楽器の事典ピアノ 第4章 日本の代表的な2大ブランド ヤマハCFの機能と性能

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 ヤマハCFの機能と性能


  ヤマハ・コンサートグランドピアノCFというのがフルネーム。略してヤマハCFあるいはCFという。CFはその誕生以来、ヤマハのピアノ最高峰として日本のピアノを世界中に高めるという功績を果してきた。
 弦と張力 名器といわれるフルコンサートグランドピアノの弦のゲージと長さは、特殊な音域をもつベーゼンドルファーは別として、ほとんど同一である。これは理論的に計算されたもので、CFの場合も例外ではない。しかしその張力はそれぞれによって多少異なっており(弦一本についてプラスーマイナス一〇%ぐらい)、CFでは低音域から高音部までのバランスが理想的であるという。
 アイアンフレーム ピアノのアイアンフレーム(鉄骨)は、通常、下請の中小工場で作られるものであるが、自社生産しているのは世界の大メーカーのなかで日本楽器が唯一である。アイアンフレームを作る際には次の二通りの考え方がある。
 ① ソリッドな構造にして振動を伝えない。
 ② フレキシブルな構造に作り振動を伝達させる。
 CFの場合、後者の考え方を基本にして独自の設計がなされており、現代的な音色、つまりブリリアントな音が出るように配慮されている。このアイアンフレームに使う鋳鉄は特殊な合金でその場所によって硬さが違うといわれているが、そのため含有倍音が極めて多い音色が生まれるのである。
  アクション 世界の名器のなかでアクションを自社生産しているのはヤマハとチェコのペトロフ(国営)ぐらいのものである。
 アクションは、ピアノの機構のなかで最も重要なもので、日本楽器ではその数多くの部品のマッチングおよび機能に対して自社生産の方法で最大の注意が払われている。なお、耐久力については最低五十万回のテストが行われでいる。

 (注)ピアノを演奏する際に、最も多く使われるキーは、どのくらいの回数叩かれるであろうかということは興味のあることである。モーツァルトの作品で同じ音が頻繁に出てくる曲があり、この曲ばかりを一日八時間弾き続けると五〜六年で五十万回に達するという話を聞いた。

タッチ 鍵盤のタッチはピアノの演奏上最も重要なものである。キーの沈みの深さは約十ミリであって、これはどのピアノでも変わりはない。問題はキーの重さなのである。一般にキーの重さを測定するには鉛を置いて測る。しかしこれは物理的な方法であって奏者の感覚とは相当の差異を生む。

 (注)この場合通常低音部が重く高音部が軽くなるように四十五〜五十五グラム程度にアジャストされる。
 
 しかし、ここで見落としてはならぬことはキーの反撥力である。ヤマハCFの場合、この反撥力が絶対に平均したグラデーションをもつことを条件にダウンの際の力は低音部で五十二〜五十三グラム、高音部で四十六〜四十七グラムにアジャストし、これに対応するアップの最適が反撥力が得られるように精密に調整されている。スタインウェイとのタッチの比較 一般に「スタインウェイのタッチはねばりがあり、ヤマハCFのタッチは軽くてサラッとしている」といわれている。この差異は主として湿度によるものであると説明されている。
 つまり、スタインウェイは、ドイツの、湿度が低く乾燥した、気候のもとで作られるため、湿度の高い日本へ輸入された場合にはタッチのねばりが大きくなり、ヤマハハ CFはわが国の気候に合わせて作られているため夕ッチが軽快であるという。
う。ピアノでもバイオリンでも、日本の気候、特に真夏の高温多湿は大敵である。
 なお、タッチと音色とは、感覚の上で、相対関係にある。
 レペティション レペティションとは連続弾奏、つまり同じ音を急速に続けて弾くことである。グランドピアノとアップライトピアノのアクションの性能の差異はこのレペティションの際に最も顕著に現れる。
 ショパンの「グランドーワルツーブリリアンテ」やリストのハンガリアッーラプソディ六番」などにはこのレペティションが多く、ップライトでテンポを速く弾いた場合には音が抜けるときが多いが、新しい曲にはこのレペティションの演奏が極めて難しいものがあり、高度な性能のアクションを持つピアノが要求されるのである。特にpppで弾く場合とpp〜ff、ff〜ppと移行する場合に問題が起きる。
 グランドピアノのレペティションレバーを動かすスプリングには、ダブルスプリングとシングルスプリングの二種のものがあり、ヤマハピアノは前者を採用している日本のメーカーとしては唯一のもので、後者はベヒシュタインその他に使われている。
 ダブルスプリングの場合は、アクションが敏感で、急速なレペティションが可能であるがその反面、手に伝わるショックがやや大きい。
 シングルスプ少ングの場合は、レペティションは劣るが、キーが手に柔かく感じ、レガートな曲を弾く際の感覚は柔らかい。一長一短であるという。
 なお、キーを音が出ないように、静かに押さえて放した場合、前者は雑音が多く、後者は少ないといわれている。ただしこれは演奏効果とは全く関係がない。しかし、このアクションの構造の差を見分けるには役立つで
あろう。
 アフタータッチ アフタータッチとは、別名でレットオフともよばれているが、キーを静かに押さえた場合途中でひっかかるような抵抗が感じられるのを指す。パイプオルガンのアクションの際もキーが沈む際に抵抗が感じられるドラッカー方式が演奏し易いといわれているが、ピアノでは、指のスピードで音量が変わるのであるから、このアフタータッチは極めて重要なものとなる。特にグランドピアノの場合は、キーが完全に元の位置に戻らない中間で再び叩いても完全に音が出る。これはppで急速なトリルを行なうときなどにその偉力を発揮する。
 CFではこのアフタータッチが理想的に調整してあり、キーがわずか三ミリ戻っただけで連続演奏が可能となる。
 響板 ピアノの音質を最も左右するものは響板であるといわれているが元来、響板と響棒と駒は一体として考えるべきで、この組み合わせには決定的な原則というものがなく、常にトライアルアンドエラーを繰り返しな
 しかし、わが国の演奏会場は、例えばNHK大ホールのように、多目的に使われるものがほとんどで、ピアノ演奏には大き過ぎてしかも残響が少ないものが多い。つまりディケイが理想的にならないのである。CFは外国で弾く場合のほうがよく鳴るという事実は、湿度の関係もあるが、このホールの残響が大きく影響するのである。
 ☆ノイズーーピアノの音と同時に出るさまざまな雑音のことである。これには数え切れないほどの要素があるが、ある程度のものは有効雑音とよばれ、ピアノの音色を形成する上で欠かせないものである。コンサートピ
アノの場合、音量を上げれば雑音も大きくなる。スタインウェイの場合もある程度の音色は犠牲にしているし、CFの場合も同様である。ベヒシュタインは音色はノーブルで美しいがその反面ボリュームが足りない。
 しかし、ありかたいことに、人間の耳は都合よくできていて、聞きたい音を選んで聞き出すことができるという特徴をもっている。したがって、ヤマハ グランドピア/G3Bがら理想を求め続けている。
 CFには世界で最高といわれるヨーロッパのルーマニアスプルスが用いられているが、木というものは一本一本その性格が異なるので、木取りの神様のような人物がいて、物理的試験と平行して、このスプルスをなぜたり叩いたり削ったりして入魂の術をほどこすそうである。
 鍵盤 コンサートピアノの鍵盤には、通常、象牙と黒檀が使われる。その理由は、この両者は汗を吸収する性質を持ち、演奏中に指がすべる危険性がなくミスタッチが起きないためである。なおその手ざわりの良さも見逃せない長所として挙げられる。
 CFのすべての鍵盤には良質の柾目の継ぎ目のない象牙とムクの黒檀が使われているが、双方とも現在では入手困難なもので、例えば白鍵の象牙を一式張り替えると大変高価なものにつく。
 なお、ヤマハCFの部品には、プラスチックその他の新しい材料は使用されておらず、すべて厳選された伝統的なものが使われている。
 塗装 世界のフルコンサートグランドピアノは例外なく真黒に塗装してある。CFもカラスのぬれ羽色のように真黒である。
 その音色 音色の性格を分析する場合、普通含有倍音について云々されるが、ピアノの場合は次に述べる二点が重大な要素となる。
 ☆レスポンスとディケイーーーレスポンスとは音の立ち上りでディケイとはその減衰のことである。ピアノによらずすべての楽器はレスポンスが良いものが優れたものといわれている。しかし、現在ではディケイも音質上極めて重要なものとして考えられるようになってきた。
 ピアノの音質は、パイプオルガンと同様その置かれる部屋の状態によって変化する。特にCFのような演奏会用のピアノではコンサートホールの残響の程度によってその音質が大きく左右される。理想としては、収容人員千五百人くらいで残響音がI・八〜二・二秒くらいのホールが最適である。ピアノの演奏の場合、うまく弾けば雑音は聞こえず、下手に弾けば雑音が気になる。CFにも雑音はある。しかし、有効雑音が主で、その他のノイズは人間の耳が備えた自然のノイズサプレッサー(雑音除去装置)の効く
である。

 (注)ピアノの雑音には次の通りの多種類のものがある。―☆指がキーに当たるときの衝撃音。☆キーが沈み切ったときのノイズ。☆ハンマーが弦を叩いたときのノイズ。この場合高音部で顕著となる。☆ハンマーがハンマー・レールに戻る際の音およびバッターチェックが出ずノイズ。☆キーの反対側の端がバックーレールークロスに当る音。☆ダンパーが弦に当る音。☆アクションおよびペダルの摩擦音。☆その他のキイキイ、ゴトゴト、カタカタという音。
 
改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


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