修禅寺物語[1幕]清水 脩作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

O. Shimizu, A Mask-makerÅfs Story 1948~54

修禅寺物語[1幕]清水脩作曲


登場人物❖

源左金吾頼家(T) 夜叉王(Br) かつら(S) かえで(S) 春彦(T) 下田五郎景安(T) 金窪兵衛尉行親(B)他

 

概説

 日本語の語感を大切にしつつ、役柄の性格を的確に表現した作品であり、際立ったアリアは採り入れられていない。初演は、武智鉄二演出、朝比奈隆指揮の関西歌劇団によって行われた。伴奏オーケストラには何度か手が加えられ、二管編成の決定稿は1979年に完成した。

 

 第一場 伊豆の夜叉王の住家。面作師夜叉王の娘かつらとかえでが、庭先で紙砧を打っている。気性の激しい姉かつらは手を休めて、もう片田舎の貧乏暮らしは嫌になったから関白将軍の側に仕えたいと言うのに対して、気立ての優しい妹かえでは姉の高望みをいさめる。奥から出て来たかえでの婿春彦が、面作師も立派な仕事だとかつらに反論するので、二人は口論になる。あまりの騒がしさに、隣の仕事場から「騒がしい」と一喝する声がして夜叉王が姿を現す。かつらとかえでは奥に去る。夜叉王は春彦に、かつらは公卿(くげ)奉公していた気位の高い母の性格を受け継いでいると話して、春彦をなだめる。

 春彦が用事で大仁に出かけた後、修禅寺の僧に案内されて源左金吾頼家が家臣の下田五郎景安とともに訪れる。頼家は注文した自分の面がいつになってもでき上がらないので、お忍びで催促に来たのである。しかし夜叉王は、満足できるような面がいつでき上がるか自分でもわからないと言う。

 短気な頼家は太刀に手をかけようとするが、その時かつらが奥から走り出て、昨日できた面があると言って、頼家に箱を差し出す。夜叉王は、その面には死相があり不吉な面だと言って渡そうとしないのを、頼家は満足して受け取り、しかも美しいかつらを側女に召し抱えることにして、彼女を従えて暗い夜道を帰って行く。

 仕事に戻った夜叉王は、不出来な面を献上したのは一生の名折れだと、仕事場から持ち出した槌で壁にかけてある面を打ち砕こうとして、もう二度と槌は持つまいと言う。かえでは父に取りすがって、一生のうちに名作がひとつでもできれば名人なのだから、さらに良い面を作って下さいと泣き崩れる。

 第二場 同じ日の宵、桂川にかかる虎渓橋のたもと。夜叉王の家からの帰途、五郎は何か不安を感じるが、頼家とかつら二人の邪魔(じゃま)をするまいと、頼家に命じられるままに僧とともに先に帰る。

 しばらくして頼家とかつらが現れ、頼家は傍の石に腰をかける。かつらは、三月に初めてお会いして以来心を惹かれていたと打ち明ける。頼家もその言葉に心を打たれて新しい側女を得て喜び、若狭という名を与える。しかし頼家は自分の不吉な運命を予感して、もし自分の身に万一のことがあったら、お前の父が打った面を形見と思うようにと語る。

 その時あたりの虫の音が止み、完全武装した金窪兵衛尉行親が姿を現す。行親は頼家の元家臣であったが、今では北条家の家臣になり、鎌倉の北条時政の命令で頼家の暗殺を狙(ねら)っている。行親の意図を察した頼家がすきを見せないので、行親は目的を果たすことができない。

 彼は傍の女性が若狭の局(つぼね)であると聞き出すと、北条殿に相談もなく側女にしたと責める。立腹した頼家は、北条と言っても自分の家来に過ぎないと鋭く言い放って立ち去る。行親は近くに隠れていた部下に、ここで討ち損じたからには修禅寺の御座所(ござしょ)に夜討ちをかける以外に方法はないと命じる。

 大仁から帰宅途中の春彦が、木陰でこの命令を盗み聞きする。春彦は来合わせた五郎に夜討ちの件を伝える。驚いた五郎の前に行親の部下が現れて一行を取り囲む。五郎は彼らと刀を交えながら春彦に御座所への注進を頼むので、春彦は急いで橋を渡って駆け去る。

 第三場 第一場と同じ伊豆の夜叉王の住家。修禅寺の早鐘が異変を告げる。かえでは父に御座所で夜討ちがあったと知らせるが、夜叉王は源氏が勝とうが北条が勝とうが自分たちには関係ないと言う。頼家の許へ行った姉の身の上を心配するかえでに夜叉王は、かつらにはかつらの覚悟があろうと諭す。

 あたりが一段と騒がしくなった頃、春彦が駆け込んで来て、夜討ちの注進に御座所へ走ったが、既に北条の軍勢に取り囲まれて中に入れず、頼家の安否も不明だと告げる。その時、門の外で誰かが倒れる音がする。抱きかかえて見ると、先ほど頼家が持ち帰った面を着けた武士である。面を外すと、それはかつらであった。彼女が苦しい息のもとで語るところによると、不意の夜討ちに殿を助けるため父の面と衣裳を着けて身代わりになり、敵と戦いながらここまで逃げて来たと言う。そして将軍家のお側に召されたからには、死んでも本望だと言う。そこに修禅寺の僧が慌てふためいて入って来て、頼家が殺されたと告げる。かつらは自分の身代わりが役立たなかったのを知ると、絶望して倒れる。

 自分の打った面にじっと見入っていた夜叉王は、いくら打ち直しても死相が面に現れていたのは自分の腕が悪いからではなく、神でなくては知り得ない運命が面に自然に現れ、自分の技術が神の域に達した証拠だと満足して、伊豆の夜叉王はあっぱれ天下一だと高笑いする。かつらも、将軍家の側女になって思い残すことはないと苦しげに言う。すると仕事の鬼に返った夜叉王は、断末魔の女の面をのちの手本に写しておきたいと言って筆を取る。かつらは最後の力を振り絞って父の方に顔を向ける。かつらは次第に力尽きて息絶え、娘の顔を食い入るように見つめる夜叉王の手から紙が落ちる。


Reference Materials



初演
1954
11月4日 
朝日会館(大阪)

原作台本
岡本綺堂の同名の新歌舞伎用の戯曲/日本語

演奏時間 92分(下記CDによる)

参考CD
川崎静子、柴田喜代子、伊藤武雄、柴田睦陸、荒木宏明/森正指揮/二期会オーケストラ(日本伝統文化振興財団)

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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