楽器の事典ピアノ 第4章 日本の代表的な2大ブランド ピアノ制作に息づく“現代”

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ピアノ制作に息づく“現代”


 ヤマハが世界のピアノメーカーのなかで頂点に立つことができたのは、生産技術の向上と基礎研究に多額の資本を投入し、製作工程の合理的近代化をはかったからであった。
 特に、木材の乾燥、接着、フレーム鋳造、アクション等の製作には高性能の専用機を投入するなど、ハイ・クオリテイと均質性を求めて、思い切った近代化に成功したのである。
 こうしたことができた背景には、音と素材、各部分の因果関係をつぶさに解明したあくなき研究姿勢があった。
 一方、ピアノが近代工業の産物であるとはいっても、音色や音質を判断するのは人間の耳=感覚である。ヤマハはこの感覚面、いわばピアノの芸術的側面の練磨に最大限の力を注いだ。どのような音が、あるいはどういったタッチがいいかがわかる名工を数多く育てたのである。
 一九六〇年代の後半からヤマハは多くの技術者を海外に送り、ピアノ演奏の巨匠たちと接触する機会を作っていった。彼らは巨匠たちのピアノのチューニングを行い、演奏家の信頼をかち得た。と同時に、演奏家がどのようなピアノを欲しているかも知ることができたのである。
 七〇年代に入り、ヤマハCFが国内の演奏会でしばしば演奏されるようになり、また海外での演奏会でも使われるよ。うになるとともに、演奏家がC3をはじめとするヤマハ小型グランドピアノを自宅にもつようになると演奏家と技術者の関係は一層密接なものとなった。
 技術者たちは、ピアノ製作にとって最も重要な情報である使用者の要求を豊富に入手できるようになったのである。これらの情報は、設計・製造部門にもたらされ、絶え間ないピアノの改良に役立てられた。
 ヤマハは、こうした豊富な情報=ソフトウェアと、それを製品に反映させることができる高度な技術力を二つながらもつことによって、すぐれて現代的なピアノを作りだしているといってよいだろう。
 ヤマハはピアノ製作のうえでまずスケールデザイン、つまり基本設計を重視している。響板の厚さ、形をどうするか、フレームの形態をどのようにするか、あるいは弦長をどう決めるか、といったことを、基礎研究によって得た豊富なデータをもとに行っている。新しい音を求めて、設計から大胆な試みがなされている。
 各部品の製作および組立て技術の良さはすでに定評あるところだが、ヤマハが誇るのは“音の仕上げ”である。アクションの調整、ハンマーの硬さを微妙に調整して行う整音などの作業により、ピアノはその命を吹き込まれる。これを指導する(もちろん自らも行う)のはヨーロッパやアメリカで五年、七年と仕事をして来た技術者である。彼らは、今世界の演奏家がどのような音を求めているかを、後輩たちに、仕事を通して伝えている。ヤマハのピアノ製作のあらゆる工程”現代”が息づいているわけである。
 こうした製作思想は、ヤマハのフルコンサートグランドから小型のアップライトにいたるまで一貫してつらぬかれている。また、おもにコンサートグランドピアノCFを通じて得た、内外の一流ピアニストの意見や感想から、現在のピアニストが求める音を把握し、それをすべてのヤマハ・ピアノの製作にフィードバックしているのも大きな特徴となっている。


改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


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