横山幸雄ピアノQ&A 136 から Q7 アンサンブルの極意

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Q7. 室内楽の勉強をしたいと思っています。周りの環境からいっても、なかなかチャンスはないのですが、「アンサンブルの極意」のようなものがあれば、教えて下さい。

 

 僕たちのようなソロ活動が中心のピアニストにとって、室内楽というのはとても興味深い分野で、僕は特に楽しんでやっていることの一つである。いうなればコンチェルトは大型の室内楽ということができるし、またピアノという楽器は、他の楽器に頼らずとも一人でなんでもできてしまうわけで、ピアノソロも一人室内楽(?)ということもできるかもしれない。

 室内楽はまず、他のアーティストとの共同作業によって音楽をつくりあげていくその過程が、一人でも話もせずすべてをやらなければいけないソロと違って、楽しいのだ。特に気心しれた仲間とやるときはさながら学生時代に戻ったような気分だし、またずっと先輩のベテランのアーティストから得るものもたくさんある。僕は学生時代から好んで室内楽を多くやってきたほうだと思うけれど、その中でも特に勉強になったのは歌の伴奏だ。

 それは歌は呼吸や発音のタイミングの問題があるから。ピアノは、鍵盤を押したままにしておけば、もしくはペダルを踏めば、減衰してなくなるまで音を残しておくことができるけれど、歌や管楽器はそうはいかない。息を吸うところはそれに合わせて一瞬待ったり、テンポをわずかに緩めたりしなければならないし、逆に一息でいくところはもたもたしていたら息が足りなくなる。これを音楽的に辻褄(つじつま)が合うようにしなければならないわけで、それはそのままピアノを独りで弾く時の正しいフレージングを習得する勉強となる。また歌の場合、伴奏のピアノの音が鳴るべき場所は言葉の母音にあたるところで、特に音楽的なフレーズの頂点は子音の強調という形で表すことが多い。いつも子音と母音のタイミングが変わらない日本語を話す我々にはあまりない習慣でもしかするとそのせいで日本人のピアノはあまり立体的でなく聴こえるのかもしれない。

 多くの学生たちが室内楽や伴奏でうまくいかないのは、音楽の持っている呼吸が感じられない場合だろう。でもこれは、一概にピアニストのほうばかりの問題ではない。ピアノを無視して暴走していく器楽奏者もいるし、また、気になる部分部分のタイミングだけを何度も練習して決めて合わせようとする人もいる。僕はどちらも好ましいとは思わない。

 室内楽の極意とは、二人なら二人、三人なら三人のアーティストで、同じ音楽を共有することだ。例えば、一つの音を出した時点でその次の音の出てくるタイミングを互いに感じ合わなければいけないし、それはときに雰囲気によっての即興的なものであったりもするのだ。

 他になにかコツがあるとすれば、長くのばしている音の最中の拍を感じられるかどうかということ。そしてかなりの割合でピアノをパートが音楽の基本的な流れ、支えをつくるということ。室内楽や伴奏の際のピアノの役割は、「相手についていくこと」ではなく、「すべてを包み込むようにさりげなくリードすること」であると思う。最後に一番大事なことは、お互いになんでも言い合えるいい仲間を探すことである。

「横山幸雄ピアノQ&A136 上 part 1 ピアノの楽しみ」より

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