楽器の事典ピアノ 第2章 黄金期を迎えた19世紀・20世紀 14 カポタスト レストプランク アクション レットオフ

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[画像]"鳥籠式" とよばれている旧式のアクション

カポタスト

 カポタストはプレッシャーバーの変型で、アグラッフェと同様に、振動する弦の長さを正しく定めるもので、別名、ヘッドフレットとも呼ばれている。これは1843年にA・ボードが発明している。なお、カタポストバーというものもあるが、これも同様の役割を果たすものである。

レストプランク

 レストプランクとはレストピンをねじ込んである、何枚も板を張り合わせたプライウッドの厚板のことである。材料は良質のブナ、その他の堅木で、木目が直角に交差するようにニカワ付けする。この厚板に弦の数だけの穴をあけ、これにレストピンをねじ込む。レストプランクは金属で補強されているが、弦の張力の合計である数トンのストレスがかかるのであるから余程がんじょうなものでなければならない。
 レストピンはレストプランクの穴にピッタリと合い、その細く切ったねじ山によってすべったり引っかかったりせず、確実にねじ込めるものでなければならない。なお、絶対に油や潤滑剤は使ってはならないのである。このレストプランクの構造はヴァイオリンの糸巻き同様、極めて原始的なものである。それだけに改良の余地はないものらしく、ピアノの発達史上、このレストプランクの改良を試みたという記録はほとんど見当たらない。


アクション

 アクションの発達史については先に詳しく述べたが、優れたアクションは次に述べる各項の要求を満たすものでなければならない。
(1)ハンマーが弦を叩く強さを完全にコントロールできるものであること。つまり、音の強弱を容易にし、しかも正確に弾き分けられること。
(2)ハンマーが弦を叩いた時、瞬間的に弦から離れること。さもないとハンマーはダンパーとなってしまう。
(3)このハンマーの弦からの後退は、演奏者が鍵盤から指を放すこと、あるいは鍵盤を押さえ続けることなどには全く関係がない。
(4)ひとたびハンマーが弦を叩いた後は、ハンマーは絶対に前後に跳ね返らないこと。なおハンマーは弦を離れるだけでなく、停止していなければならない。
(5)演奏者が望む通りに、同じ音を直ちに連続演奏できる容易さを持っていること。
(6)この連続演奏(レペティション)は、鍵盤が普通の位置に戻っていようといまいと、完全に行うことができること。
(7)右足のペダルで雑音なしに、いずれのダンパーも別々に、あるいは全部を持ち上げることができること。
 これらの条件はいずれも苛酷(かこく)なものである。多分、アップライトのアクションはすべて落第で、ここにグランドのアクションの優秀さが浮かび上がってくる。本当のピアノ音楽の演奏を楽しむためには、グランドピアノでなければならないという根本の理由はこのアクションの相違にあるのである。
 ピアノという楽器は、ヴァイオリンやフルートなどと違って、いわば体から遠いものであるために、奏者の感情を楽器に伝えることが難しい。しかも奏者の微妙なニュアンスは、アクションという機械装置を通じて伝える他に方法がないのである。ここでアクションの重要性が浮かび上がってくる。優れたピアノのアクションは、演奏者の感情が
肉体的なエネルギーとなったものを、いささかのロスもなしに弦に伝えるのである。

レット・オフ

 「レット・オフ」とはあまり聞き慣れない言葉であるが、これは、ピアノのキーを静かにゆっくりと押さえた際に、その途中でわずかに指に感じられる「ヒッカカリ」のことである。これはハンマーからジャックが離れる際の抵抗が指先に感じられるのである。
 試みに棒状のものを白鍵の上に乗せて一度に多くの鍵盤を静かに押さえてみるとこの「レット・オフ」の箇所は明瞭に感じ取られる。良く調整されたピアノではこの「レット・オフ」が明確に感じ取られ、粗悪なピアノや古い楽器では感じ取れないかあるいはそれぞれのキーによってその位置と抵抗の強さがバラバラである。この「レット・オフ」の抵抗の強さはどの程度が最適であるかという点については、奏者の好みによってバラバラである。
 シュナーベルはこのキーの重さの変化の最少の楽器を好んだと伝えられるし、またその反面、「レット・オフ」の変化が大きいアクションのピアノを好む奏者も多い。その理由は、「レット・オフ」が明らかに感じられると、最終的にハンマーに与える指のエネルギーの大きさを明確にコントロールできるからである。いずれにせよ、この「レット・オフ」の検査はアクションの性能を見わける一つの手段として役立つものである。


 
改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


▶︎▶︎▶︎第2章 黄金期を迎えた19世紀・20世紀 15 プラスチックと軽金属の採用

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