楽器の事典ピアノ 第2章 黄金期を迎えた19世紀・20世紀 10 メタルフレーム

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[画像]メタルフレーム ヤマハグランドC7

メタルフレーム

 メタルフレームは別名メタルブレースと呼ばれるもので、金属を使って木製のピアノの本体を弦の強い張力から守るものである。18世紀の後半におけるピアノの構造の最大の変遷はメタルフレームの採用であった。このメタルフレームが必要になった最大の理由は、作曲家や演奏家たちが鍵盤楽器の音域の拡大を要求し始めたことである。

 まず、スクエアピアノに余分のキーをつけるパテントが次々に出され始めた。最初にウィリアム・サウスウェルが、1794年と1798年の二度にわたってこのパテントの申請を出し、次いでフレデリック・ホークスが1813年に同様なパテントを申請している。
 19世紀の初め頃からこの音域拡大の要求は次第に大きくなり、当時6オクターブ半であったピアノが7オクターブとなり、これがさらに7オクターブ4分の1となり、7オクターブ半となり、現在ではベーゼンドルファーのピアノで8オクターブという広音域のものが作られている。
 世界で最も音域の広いピアノとしては、フランスのパペが、1845年にコンサートピアノの設計としては8オクターブ半が必要であるというパテントをイギリスで取得したという記録がある。しかし、このピアノが実施に作られたかどうかははっきりしない。
 いずれにせよ、古いピアノのオールウッドのフレームでは、鍵盤を拡大した場合、弦の張力が大きくなるので、本体が耐えられなくなったのは事実である。メタルフレームの出現はこの理由による。
 なお、メタルフレームを採用せざるを得なかった他の理由として、音量を増加するための弦の張力の増大および19世紀における管楽器のピッチの上昇によるスタンダードピッチの変更などがあげられる。1820年頃までのピアノは、ほとんど木製のフレームであったが、以上述べた理由によってメタルフレームを採用せざるを得なくなったのである。この際、伝統的な製作技術に固執する多くのメーカーたちは、音質を害するであろうという理由のもとに、メタルフレームを敗訴した。
 珍しい楽器としては、サウンドボードが弦の張力で曲がらないために、その表面と裏面の双方に弦を張り、複雑なアクションで二組のハンマーを動かすものまで現れたが、メタルフレームの必要性を除くことはできなかった。
 メタルフレームの発達 メタル・フレームとメタルブレースは機能的には同じようなものであるが、後者は正確にいうとばらばらの補強方式で、前者は一体になったものということができるであろう。つまり、後者から前者へと発達して行ったのである。
 最初のメタルブレースのパテント申請はジョセフ・スミスによって1799年に出されているが、これはサウンドボードの下面を金属の桁(けた)で補助したような単純なものであった。
 次に、1800年頃、ジョン・アイザック・ホーキンスがポータブルグランドピアノのサウンドボードをメタルフレームに吊り下げ、これをメタルのロッドで抱きかかえる方式のものを作った。また、ブロードウッドは1808年に、グランドピアノの高音部に補強のためのテンションバーをつけ、1821年にはこのバーを三本ないし五本に増した。エラールも1824年にメタルバーを適用したと記録されている。
 この頃、ブロードウッドとエラールとの間に、この補強のパテントに関する争いがあったが、結局、
(1)エラールは鉄の板とメタルボルトの組み合わせで。
(2)ブロードウッドはメタルストリングプレートと四本のバーまたは鉄のストレッチャーとの組み合わせで。
ということで落ち着いた。
 さらに1840年にカナダのトロントのジョン・トマス・モーガンとアレキサンダー・スミスの二人がレストピンブロックにメタルプレートをねじ止めする方式のパテント申請をしており、このプレートは普通のメタルヒッチピンプレートにつけられ、最低音の弦と並行したメタルバーと一体になってフレームを作るものであった。
 コンペンセーションフレーム 1820年になり、パイプ製のバーと、鉄板によるコンペンセーションフレームのパテントが現れた。
 その目的はピアノのチューニングを長い間正しく保つためのもので、その構造は温度および湿度の変化からくる木材の膨張と収縮で調整が狂うのを防止する方式で、ピアノの製作史上で最も重視すべき改良であった。その理由はピアノの木製のフレームから弦の張力を開放したことによる。つまり、弦は木製のフレームの片端にしかついておらず、張力はすべて鉄のフレームが支えるようになっていたのである。いいかえれば、温度と湿度の急変によるチューニングの変化を守るために、弦の張力は全て真ちゅうまたは鉄のワイヤーロッドプレート、バーおよびパイプが受け持つように工夫されていたのである。
 なお、この方式はブラスの弦はブラスのチューブによって支えられ、鉄の弦は鉄のチューブで支えられる極めて合理的なものであった。このコンペンセーションフレームは、その後、あらゆるグランドおよびアップライトピアノに採用され、ピアノの歴史に一大進歩を与えた。コンぺンセーションという単語は、楽器の場合、管楽器のピストンの音程補正装置などに専門用語として使われることがあるが、ここでは自動修正とか補正とかの意味に使われているのである。

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コンベンセーションフレーム エラール 1822年

 鋳鉄のフレーム 以上述べて来たピアノのフレームを一体にまとめてキャスティング、すなわち鋳造で作ることを始めたのはアメリカである。
 ボストンのアルフュース・バッブコックがスクエアピアノのフレームをヒッチピンプレートまで一体として、キャストアイアン(鋳鉄)で作り出すことを発明し、1825年にパテントを取っている。このキャストアイアンフレームの方式は、当時のアメリカの各地のメーカー、例えばボルチモアのフィッソーレ、フィラデルフィアのコンラッド・メーヤー、シンシナティのアイザック・クラーク、ボストンのチッカリングなどで取り上げられた。
 しかし、メタルキャストフレームは19世紀の半ばまでは決して一般的なものとはならなかった。その理由は、いつの世にも偏見というのはあるもので、ピアノの構造に金属が多く使われ過ぎた場合の音質的な疑問が、どうしてもぬぐい切れなかったためである。そのため、その頃のイギリスでは半鉄骨あるいは半鋳造鉄のフレームが多く使われていた。
 ピアノに大きくて重い鋳造鉄のフレームを使う事は、音質を害するだろう、という疑問を完全に打ち消したのはスタインウェイであった。スタインウェイは、1855年にオーバーストラングの弦がつき、鋳鉄のフレームをつけたピアノが、音質的にも音量的にも絶対優れているというデモンストレーションを行い、音楽家たちの疑いを霧散したと伝えられている。1888年に、ブロードウッドが支柱のない鋳造鉄のフレームのパテント申請を出している。また、この会社は、セミバーレス(ほとんど支柱のない)の鋳鉄フレームを備えた、わずか4フィートの興味深いベビーグラウンドを作り上げている。
 しかし現在のフレームとしては、いろいろなバーやプレートがシングルキャステングで組み込まれたものが一般的に用いられている。

 オーバーストラング 弦を交差して張るオーバーストラングが初めて用いられたのは、1828年で、フランスのパペのアップライトピアノであるが、これをグランドピアノに応用してみたら、その形が歪んでしまったと伝えられている。そのためか、イバッハその他がシンメトリーな楽器を作り出している。
 また、1905年にクナーベが半円型のグランドピアノのパテント申請を出し、ストローメンジャーがやはりこのような形の楽器を作り出している。その特徴としては、バスの弦が長く、弦の位置が好都合で、しかも、普通のグランドピアノに比べて、高音部のサウンドボードの面積が広いという利点を持っていた。
 ダブルストラングスの方式は、別名、クロスストリンギングと呼ばれているが、ピアノの歴史の上で、一つのマイルストーンとなったものである。この考案により、低音部の弦は斜めに張られるために、長さが充分取れるようになり、低音部の弦は斜めに張られるために、長さが充分取れるようになり、高倍音を多く含んだ新しい音色のものとなったのである。しかし、チェンバロの時代から行われて来た平行に張る弦と比べた場合、昔の純粋さはいささか失われた。
 小型のグランドピアノに低音部の長い弦をつけることを可能にするためにダブルオーバーストラングのピアノが考え出された。その最初のものは1880年に、シュライバーによって試作され、弦が四重以上にも重ねてあったという。このダブルオーバーストラングの最近の応用には、1933年にチャーレンが作ったピアノがある。この楽器では14本の中音部の弦のブリッジが、サウンドボードから離れて取り付けられて、キャンティレバーのアームによって支えられている。
 このようにして、中央部の弦は44本の高音部の弦(これらの弦のブリッジはサウンドボードに取り付けられている)と交差し、また17本の低音部の弦もブリッジがキャンティレバーによって支えられ、ほかの中音部および高音部の弦と交差するものであった。



改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


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