楽器の事典ヴァイオリン 第1章 ヴァイオリンの誕生とその時代による変遷 4 ヴァイオリンと女性

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ヴァイオリンと女性

 弦楽器の胴のくびれた形態は、古代の、ビザンチン帝国つまり束ローマ帝国の時代に、女性の美しいヌードの形を真似て作り出されたと伝えられるが、その真偽のほどは解らない。
 
 なお、ヴァイオリンと女性とは、その奏者によって、その性能が劇的に変化するという俗説も少なからず伝えられている。
 しかし、女性が優位に立った現在、このような、演奏者を男性にたとえた暴論を引用すれば、物凄い反論と叱責をかうこととなるであろう。
 しかしながら、ヴァイオリンという楽器は、女性と同様に、極めてナイーブでセンシティブな性格を持っていることだけは事実である。
 そこで、ある専門書から引用して、この点について、あたりさわりのない部分だけを要約して紹介してみよう。
 
 ☆オペラの歌詞のなかに、広く知られた「ラ・ドンナ・モビレ」というものがあるが、ヴァイオリンという楽器は、ある一部の女性のように、移り気で気まぐれな性格を持っており、素睛らしく魅力的であったり、うんざりするほど退屈なものとなったりする。ある日は素敵によく鳴り、またある日は急に音が悪くなる。 
 ☆つまり、奏者の心に対して可愛らしく応えてくれることもあり、激しく拒否反応を示すこともある。一歩誤れば悲鳴を上げる。
 ☆湿度が高いときには機嫌が悪い。なお、温度についても敏感で、冷たい戸外から暖かい室内に持ち込んだ場合は、暖まって機嫌が直るまで弾くのを待たねばならない。
 ☆オールド・ヴァイオリンの名器も女性も、明るすぎる場所および煙のある場所、特に葉巻や煙草の煙を嫌う。
 ☆ヴァイオリンは、女性と同様に、永年親しんでいると、ブドー酒やウイスキーと同様に、味が出てくる。
 しかし、ヤングーレディの場合は―花の命は短くて―のたとえの通り、その容姿の美しさも声の華やかさも年月と共に色あせて?くるが、クレモナの名器は、二百年や三百年経って、ウルトラ・オールド・レディになると、その姿も音色も益々美しくて魅力的なものとなる。この点は似ていない。
 ☆決して忘れてならないことは、魅力のあるヴァイオリンも、チャーミングな女性も、決してにぶいものではなく、極めてセンシティブであるということである。
 
 さて、この不思議な楽器であるヴァイオリンの歴史を、時代を追いながら、その間の性能や音色の変化を研究してみることとしよう。
 

楽器の事典ヴァイオリン 1995年12月20日発行 無断転載禁止


▶︎▶︎▶︎第1章 5 導入
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