオケの合唱のステージの依頼をたくさん受けました。カラヤン、サバリッシュといった指揮者で数々の名曲を演奏できたことも貴重な経験です。
 さて私が指揮をする時、重要だと思うのは「呼吸」です。演奏者と指揮が一体となり互いに「音楽する」ためには、アインザッツをはっきり入れる、美しい図形を描くことに加え、アイコンタクトや指の先まで使って気持ちを伝えます。時には演奏者に委ねることもあります。私は小アンサンブルの人数から時には600人近い合唱を指揮するときもあり、ホールの広さや演奏者の人数によって全体を掌握しやすい距離感や指揮を変えますが、常に「呼吸」を感じることは変わりません。私の場合は指揮棒を使いませんが、合唱は人間の身体が楽器ですから、腕や指先まで使って「気」=「呼吸」を伝達し感じ合うことで信頼し、何かが生まれると信じています。
 指揮者はその人の持っている一番良い音を引き出し、ハーモニーすることで、一層色彩豊かな世界を創ることだと思います。古今、幾多の作曲家が紡いだ音を形にする喜び、いつも新鮮な気持ちで音楽に対峙し、これからも少しでも進歩したいと思っています。
(うたの雑誌「ハンナ」2014年1月号より)



次回は松浦ゆかり先生にバトンパス♪

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