楽器の事典ピアノ 序章 ピアノ発祥までの源流について 1 ピアノは楽器の王である

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ピアノは楽器の王である

 ピアノは楽器の王である。
 この楽器は、他の伝統的な諸楽器と比べて歴史こそきわめて短いといえるが、十八世紀の半ば以来、一度として他の楽器にその「王者としての地位」を奪われたことがなく、以来、音楽に対する激しい嗜好の変遷にもかかわらず、いつの世でも世界の多くの人びとから愛され続けてきた。
 楽器の歴史をふり返ってみると、かつて栄えたが今は滅びてしまったもの、世の移り変わりによって忘れられていくものなのどが数限りなくあり、中世のリュートやルネッサンスからバロック時代へかけてのチェンバロ、その後のヴァイオリン、戦争中の管楽器あるいは現在の電子楽器というように音楽の変遷につれて、楽器への嗜好はベンデュラム--振り子--のように揺れ動いてきた。
 しかし、この長い変転の時代において、ピアノだけはその楽器の王者としての地位を厳然として守り続けて来た。現在でも、世界中でもっともポピュラーな楽器として、数えきれないほどの専門演奏家が日に日に増え続けており、アマチュアの愛好者の数も史上最大なものとなっている。
 その「楽器の王者」たるゆえんは次に述べる諸点にある。
 音楽的に観た場合……ピアノを音楽的な見地から観察した場合、次に挙げるような特徴が浮かんでくる。
 ⑴ あらゆる器楽のうちでピアノについての作品が圧倒的に多く、またこの楽器に関する偉大な芸術家の優れた作曲が数えきれないほど残されている。
 ⑵ ピアノ曲以外の作品、つまりあらゆる音楽的メディアのための作曲をピアノに移したものが、他の楽器と比べた場合、比較できなほど多い。
 ⑶ その使用範囲は、他の諸楽器と結びついた音楽、例えば、トリオ、クワルテット、クインテットおよびヴァイオリン、チェロ、フルートなどとのソナタに使われる場合はいうに及ばず、ピアノコンチェルトあるいは歌の伴奏などと驚くほど広い。
 ⑷ ピアノ・デュエットとして使う音楽分野も極めて有効である。
 ⑸ 音楽教育のための楽器としてはもっとも適切なものである。
 楽器としての性能上から観た場合……ピアノは、作曲家の友人であり、音楽教師のための黒板であるといわれている。つまり、楽器の中で最も完璧な機能を備えたものなのである。以下、その長所を列挙してみよう。
 ⑴ 他の、構造がシンプルな諸楽器と比較した場合、その価格が安い。
 ⑵ 耐久力が大きく、メンテナンスさえ適切であれば、数十年の酷使に堪えうる。
 ⑶ さまざまの大きさと、形態のものが入手でき、楽器としての機能の他に、室内の装飾品としても役立つ。
 ⑷ ポータブルではないが、比較的容易に移動することができる。
 ⑸ パイプオルガンや電気、電子楽器のように、電源その他の外部的なエネルギーを必要としない。
 ⑹ メーカーやチューナーが調律をしてくれるため、奏者は、ピッチを心配する必要がなく、そのまま演奏できる。
 ⑺ 通常のピアノは88鍵で、その音域は7オクターブ以上もあり、最低音はパイプオルガンの16フィートのペダル・ノートよりさらに短三度低く、これはダブルバスの最低音より五度も低いこととなる。最高音は、パイプオルガンの4フィートのものと同じ音程で、ピッコロの最高音よりさらに高いものとなる。
 ⑻ ダイナミック・レンジが極めて大きく、ペダルを使用した際の音色の変化も、他のモノクロマチックの楽器と比べた場合、比較にならないほど多彩である。
 ⑼ メロディ、ハーモニー、リズム、および対位法の演奏も自由自在で、あらゆる形式の音楽に使用できる。
 つまり、音楽的にもっとも優位に立つオールマイティの楽器なのである。


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パイプオルガン 17世紀の音楽学者であったカーチーが書き残したキリスト教の天地創造の寓話を含んだパイプオルガンの図

改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


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