建・TAKERU[全3幕]團伊玖磨作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

I. Dan, Takeru 1994~1996

建・TAKERU[全3幕]團伊玖磨作曲


登場人物❖

倭健(Br) 弟橘姫(S) 火焚翁(Br) 忍代別天皇(T) 倭姫(Ms) 吉備武彦(T) 大伴武日蓮(Br) 尾足(Br) 夏乃(S) 春乃(S) 他

概説

 團伊玖磨のオペラとしては第七作にあたるこのオペラは東京の新国立劇場の開場記念公演のために作曲されたものである。前作の「素戔嗚(すさのお)」と共に日本の神話時代をテーマにしており、「古事記」と「日本書紀」に題材が求められている。

建・TAKERU三枝撮影.png
新国立劇場開場記念公演
オペラ「建・TAKERU」(1997年10月)
撮影:三枝近志

第一幕

 

 第一場 生駒山麓 忍代別天皇(おしろわけのみかど)(景行天皇)の皇子小碓尊(おうすのみこと)は、九州の熊襲(くまそ)を討伐して倭建(やまとたける)と名を改め、明日には倭に帰還しようとしている。建の年老いた従者の火焚翁(ひたきのおきな)は、最近毎晩のように凶事の前兆である彗星が現れるので心配している。建たちが倭に向かおうとしたところ、天皇の使者として吉備武彦(きびのたけひこ)と大伴武日蓮(おおとものたけひのむらじ)が現れて、そのまま東国に向かい蝦夷を討つようにという命令を伝える。

 疲れ切った兵士を休めることもかなわずに東征に向かわねばならない建の口からは「倭は国のまほろば」という国見歌が出て、兵士は「倭はうるわし」と歌う。建に伴う部下には、知恵袋である腹心の火焚翁の他に三人の射手がいた。

 第二場 伊勢斎宮 伊勢斎宮の暗い堂内では、天皇の妹にあたる倭姫(やまとひめ)が祭壇に向かって建の武運を祈っている。東征の途上で頼りにする叔母倭姫のもとに立ち寄った建は、「天皇は我に死ねと思おやすのや」と言って、魔除けにと賜った八尋矛を打ち砕いてしまう。倭姫はそのような建を慰め励まし、新たなお守りとしてかつて素戔嗚(すさのお)が八岐大蛇(やまたのおろち)の退治に使った草薙剣(くさなぎのつるぎ)を与えて送り出す。

 

第二幕

 

 第一場 駿河国造館 前庭 駿河国造の尾足(おたり)は、東国の平定に向かう建の一行を表向き歓待するふりをして祝宴を開く。その最中に建を亡き者にしようと、尾足は二人の娘に建と吉備を誘惑させようとする。吉備はまんまと妹娘の夏乃の罠にはまるが、建は姉娘の春乃のその手には乗らない。そこで尾足は計画を変更して建を巧みに狩に誘い、草原に火を放って彼を殺そうとする。

 第二場 相模の野「火」 富士の裾野の草むらでは草陰に怪しい人影が動く。それは両面少名(りょうめんすくな)という前後に恐ろしい顔を持つ怪物たちである。怪物たちは、二日前に男女六人の旅人を捕らえたと言う。それは病気の倭姫に呼ばれて伊勢に赴き、燧石(ひうちいし)の入った皮袋を託されて建のもとに届けに来た建の妻弟橘姫(おとたちばなひめ)と大伴たちの一行だった。

 彼女が夫との束の間の再会を喜び合う間もないうちに尾足と両面少名らは姿を消し、草原に火を放つ。建は草薙剣を振るって草をなぎ倒し、弟橘姫が持ってきた袋から燧石を取り出して風上から火をつけて、尾足らを討つ。そこに尾足の娘から手傷を負わされた吉備が現れるので皆の嘲笑を買う。建らはさらに東に向かう。

 第三場 走水「水」 建の軍勢は上総を目指して走水(はしりみず)にさしかかり、倭はここで引き返す弟橘姫と別れを惜しむ二重唱を歌って船に乗り込む(「倭は国のまほろば」)。いざ出航という時に海神が大嵐を起こし、船は動けない。そこで弟橘姫は海神の怒りを鎮めようと入水を決意して悲痛な辞世の歌を詠む(「ああ皇子旅路安かれ」)。

 

第三幕

 

 第一場 碓日坂陣営 愛妻の犠牲によって無事上総に渡ることができた建の東征軍は、さらに陸奥へと進む。彼らは蝦夷を討ち、常陸、甲斐をめぐって東方十二ヶ国のうち十ヶ国を平定して碓日坂(碓氷峠)まで戻って来た。ここで建は弟橘姫を偲んで「吾妻はや」と詠嘆する。吉備はこの時突然自分が忍代別天皇の密偵であると告白して、自分を成敗して弟橘姫の霊を鎮めてほしいと言う。

 しかし戦の空しさを知った建は吉備を赦し、自分だけで残る二つの国は平定できるからと、兵士たちに家族が待つ倭に帰るよう促して軍を解散する。

 第二場 伊吹山 軍隊解散後も志願して健に同行してきた三人の射手と火焚翁を残し、建は荒ぶる伊吹山の神である白い猪との対決に草薙剣も弓矢も持たず向かう。素手で赴いたのは、自分の力を過信したためであった。

 ところが射手たちの不吉な予感通り、突如伊吹山に嵐が起こり、建は半死半生で山から転げ落ちる。

 第三場 能煩野へ[最終場] 傷ついた建は、伊吹山と伊勢との中間あたりの能煩野(のぼの)の海辺までたどり着いた。建は三人の射手たちに、伊勢に立ち寄って草薙剣と燧石の入った袋を倭姫に返した後に、自分に代わって天皇に東国征伐が終わったことを報告するように命じる。残った建は忠実な火焚翁に看取られながら国見歌を繰り返し(「倭は国のまほろば」)、合唱がそれを反復する。

 建はさらに過去の業績を振り返り、「命の全(また)けむ人は たたみこも 平群(へぐり)の山の 熊かしが葉を うずに挿せ その子」と部下たちにたむけて歌う。最期に建は父天皇との和解を求め、平和で病むことのない祖国の未来を祈念して息を引き取る。無数の白鳥が飛び立ってゆく。

 

Reference Materials



初演
1997
1010日 新国立劇場(東京)

台本
團伊玖磨、小田健也/日本語

演奏時間
第1幕53分、第2幕66分、第3幕61分(新国立劇場初演時)

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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