沈黙[全2幕]松村禎三作曲

HOME > メディア > 詳解オペラ名作217 > 沈黙[全2幕]松村禎三作曲
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

オペラ名作217 もくじはこちら

詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

T. Matsumura, Silence 1993

沈黙[全2幕]松村禎三作曲


登場人物❖

ロドリゴ(T) フェレイラ(Br) ヴァリニャーノ(Br) キチジロー(B) モキチ(T) オハル(S) おまつ(S) 他

概説

 松村禎三が本格的にこのオペラの作曲に取り組んだのは1980年にサントリー音楽財団の委嘱を受けてからである。以来13年の年月をかけて完成させた。その後上演のたびに小さな改訂が加えられている。

 江戸時代のキリスト教伝来と、それに対する迫害をテーマにした重苦しい雰囲気が支配している作品である。

 

第一幕

 

 第一場 火磔(かたく) キチジローの両親と妹が火の中で磔(はりつけ)にされ、殉教者たちの合唱が聞こえる。村人たちは親と妹を売ったキチジローを非難する。悶え苦しみ逃げ惑い、日本からマカオに逃げ出したキチジローの原光景が提示される。

 第二場 マカオの教会 夕暮れ時のマカオの教会の奥から修道士たちのキリエの声がする。布教学院の院長ヴァリニャーノ神父は、ポルトガルから到着した若き宣教師ロドリゴと語り合う。ロドリゴは、日本のキリスト教徒を救い、リスボンにいた頃の恩師フェレイラの安否を確かめるために渡日を願い出る。神父の反対を押し切ったロドリゴに、神父は水先案内人としてキチジローを紹介する。ロドリゴは彼に信仰の有無を尋ねるが、キチジローは沈黙する。

 第三場 間奏曲

 第四場 トモギ村にある一棟の納屋 長崎近郊の村では、隠れて集まった信徒たちが密入国に成功したロドリゴを囲んで祈祷をしている。一人の少年が感激のあまり、ロドリゴの腰につけたロザリオの十字架に接吻する。皆がひしめくうちにロザリオがちぎれて飛び散る。その破片の美しさに見とれながら、恋人同志のオハルとモキチは幸せそうな二重唱を歌う。キチジローは得意げにロドリゴを連れて来たと語るので皆は称賛する。ロドリゴは皆にフェレイラの消息を尋ねるが、答える者はいない。

 第五場 山上のアリア ロドリゴは主をたたえるアリアを歌う(「おお主よ)。

 第六場 丘の上 丘の上のロドリゴのもとに少年が駆けつけ、役人がじさま、イチゾウ、モキチ、キチジローの四人を逮捕して行ったと伝える。ロドリゴは彼らの無事を祈るが、少年からはすぐ逃げるように急かされる。

 第七場 間奏曲(踏み絵) 捕らえられた四人は役人から踏み絵を迫られるが、イチゾウとモキチは踏めずに連れて行かれる。じさまは踏み絵を抱きかかえるので引き立てられ、キチジローだけが踏んで唾を吐きかけるが、恐怖におののく。

 第八場 水磔(すいたく)(黝⦅あおぐろ⦆い海辺) 捕えられた三人は海中の柱に磔にされる。瀕死のモキチに恋人オハルは半狂乱になって倒れる。一同は祈るが、村人の合唱の中にモキチは息絶える。

 第九場 海沿いの断崖の上 村人たちの合唱の歌声が幻想になってロドリゴにつきまとう。ひたすら祈るだけで逃げ惑うロドリゴに対して、キチジローが早く隠れるよう言う。自分の密告によってロドリゴも捕らえられるので、キチジローは主に許しを乞う。

 

第二幕

 

 第十場 長崎の牢 捕らえられたロドリゴに長崎奉行井上筑後守は、日本にキリシタンは根づかないと言い放つ。ロドリゴは通辞からフェレイラが生きていることを知らされる。

 トモギ村の信徒たちが現れる。瀕死のオハルはモキチの幻影と二重唱を歌って息絶える。牢の外からキチジローが入ろうとするが、番人に制止される。少女たちが盂蘭盆(うらぼん)の歌を歌って去る。

 第十一場 海辺 村人たちが処刑されようとしている。筑後守はロドリゴに向かって、お前がまず転べば皆が助かると脅すが、彼は拒絶する。薦(こも)に巻かれたおまつなど、一行が船に乗せられて海に突き落とされる。ロドリゴは自ら海に飛び込むが、筑後守に捕らえられて牢に連れ戻される。

 第十二場  牢の中のロドリゴを変貌したフェレイラが訪ねて来るので、驚いたロドリゴは彼に憐れみを乞う。フェレイラはロドリゴを転ばせるためにキリシタンの誤りを暴く書物を翻訳していると言うので、ロドリゴは嘆く。フェレイラは日本にはキリシタンは根づかないと言うので、ロドリゴは彼に出て行くよう求める。

 第十三場 長崎の町 少女たちの歌が聞こえ、処刑を前にロドリゴは町中を引き回される。町人たちがキリシタン、南蛮人と罵る中、キチジローは許しを乞いに追い駆けて来る。群衆は騒然として去る。

 第十四場 牢(独房) ロドリゴは暗闇の中を、手さぐりで「LAUDATE EUM(主をたたえよ)」と壁に刻まれているのを見つける。酒を飲んだ牢番のイビキが聞こえる。またキチジローがロドリゴを訪れて許しを乞おうとするが、牢番に追い返される。

 通辞とフェレイラがやって来て「LAUDATE EUM」の文字は自分が彫ったものだとロドリゴに語る。また聞こえているのは牢番のイビキではなく信徒たちの呻(うめ)き声で、ロドリゴが転ばぬ限り彼らを助け出すことはできないと言う。ロドリゴは呻き苦しみ、イエスに今こそ「沈黙」を破るべきだと叫ぶ。フェレイラのなおも転ぶようにとの説得に対して、ロドリゴはもう何も言うなと叫ぶ。

 第十五場 白い朝 ロドリゴの前に踏み絵が置かれ、フェレイラは踏むように促す。絵の中の傷ついたキリストの姿に、イエスは何ひとつ語りかけてくれなかったと嘆く。

 第十六場 前場と同じ ロドリゴはついに踏み絵に足をかけ、踏み絵を抱きかかえて床に突き伏す。奥から神の存在をたたえる合唱が響く。

Reference Materials



初演
1993
11月4日日生劇場(東京)

原作
遠藤周作の同名小説

台本
松村禎三

演奏時間
第1幕55分、第2幕64分(下記CDによる)

参考CD
● 田代誠、直野資、大島幾雄、宮原昭吾、小林一男、釜洞祐子、秋山雪江/若杉弘指揮/新星日本響、二期会唱(Cam

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



◀︎◀︎◀︎ 金閣寺         鳴神 ▶▶▶︎


オペラ名作217 もくじはこちら

 



  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 
KAWAI
YAMAHA WEBSITE