黒船[序景と全3幕]山田耕筰作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

日本オペラ

K. Yamada, The Black Ships 1939~40

黒船[序景と全3幕]山田耕筰作曲


登場人物❖

お吉(S) お松(S) 姐さん(Ms) 領事(T) 書記官(T) 吉田(Br) 伊佐新次郎(Br) 町奉行(B) 

 

概説

 台本は親日派のジャーナリストで日本外交史の研究家であったパースィー・ノエルが「唐人お吉」の物語をもとにして「黒船」という題名で書き下ろし、シカゴ歌劇場での上演をもくろんで山田耕作に作曲を依頼した。しかし、1929年に「序景」が完成したところで上演の計画が頓挫したために作曲は中断された。

 その後山田耕筰は、自ら主宰する日本楽劇協会の皇紀二千六百年奉祝公演(1940年)として上演するために作曲を再開し、英語の台本も山田が手を入れて日本語に翻訳した。日本人作曲家による最初の本格的なグランド・オペラである。

 初演では「夜明け」と改題され、序景はカットされたので、以後この形での上演が慣習になった。完全な全曲上演は2008年東京の新国立劇場で行われた。

 

序景

 

 ペリー提督率いる黒船来航から三年が経った安政六年(1859年)。アメリカの領事館はまだ設置されておらず、太平の眠りにある下田の町は、夜祭りの盆踊りでにぎわっている。美女で歌のうまいお吉と、尊王攘夷派の浪人吉田は恋仲である。地震と火事が町を襲い、来たるべき激動の混乱を暗示する。

 

第一幕

 

 安政三年(1856年)の伊豆下田、お茶屋伊勢善。夏の夕暮れ時。支配組頭の伊佐新次郎と町奉行は、徳川幕府がアメリカと開港条約を結び、この地にも領事館が設置されると話している。二人は不安を抱きながらも、芸者お松を呼んで酒宴を張る。そこに編み笠姿の浪人が闖入(ちんにゅう)するので緊張するが、何事も起きずにその場は収まる。舞台裏からお吉の歌声が聞こえて来る。姐さんに連れられて入ってきたお吉は見事な歌を歌うので、伊佐はお祝儀を与えるが(「不思議や、あや不思議や」)、堅いお吉は受取ろうとしない。

 尊皇攘夷派の吉田が現れる。彼は西洋人排斥を強く訴え、開国派の幕府役人を国賊呼ばわりして天誅(てんちゅう)を加えようとする。そこに江戸の幕府から、外国人に危害を加える者は磔(はりつけ)の刑に処すというお達しが届く。形勢不利とみた吉田はしぶしぶ引き下がる。

 その時、港のほうから黒船の到来を知らせる漁師たちの怯えた叫び声が聞こえるので、皆は逃げ去る。上陸して来たアメリカ人領事は感慨深げに日本上陸の感激を歌い(「おおうるわしの日本よ」)、一人残っているお吉に奉行所への道を尋ねる。領事は彼女の初々しさに名前を尋ねる。領事の紳士的な態度に好意を持ったお吉に吉田が忍び寄り、短剣が仕込まれた白い扇を渡して、折りあらば毛唐を討ち取れと指令する。我に返ったお吉は、自分の悩みを深める。

 

第二幕

 

 一年後のお茶屋伊勢善の大広間。浪人たちは尊皇攘夷がなかなか実行されないことに苛立ち、憂さ晴らしにドンチャン騒ぎをしている。吉田はお吉を呼び出して領事暗殺の決行を促すが、彼女の心は迷う。

 そこに領事と書記官が遊びに来る。書記官はお松とねんごろになっているようだが、領事は幕府との交渉が難航している上に、本国からも何の応援も来ないので苛立っている。彼は可憐なお吉に好意を抱き始める(「君の眼に」)。

 二人が去ると書記官が現れ、お松を自分のものにしたいばかりに、町奉行と伊佐に領事がお吉を妾にして交渉事に役立てようとしていると伝える。伊佐は勤皇芸者を自認するお吉に、領事のもとに行けと命じるが、お吉は頑として従わない。怒った伊佐はお吉を牢につなぐ。

 

第三幕

 

 第一場 玉泉寺に設けられた領事館。領事はかつての失恋を思い返して嘆き、また幕府との交渉も進捗せずに思い悩んでいる。

そこにお吉がやって来る。彼女が牢から解放されたのは、書記官が町奉行と伊佐とに相談して取り計らったからだが、彼女はそれが領事の計らいによるものと思い込んでいる。彼女は礼を述べて領事に仕えることを承知するが、領事暗殺を忘れるなという吉田からの紙つぶてが投げ込まれるので困惑する。

 第二場 一年後の弁天島。いくら待ってもお吉が暗殺を実行しないことに苛立った吉田たちは、もう自分たちで斬るほかにはないと相談する。

お吉と領事は弁天島にお参りに行く。お吉は吉田が立てた暗殺計画を実行しようとしているが、突如暴風と大潮に襲われ、暗殺どころではなくなる。領事はお吉のために冷たい海に飛び込んで小舟を取りに行く。領事の真心に触れたお吉は彼の無事を祈る。

 第三場 寺の中。僧侶たちの読経の中に人々は領事の勇敢な行為をたたえ、お吉は良心の呵責に悩んで泣き出す。その理由を領事から尋ねられたお吉は暗殺計画を告白するが、二人の間に愛が芽生えて領事は優しく彼女を抱きしめる。

 そこに町奉行が現れて、外交交渉が進展して幕府が領事に謁見することを伝える。吉田が忍び寄って領事を討とうとするが、そこに都から勅命が下って、異国人を討つことは禁止される。吉田はこれまでの自分の行動を天意とばかり信じていた不明を恥じて腹を斬る。領事は彼の武士道を称賛し、彼の流した血によって日本の将来は約束されるだろうと歌う。読経の中に寺の鐘と礼砲が響き、人々の合唱が日本の夜明けを伝える(「黒船だ」)。


Reference Materials



初演
1940
1128日 東京宝塚劇場

原作
パースィー・ノエル

台本(訳詞)
山田耕筰/日本語

演奏時間
序景・第1幕65分、第2幕35分、第3幕65分(2008年若杉指揮新国立劇場完全全曲初演時)

参考CD
● 伊藤京子、三浦尚子、栗本尊子、柴田睦陸、中村健、立川清登/森正指揮/東京交響楽団、二期会唱(東芝)

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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