楽器の事典ピアノ 第6章 日本の主要ブランド一覧 8 トーカイ

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                     [画像]トーカイ AU-Ⅱ

わが国のピアノ製作のあゆみ

独自の特色を発揮したメーカー

トーカイ

 東海楽器製造株式会社は、1947年に河合楽器の出身の技術者たちが集まって、ピアノを作るのを目的としてスタートしたものである。ところが、当時は終戦直後で資材がなくてこの夢が果せず、その製造した楽器は鉄琴をはじめとしてハーモニカ、ピアニカ、アコーディオン、ギター、チェンバロ、クロマハープ、バンジョー、電気ピアノおよび電気ギターなどで、当初の目的のピアノの製造開始ができたのは、31年後の1978午の1月であった。
 会社の歴史も長く楽器メーカーとしての優れた技術を誇っているが、ピアノメーカーとしてはわが国で最も新しいものである。

 斬新な設計 東海ピアノはドイツ最大のピアノメーカーであるジンメル社の楽器を基準として作り出されたもので、わが国の他のメーカーの製品と比較した場合、極めて斬新な設計方式が採用されており、その特徴は、アップライトおよびグランド共に、できる限り小型に作られていることである。これらは88鍵でありながら、音質を犠牲にせずに、可能な限りに小型化することに成功したもので、欧米の現在のピアノに類似した長所を備えている。
 アップライトの場合、わが国の楽器の高さは1.3メートルくらい、コンソール型で1.1メートル、アメリカのものは1.1メートルくらいが多く、トーカイピアノは1.19メートルと1.06メートルとの2種類である。なお、最大の特徴はその奥行がわずか56.5センチしかないということ。一般のアップライトは64センチくらい)その理由はバックポスト(背面の支柱)をすべて取り除いたことによる。なお、その重量も195キロ(普通のアップライトは230〜250キロ)で極めて軽い。

トーカイau1.png                     [画像]トーカイ AU-Ⅰ

トーカイc106f.png                     [画像]トーカイ C-106F

グランドには1.5メートルと1.3メートルとの2種類があり、後者ははわが国で唯一のベビーグランドである。なお、一・五メートルの楽器にだけはバックポストがつけられている。バックポストを除くことができたのは鉄骨フレームを厚くして強度を大きくしたためである。

トーカイg1501f.png                     [画像]トーカイ G-1501F

 その音色 トーカイピアノの音色は、欧米のコンソールやスピネット型の楽器に似て、極めてクリアーでブリリアントな現代的なものである。なお、あまり広くない部屋に置いた場合には、ボリュームの大きい背の高いアップライトや大型のグランドピアノより、はるかに美しい音色で演奏できる。
 ピアノの歴史の項で触れた通り、1930年代に欧米のピアノの販売が急激に減少した際に。欧米のピアノメーカーたちが生き残るために研究開発したのが、アパートなどの小部屋に適当な大きさと音色を持つコンソールおよびスピネット型の楽器で、この際、背の高いアップライト型はほとんどその姿を消している。わが国だけは、不思議なことにこの現象は現れなかった。ヨーロッパの意地悪な一部のメーカーたちは、日本のピアノは50年以前のバルキー(かさばる、大きな、扱いにくい)なものと批判しているが、現在輸出されているのはほとんどコンソール型で、トーカイピアノが海外で人気を愽しているのはこの理由による。
 20世紀の初頭までは、ピアノという楽器は王候貴族やブルジョアのステータスシンボルであった。つまり、背の高いアップライトは、その構造上、音色および音量の点て優れ、大きい部屋に適していたのである。しかし、ピアノが大衆化されて、設置される部屋が小さくなった現在、設計さえよければ、コンソールおよびスピネット型に軍配が上がるように思える。
 コンソールやスピネット型の欠点としてアクションの不合理さ(ドロップアクションの場合)と低音弦の短かさがあげられている。しかし、トーカイピアノの場合。ダイレクトブローアクションを採用し、低音部の弦の長さは、交差弦の角度を強くすることによってこれらの問題を解決している。交差弦の角度を強くすると(ンマーやダンパーの角度も変ってくるがこれらの点も見事に設計してある。
 
 理想的な工場設備 東海楽器のピアノエ場は、さほど大規模なものではないが、新しく建設されたもので、理想的な設備を誇っている。なお特筆すべきことは、立派な工場の内部の温度と湿度が常に一定していることである。これは夏期に高温多湿となる日本の気候のもとで作られたピアノがヨーロッパ諸国やアメリカへ輸出された場合の故障を防止するためである。
 弦楽器(ピアノも一種の弦楽器である)の製造の場合、木材のシーズニングや乾燥も大切であるが、組み立てる地方の温度や湿度がその性能を大きく左右する。特にピアノの場合、アフリカ、インドヽアメリカの一部などの気候が激しい地域で使用する際に、部品が極度に乾燥したり湿気を吸収したりして、響板の割れやスティックなどの故障を起こし易い。昔はトロピカルピアノ(熱帯用ピアノ)という特殊仕様の楽器も作られていた。東海楽器のピアノエ場では輸出先の国々の温度と湿度に合わせて組み立てを行っているのである。

トーカイ工場.png                [画像]東海楽器のピアノ工場 昭和56年6月 温度27℃ 湿度55%
 
 プラスチックのアクション トーカイピアノのアクションは、現在はグランドピアノだけだが、プラスチックで作られている。使われている樹脂はABSとASの中間の性質を持つ特殊なもので。木材のように吸湿性がなく、耐久性にも経時変化にも優れている。
 プラスチック製のアクションを採用したピアノとしては。オランダのリッペンとアイルランドのリンドナーがあった。なお、後者は数年以前に倒産して消滅してしまったが。リっつペンやリンドナーの場合、鍵盤までプラスチックで作られ、センターピンの付近の設計が悪く。故障した場合の修理が困難であった。しかし、トーカイピアノでは。鍵盤は普通のピアノの通り木材で作られており。金属のセンターピンがつけられているので(ブッシングだけはナイロン製)絶対に故障がないといわれている。
 
 量より質 トーカイピアノは Quality Before Quanfity
(量より質)のスローガンのもとで作られており、さきに述べた特徴の他に、極めて美しい各種のデザインのものがある。
 現在ではその生産の約七十%が輸出され、アメジカのテキサス州にある日米合弁会社トーカイusAを通じてアメリカ各地へ、またスイスのバールにあるオランダとの合弁会社ヨーロッパトーカイを通じ、ロッテルダム経由でドイツ、イタジア、オランダなどの諸国へ販売されている。国内向けは約三十%でその数は多くはないが、コンパクトで軽くて美麗で音色が現代的で弾き心地のよいピアノとして、近い将来多数の人びとに愛される楽器となるであろう。




改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


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