愛怨[全3幕]三木 稔作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

M. Miki, Ai-en 2003~05

愛怨[全3幕]三木 稔作曲


登場人物❖

桜子/柳玲(S) 大野浄人(T) 玄照皇帝(Br) 光貴妃(S) 阿部奈香麻呂=朝慶(T) 若草皇子(Br) 影巳(Ms) 孟権(Br) 隆祥(Br) 柳玲(琵琶演奏) 他

概説

 1979年の「あだ」以来、三木稔が取り組んできた日本史オペラの連作第八作として発表された。彼の円熟した作曲技法が遺憾なく発揮された抒情的な作品である。台本は、八世紀古代日本の遣唐使をテーマに、瀬戸内寂聴が初めてオペラに挑んだ書き下ろしの作品である。実在した人物を思わせる登場人物が設定されているのが親近感を抱かせる。

愛怨.png 

第一幕

 

 八世紀中葉の奈良。桜子が現れ、琵琶奏者の大野浄人と若草皇子の双方から求愛されていると歌うが(「わたしの愛はどちらに」)、心は浄人と決めて彼を待つ。浄人は大和の聖明皇后から、遣唐使として唐の光貴妃の秘曲である琵琶の曲「愛怨」を持ち帰る命を受けている。出発を明日に控えた二人は歌う(「二人で見る月は今宵が最後」)。それを木陰から見ていた皇子は、恋に敗れたことを悟る。

 結婚したばかりの浄人は妻桜子を残して都を出発するが、それから三ヶ月後、幸せな彼女は皇子から遣唐使の船が航海の途中で嵐に遭って沈没したと伝えられる。その知らせを聞いた桜子は、狂乱のあまり池に身を投げる。

 

間奏曲

 

 それから二年後、唐の都長安から遠い南の町。南の海辺に漂着して一命を取りとめた浄人は浮浪者同様のみすぼらしい身なりになる。彼は大道で開かれた囲碁大会で持ち前の手腕を発揮するので見物人は驚く。そこに通りかかったのは以前遣唐使として入唐した阿部奈香麻呂だった。彼は入唐してから科挙に合格して、今では朝慶の名で朝廷の役人になっている。奈良麻呂は日本人の浄人との遭遇を喜び、浄人を伴って長安に戻る。奈良麻呂は浄人から来唐の目的を聞き、「愛怨」は光貴妃とその寵愛厚い侍女の柳玲しか弾くことができない秘曲であると教える。

 

第二幕

 

 大唐の王宮の御殿と庭園。浄人は光貴妃の誕生祝賀の宴に招かれる。朝慶として祝宴に出席した奈香麻呂は、玄照皇帝と光貴妃に浄人を紹介する。浄人は琵琶奏者であることを明かすと、光貴妃は彼に唐の琵琶の音色を聴かせようと柳玲を呼ぶ。浄人は彼女が日本に残してきた桜子と瓜二つであるのに、思わず「桜子」とつぶやく。柳玲は琵琶を弾き始めるが、それは桜子が弾いていた曲であることにまたも驚愕する。浄人は笛を取り出して、琵琶と息の合った合奏をする。柳玲は彼が誰であるかを考えめぐらす(「私の心」)。

 別室で浄人と囲碁の手合わせを終えた皇帝は玉座に戻り、「大唐国は世界の華」と大きな気分になり、囲碁大会の優勝者に柳玲を与えると宣言する。柳玲に横恋慕している孟権は小躍りして、策を弄しても大会に優勝しようと考えるが、実は皇帝は浄人が勝って柳玲と結婚し、唐に留まることを目論んでいる。

 場面は変わって朝慶(奈香麻呂)の家。彼は皇帝の策略を話し、浄人に囲碁大会に参加しないよう説得して出て行く。入れ替わりに柳玲が訪れ、彼女の父はかつての遣唐使紀晴河であり、父は双子の姉妹のうち姉桜子を連れて日本に戻ったことを明かす。そして「愛怨」は父から教えられた曲だという。柳玲は浄人に「愛怨」を伝授した上で、彼を桜子が待つ日本に帰そうと考える。そこに朝慶と商人の隆祥が入ってきて桜子の悲報が伝えられ、その次第を記した皇子の手紙を渡す。そこには自分の早まった遭難の報せで桜子を死なせてしまったことを悔やむとしたためてあった。そして隆祥から、皇子も内乱で死んだことが伝えられる。

 

第三幕

 

 場面は一年前の大和。闇の中、若草皇子の別邸に葛城王の軍勢が押し寄せ、謀反の罪を着せられた皇子は殺される。

 場面は再び一年後の唐に移る。柳玲は浄人に、掟に反すると死罪に当たる「秘曲」の伝授を始める。この光景を覗き見していた孟権は、光貴妃に訴えようと出て行く。

 囲碁大会が始まる頃になり、人々が集まって来る。隆祥は浄人に、孟権はいざとなると汚い手を使うので注意するように言う。劣勢の孟権はついに対局違反をしたために浄人の勝利が認められ、孟権は警吏に引き立てられる。すると孟権は、柳玲が掟に反して浄人に秘曲「愛怨」を伝授した罪を暴いて、柳玲と浄人こそ死刑にすべきだと主張する。

 柳玲は用意していた毒薬をあおいで自殺を図り、自分の冒した罪の赦しを乞う。それを見た光貴妃は、すぐに解毒剤を飲ませる。浄人は柳玲に駆け寄り、二人で愛の二重唱を歌う(「この世であなたに逢えて嬉しい」)。

 その時、突如北方で大反乱(安緑山の乱)が勃発したことが伝えられて祝賀会は大混乱に陥るが、二重唱が続くうちに幕となる。

Reference Materials



初演
2006
年2月17日 新国立劇場(東京)

台本
瀬戸内寂聴/日本語

演奏時間
第1幕58分、第2幕54分、第3幕46分(下記DVDによる)

参考DVD
● 釜洞祐子、経種廉彦、星野淳、宇佐美瑠璃、田中誠、黒田博/大友直人指揮/東京響、新国立劇場唱(DEN

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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