
Q16. 今33歳ですが、小さい頃憧れていたものの家の事情で習えなかったピアノを娘とともに始めました。子どもとは進み具合も違うと思いますが、なにかアドヴァイスがあれば教えてください。
小さな子どもの場合、新たに習うことや新しく入ってくる音楽などすべてが新鮮なはずだが、おとなになってピアノをやる場合、かつてピアノを勉強したことがあってもなくても、この曲はこんなふうに弾けたら素晴らしいだろうとかいう理想のほうが、自分の思うように言うことをきかない指で出す音の新鮮さよりも上回ってしまって、もどかしい思いをすることが多いのではないか。これが子どもがピアノを勉強するときと大きく違うことだろう。
技術的なことからいっても、体が出来上がる前の子どもというのは、正しく訓練をすればしただけ吸収できるだろうが、体も成長が止まってしまったおとなには、それぞれの人に本当に合ったやり方をしなければ、進歩どころか指や体を壊すことにもなりかねない。
しかし、おとなになってピアノを始めるときには、大きな長所、プラス点がある。それは、自分が強くやりたいと思って始めている点である。子どもたちの場合は、親に勧められて、または強制的にレッスンに通わされてというケースが多いだろう(僕自身は気がついたときにはピアノを弾いていたのではっきりとした記憶はないのだが、親から聞かされている話の限りでは、強制されてピアノをやったということはあまりないようだが)。だから、多くの子どもたちと比べて、おとなになってからピアノをやろうという人のほうが、強いモチベーションがある場合が多いのではないだろうか。
特に先生について勉強しようという場合、そのモチベーションをプラスに生かすために一番大きな要因となってくるのが「先生との相性」だろう。おとなになって始めるということは、プロになって世界で一番の演奏をしようと思って始めるわけではないだろうから、その人にとって心地よい、気持ちのよい演奏ができればいいわけである。その辺をうまく理解してくれる先生とめぐり会ったときに、幸せな音楽生活を送れるのではないだろうか。
「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 2 学ぶ・教える」
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