閉じられた舟〈ある僧侶の地獄への旅と生還〉[全2幕]石井真木作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

M. Ishii, Tojirareta fune (Das Schiff ohne Augen)

閉じられた舟〈ある僧侶の地獄への旅と生還〉[全2幕] 石井真木作曲


登場人物❖

智暁(T) 閻羅大王(Br) 黒衣・幻影の女(演技のみ) 他


概説

 このオペラは、作曲者が一九八〇年に発表した音響詩「熊野補陀落」をもとに構想された。仏教的な死生観が浮き彫りにされていて、主役の僧・智暁はドイツ語歌唱で主に「観音経」を唱え、閻羅大王は日本語で朗誦と歌唱の間を曖昧に歌う。

 

 舞台には舟が置かれていて、大勢の僧侶が観音経を唱えながら現れる。高僧の智暁は選ばれて極楽浄土の死の世界に送り込まれることになり、櫓もなく外も見えない閉じられた駕籠舟で舟出する。智暁は舟の中で静かに読経するが、暗闇の中で次第に不安が募って読経に身が入らない。幻覚が襲ってきて、死の恐怖から逃れようと必死に経を唱える。

 海の底から妙なる響きが聞こえ、女が現れるので智暁はびっくりする。智暁はその女の虜になって肉欲を求める煩悩がよぎる。すると女は突然変身し、水を満たした柄杓を持って行き来するので喉の渇きを覚えて狂うが、女はそのまま姿を消す。幻想が消え、絶望的になった智暁は仏に哀願するが、失意の智暁の耳にまた何かが聞こえて恐怖感が迫る。

 智暁はたびたびの幻想から現実に戻ると、恐怖から自制心を失い必死に助けを求める。大勢の僧侶の読経が聞こえ、心身ともに弱り果てた智暁は悶絶死する。暗闇の中空を智暁の魂が浮遊し、生と死の間をさまよう。やがて遥か遠くから妙なる響きが聞こえ、一条の光が射し込んで来る。舟を降りて白い死の衣装をまとった智暁は色彩豊かな閻魔王宮に至るが、智暁はここを極楽浄土と錯覚する。

 閻魔大王が登場して、ここは極楽へ行くか、地獄へ行くかを裁判する場だと言う。彼は高僧としての知識をひけらかし、大王と問答を交わすが、智暁のうわべだけの信仰心を見抜いた大王は、地獄行きの判決を下す。

 地獄では灼熱の業火が燃え盛り、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が蠢(うごめ)いている。智暁は真っ赤な鉄火柱に追い立てられる。突然静寂が訪れ、遠くから読経が聞こえて智暁の苦痛が消える。すると再び大王の大音声がして、今度は銅火柱を抱かせられる。こうして静寂と苦痛が繰り返され、智暁はついに意識を失う。

 天井から仏教の慈悲を象徴する一条の糸が垂れ下がり、智暁は自己の愚かさに気がつく。閻魔大王は智暁を戒める。舟は地獄からゆっくりと現世娑婆に帰り、智暁は白衣から元の僧衣姿に戻る。智暁は長い旅路から生還した安堵感と成仏がかなわなかった無念さを恥じ、南無観世音菩薩を念誦する。


Reference Materials



初演
1999
10月2日シャウブルグ劇場(オランダ・ユトレヒト)

日本初演
2000
1113日 日生劇場(東京)

原作
「補陀落渡海」「日本霊異記」

台本
東龍男、石井真木/ドイツ語および日本語

ドイツ語台本 
クリスタ・マイネッケ石井

演奏時間
第1幕43分、第2幕59分(日生劇場初演時)

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



◀︎◀︎◀︎ 光         祝い歌が流れる夜に ▶▶▶︎


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