楽器の事典ピアノ 第7章 ピアノの種類およびその構造と機能  6 内部の構造・機能 音に関する部分

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                     [画像]ピアノの背面図

ピアノの形状・サイズとそれらの性能の差異

内部の構造・機能

音に関する部分
 
 ピアノの音に直接に関係する構造の部分は、(1)サウンドボード(響板)、(2)ピアノストリング(弦)、(3)ハンマーヘッドに分けることができる。
 
 サウンドボード(響板または音響板) サウンドボードの構成部品としては、サウンドボード(響板)、リブ(響棒)およびブリッジ(駒)とがある。
 サウンドボードはピアノの背面と鉄骨の間につけられ、幅約15センチ、厚さ10ミリ弱の薄板数枚を並べてはぎ合わせて作る。その大きさは、たて型ピアノの場合、高さは底の部分からチューニングピンーブロツクまでで、輻はピアノの幅とほとんど同じくらいの大きさである。すなわち、ピアノの高さによってその面積が変る。
 サウンドボードは、バイオリンの表板と同じように、弦がつけられる側に対して中央が盛り上がるように曲げられており、このカーブが美しい音を出すために極めて重要である。
 このふくらみを専門語でクラウン(王冠にその形が似ているので)とよび、わが国のメーカーたちはムクリという不思議な言葉で表現している。このクラウンの正しい響板はピアノの音に生命を吹き込み、美しい共鳴音を生み出すが、カーブが少ないか、あるいは正しく作られていない場合は音に活力がなく、切れ味の悪い、桶を叩いたような鈍い音となる。なお、優れた技術者が製作した響板は、音が美しくて味があると同時に、そのクラウンの生命が良く、ピアノが、いっまでもすばらしい音で鳴り続けることはいうまでもない。
 サウンドボードの裏側、つまり凹んだ側にはカーブをつけた数本の響棒がつけられ、この響棒の端はサウンドボードの外辺近くまでのびていて。しっかりと接着されている。このようにしてサウンドボードのクラウンは常に弾力を保ち続け、極めて小さい振動に対しても鋭敏に反応して共振を起こすのである。
 
 (注)楽器は発振体と共鳴体でできており、前者より後者のほうが大切であるといわれている。ピアノ(一種の弦楽器とも考えられる)の場合、弦は前者にあたり、サウンドボードが後者に相当する。共鳴体の反応のよい、つまり音のレスポンス(音の立ち上り)が良い楽器が優れたものなのである。
 サウンドボードに使われる材質は、松およびスブルースが理想である。
 つまり、軽くて弾力に富み、木目が正しいことが必要条件となっているが、その優れた素材の入平が次第に困難となっている現在、名器といえるピアノの価格が高価な理由の一部にはこのサウンドボードの素材の稀少性という問題がひそんでいるのである。

 響棒は、サウンドボードと同様な性格を持つコニフアーウッド(松やスプルース)で作られ、響板に対して木目が直角になるように接着されるが、その役目は音の伝導、つまり共鳴をよくすると共に、駒にかかる弦の圧力に対抗することにある。駒が弦によって押えられる圧力と、これに反発する力が均等な場合が理想で、この場合、ピアノはその生命を良く保つのである。
 調律をせずに放置した場合には、この均衡が破れてピアノの性能を損うこととなる。
 ブリッジ(駒)は硬いカエデの材料で作られ、その底部はクラウンのカーブに合ったように削られて響板に完全に密着するように接着される。なお、その接着される位置は、バイオリンの駒と同様、音量や音色に重大な影響を与える。ブリッジの主要な役目は弦の振動を完全に響板に伝達することにある。駒は高、中音部の弦を受けている良駒と、低音部のためのベース駒とに分けられるが、ペース駒には、少しでもクラウンの頂点に近ずけるため、駒足という補助部品が使われることが多い。
 最近、接着材の進歩とともに駒材に積層板が使用されることがある。これは駒ピンの保持の点て有利であり、割裂を防止している。
 
 (注)弦だけが振動する際の音は、空気との接触面積が小さいので、ほとんど音波とはならず耳では聞こえないほどのものである。そこでその振動を駒を通じて響板に伝え、その空気との接触面積の広さで音波に変える。つまり、ピアノは音域が極めて広い楽器なので、大きい響板を持つほど効果的なのである。

 響板は、その種類によって、弦の基音あるいは上音(パーシャル)の振動をさまざまな形態で阻止する性質を持つ。響板のない弦の振動は良く続き、響板のついた弦の振動は急速に減衰するのはこの理由によるのである。なお、響板の性質や形状によって音色が変るのもそのためである。さらに、低音部の弦の振動の基音は、響板が共振し難いので、極めて弱くなり、上音だけが強く現れる。背の低いスピネットやベビーグランドの低音部の音色が劣る理由の一つとしてこの点があげられている。
 響板の共振では高い上音は、エネルギーが少ないので最初に消え去る。ピアノの音質が鳴り始めてから消えるまで複雑な変化をするのもこのためである。
 弦楽器の響板には、ピアノが誕生するはるか大昔から松とかスプルースが使われてきた。これを他の木材あるいは金属などで代用する研究が、永い年月の間、莫大な研究費を投入して続けられてきたがいずれも成功していない。現在では、経済的な理由からプライウッドの響板、あるいはその他の代用品が使われることもあるがいずれも好ましいことではない。
 バイオリンと同様、名器とよばれる高価なピアノを求めれば、閧違いなく優れた品質のサウンドボードがつけられているのである。
 
こま図解.png                     [画像]こまの図解 <アップライトにおける一例>
 
 ピアノストリング ピアノの弦に使われる、ミュージックワイヤーとよばれている。スチール線は、現在世界で得られる最高品質の鋼鉄で作られている。しかも、寸度が厳格で、無傷のものでなくてはならない。さらに物理的実験や化学的分析だけでなく、楽器作りの経験も生かされて生産されている。世界の独占的メーカーとして西ドイツのレスローがあり、日本のスズキ金属の製品も定評がある。1819年のダイヤモンドダイスの発明が、現在の優れたピアノストリングを完成させるのに大きな力があったことはよく知られている。
 標準的なピアノに使われる弦は合計220〜230本で、ある一例をあげると、189本が中音部から高音部にかけての裸線で、低音のシングルの巻線(スチールの上に銅の線を巻いたもの)が32本、最低音のダブルの巻線(銅線を二重に巻いたもの)がおよそ九本である。
 この弦の数は88鍵のピアノのことで、ヨーロッパで作られている85鍵などでは弦が少ないことはいうまでもない。なお同じ88鍵の楽器でも製造コストを下げるために弦の数を減らしたものもあり、極端な場合、64鍵のピアノなどでは高音部のトライコード(3本一組の弦)をデュオコード(2本一組の弦)に減らしたものもある。これらのものは、音質の点て不満が残る。
 ごく一部の優れたメーカーのピアノでは弦の数が230本以上の場合もある。これらの楽器では、低音部の高い音の部分が3本弦となり、さらに最低音部の1本弦が少なくて2本弦が多くなっている。
 低音部から高音部にかけて、弦の太さは次第に細く、その長さは次第に短くなる。ここで最も大切なことは、すべての弦の張力がほぼ平均しているということである。張力の合計は、さきに述べた通り20トンにもおよぶのであるから、これを均等に分配することは極めて難しいことで、このバランスは、音色上でも構造上でも非常に大切なことである。同じような美しいケースのピアノでその価格に大きい差かおるのは、このような内部的な、目で見られない、性能の差異があるためである。

六角ワイヤー.png                     [画像]巻線用の六角ワイヤー使用例

レンナーカット.png               [画像]低音部の巻線(レンナー)カットの方法を図示したもの 

 ハンマーヘッド 弦を叩くハンマーヘッドはどのピアノを見ても同じように見えるが、その形状と品質にはさまざまなものがあって、それぞれによって音質を大きく変化させる。これは、ギターやマンドリンのピック、あるいはシロホンやビブラホンのマレットと同様に、その硬軟あるいは形状によって弦の振動形式が変り、硬くて接触面が小さい場合は高い上音を多く含み、その反対の場合は基音が強く現れて上音が消え去る。
 優れたピアノでも粗悪なハンマーヘッドをつければ音質が低下し、粗悪なピアノでも良いハンマーヘッドをつければ音が美しくなるのは事実である。しかし、ハンマーヘッドの良否は、弦の張力と同様、目で識別することが不可能であるし、ハンマーヘッドだけに高価な部品をつけたとしても総合的な品質の向上は望めないので、結局は定評のあるブランドのピアノを求めるのが賢明であるという結論となる。
 ハンマーヘッドの弦に当る部分をヤスリで削ったり針で刺したりして音質を調節することを、専門語でボイシングとよぶ。つまり、ピアノの美しい声を作り出すのである。これはピアノの技術者だけが出来るもので、別名で整音とよばれ、この難しい操作によってピアノのすべての音は均等した美しさを持つものとなる。
 
 (注)ハンマーヘッドの補強 ハンマーヘッドにある種の薬品の溶液をつけて、その色が黄褐色。黄色、青色あるいはピンク色に変えられたものかおる。一部のメーカーはこの方法によってハンマーの耐久力が強くなりその上弾力を増すと主張する。しかしこれは必ずしも正しくない。広範囲に薬品で処理されたハンマーヘッドは、その性質が硬化し、スピネットなどの小型のピアノでも大きい音が出せるようになるが。ピアノの本来の音の美しさや豊麗さは失われてしまうのである。しかし留金に近い元の部分に若干塗布するのは今や常識的なことである。

 (注)アンダーフェルト ハンマーのしんに近い部分に赤や緑の別種のフェルトが巻き込まれているものがあるが。これは必ずしも必要ではない。ただし、低音部はフェルトに厚みがあるので。これがある方が無理がないといわれている。
 
 以上述べたサウンドボード、弦およびハンマーヘッドの三者は、優れたピアノの音色を出すために、互いに関連性を持つ。いずれの性能が劣っても良い音は望めないのである。




改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


▶︎▶︎▶︎第7章 ピアノの種類およびその構造と機能  7 内部の構造・機能 7機械的な部分

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