金閣寺[全3幕]黛 敏郎作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

T. Mayuzumi, Kinkakuji 1976

金閣寺[全3幕]黛 敏郎作曲


登場人物❖

溝口(Br) 父(Br) 母(S) 若い男(T) 道詮(B) 鶴川(Br) 女(S) 柏木(T) 娼婦(Ms) 有為子(Ms

概説

 グスタフ・ルドルフ・ゼルナーが芸術監督時代のベルリン・ドイツ・オペラの委嘱により作曲された。

 1950年にあった金閣寺放火炎上事件にヒントを得て書かれた三島由紀夫の小説を原作としたオペラで、主人公溝口青年の心理を追ったユニークなドラマである。ベルリン初演後日本でも行われた上演は、いずれも原語のドイツ語で行われている。

金閣寺(1997年11月)撮影:大阪音楽大学.png
「金閣寺」1997年11月 撮影:大阪音楽大学

 

第一幕

 

序景 合唱によって、片手に障害を持って生まれた主人公の溝口はそのことを自覚できないことと、金閣寺建立の由来が語られる。

一景 「金閣は焼かれねばならない」という観念に囚われた青年溝口の回想が続く。

二景 丹後半島の小さな寺の住職で胸を患う溝口の父は、息子を金閣寺の住職道詮へ弟子入りさせようと考える。溝口は近くに住む有為子に好意を抱いていたが、彼女を愛していた若い脱走兵は、有為子が裏切ったと思って彼女を殺して自害する。

三景 ある夜、溝口はランプの下で母と若い男との情事の場面を目撃する。

四景 父と溝口は金閣寺にやって来る。父親はその美しさをたたえるが、溝口は初めて見た本物の金閣寺よりも、水に映った姿のほうを美しいと思う。

五景 金閣寺の住職、道詮の書院。父は旧友の道詮に息子を紹介して弟子入りを頼む。道詮はそれを快諾して、二人に泊まって行くよう勧める。

六景 金閣寺に住むようになった溝口は「なぜおまえはそんなに美しいのか」と問う。

七景 丹後半島の海辺の火葬場への道。溝口は病死した父の棺を運ぶ葬列を見送る。

八景 寺の同僚の鶴川は父を失った溝口を慰め、南禅寺に遊びに行こうと誘う。

九景 溝口と鶴川は南禅寺天授庵で、出征する若い士官と娘の別れの儀式を目撃する。溝口には有為子の面影がよみがえり、美しい金閣寺を灰塵(かいじん)にする思いが募る。

 

第二幕

 

前奏曲 本土空襲で街々に爆弾が落とされるようになる。

一景 溝口は金閣寺も戦火で焼かれることによって美を残すことができると考える。彼は臨済録の一説を知るが理解できない。京都は戦火を逃れて終戦になる。

二景 終戦後の冬のある朝、米兵が有為子そっくりの日本人娼婦を連れて金閣寺に来る。米兵と諍(いさか)いになった彼女は倒され、案内役の溝口は米兵の言う通りに娼婦の腹を踏む。

三景 事件からしばらく経つ。溝口は寺の人々の自分を見る目がよそよそしいので鶴川に詰問すると、案内人に腹を踏まれた女が寺に来て流産したと訴えたので、副司が金を与えて追い返したと言う。溝口がそれを否定するので疑いは鶴川にかかる。

四景 溝口は大学に進学して、足に障害を持つ柏木と親しくなる。ある日柏木は、未亡人の生け花の師匠を溝口に紹介すると言う。

五景 部屋に入って来た女が南禅寺天授庵で見た女であるのに驚く。柏木は仮病を装って、溝口と女を残して一人部屋を出る。

六景 溝口は女に天授庵で見た出来事を話す。女は溝口と柏木を同時に受け入れると言う。抱き合う瞬間、溝口の心の中には金閣の幻影が襲う。女はそんな溝口を嘲笑する。

七景 柏木が、溝口が娼婦の事件で嘘をついたため鶴川が自殺したと告げて彼を非難する。溝口は鶴川が灰になったからには、やはり金閣寺を焼かねばならないと思う。

 

第三幕

 

一景 キャスリン台風の夜、溝口は台風が金閣寺と自分を倒壊しに来ることを願うが、台風は京都をそれる。

二景 柏木が尺八を持って金閣寺を訪れるが、溝口は音楽の美など儚(はかな)いと言う。

三景 晋山式の儀式の日。溝口は金閣寺の住職になる夢を見る。

四景 (しばしば省略される)

五景 溝口は道詮と母から、柏木からの多額の借金と授業料の未払いについて詰問される。溝口が曖昧な答えしかしないので道詮は叱り、母は悲嘆に暮れる。

六景 柏木が道詮に肩代わりさせたお金を持って現れる。柏木は鶴川の最後の手紙を見せて、鶴川が信用していたのは溝口ではなく自分だったと言う。

七景 登場人物が走馬灯のように次々と現れては溝口に語りかける。溝口は放火の準備を始める。

八景 溝口は自分自身からも自由になるために、ガソリンと麻くずを手に放火しようと決然と金閣寺に向かう。


Reference Materials



初演
1976
年6月23日 ベルリン・ドイツ・オペラ

日本初演
1991
年3月6日 オーチャードホール(東京)

原作
三島由紀夫の同名小説

台本
クラウス・H・ヘンネベルク/ドイツ語

演奏時間
第1幕37分、第2幕38分、第3幕37分(下記CDによる)

参考CD
● 勝部太、松本進、亀田真由美、上原正敏、山口俊彦、佐野正一/岩城宏之指揮/東京フィル、東京混声唱(Fon

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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