ロジェ王[全3幕]シマノフスキ作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ポーランドオペラ

K. Szymanowski, Klór Roger 1920~24

ロジェ王[全3幕]シマノフスキ作曲


登場人物❖

ロジェ王(Br) ロクサーナ(S) エドリシ(T)  羊飼い(T) 大司教(B) 女子修道院長(A)

 

概説

 シマノフスキ中期を締めくくる作品であり、初演ではセンセーションさえ巻き起こした。1990年代に入って再評価されて、世界各地で上演されるようになった。

 1911年、シチリア島を訪れたシマノフスキと従兄弟の詩人イヴァスキェヴィチが見たイスラムの遺構、ロマネスク時代の教会堂などの印象をもとに、二人の共作で台本が完成した。また、ギリシャ悲劇のエウリピデスの「バッコスの信女」がヒントになっている。

 多様な文化が混在する十二世紀のこの島を統治したシチリア王ルッジェロ二世の物語で、デュオニソスの化身である羊飼いが美貌の王妃ロクサーナに恋することから起こるシチリア王室内の騒動を描いている。また、そこにはキリスト教と異教徒との確執が絡んでいる。難解な作品の多いシマノフスキにしては、適度な官能性にも欠けていない。「ロゲル王」とも訳される。

第一幕

 

 ビザンティン様式の厳粛な大聖堂。荘厳な鐘の音に続いて、信者たちのミサの歌声が流れている。ロジェ王は新しい教えが民衆の間に広まりつつあるのを知るが、王の相談役でもある大司教は、羊飼いが得体の知れない神への信仰を説いて人民を惑わしていると報告し、王に彼を捕らえて罰するように求める。賢者エドリシを従えた王妃ロクサーナは、羊飼いと対話を交わし彼の真意を探ろうと思う。王は部下に羊飼いを捕えるよう命じる。

 やがて質素な身なりをした羊飼いが現れる(「わが神は私のように美しい」)。聖職者たちや民衆は自分たちの神を冒涜(ぼうとく)したとして、羊飼いに非難の言葉を浴びせてなぶり者にする。王の問いかけに対して羊飼いは、自分の信じる神は美しく官能的で解放的な神だと語るので、民衆は羊飼いの語りかけにうっとりとして、王もロクサーナも彼の歌に魅せられる。王はいったんは死刑を命じたものの、ロクサーナとエドリシに説得されて、もう一度今夜宮殿に来ることを条件に羊飼いをいったん去らせる。

 

第二幕

 

 ロジェ王のオリエント趣味の宮殿内の夜の中庭。羊飼いを想ってうっとりするロクサーナの態度に動揺した王は、エドリシとともに羊飼いの到着を待つ。エドリシはしきりに王の不安を鎮めようとしている。

 ラッパの合図がして、遠くから東洋的な楽器の響きが聞こえて来る。宮廷の階上の女部屋からはロクサーナの声が聞こえ、その歌声は人々の心を揺さぶる。やがて羊飼いが四人の楽師とともにやって来る。羊飼いは、今度はまばゆいばかりの服装をしている。

 王は彼と対話を続けるうちに、中庭に集まった人々が徐々に羊飼いの言葉に酔いしれてその虜になっていくので不安に苛立つ。羊飼いは自分の力を見せつけようとして合図をすると踊りが始まり、人々は憑かれたように踊り出す。いつのまにかロクサーナも見物の輪に加わって、羊飼いと一緒に夢心地になって踊っている。

 踊りが最高潮に達した時、我に返った王は怒って、一人悠然と構える羊飼いを取り押さえさせる。しかし羊飼いは衛兵に縛りあげられた鎖をいとも簡単に引きちぎると、秘密の彼方の世界に行けば自由な精神が得られると説き、王に向かって自分の裁きを受けたいならばついて来るようにと言う。群衆には恍惚としたロクサーナも混じっている。

 皆が立ち去り、王とエドリシだけが残される。王に自分とともに巡礼の旅に発とうというロクサーナの歌が聞こえてくる「ああ!ロジェ王の血られた夢を追い払い」)。王は王冠と剣を投げ捨てて、彼らの後を追う。

 

第三幕

 

 古代ギリシャの廃墟になった野外劇場。青白い月夜の下で、王はエドリシを従えてすっかり意気消沈している。もはや王には権力も英知も何も残されていない。エドリシはそのような王を慰め、ロクサーナの名を呼んでみるように勧める。

 すると遥か彼方から彼女の声が聞こえ、王がすっかり心を入れ替えたのを知って、羊飼いも喜んで戻って来る。美しい月明かりの中にロクサーナも姿を現し、魅惑的で謎に満ちた眼差しで王を羊飼いの世界に誘う。王はロクサーナに言われるままに、二人で祭壇に花を投げ始める。祭壇の炎が天まで燃えさかると、その中から光を放つ羊飼いの姿が現れる。

 羊飼いの本体は神の光を放つデュオニソス神で、大勢の人々の歌声とフルートの音色がだんだん大きくなる。デュオニソスは王に一緒に神聖な踊りに加わるよう求め、どこまでも自分について来るように諭すが、王はその場に立ちすくんで天に向かって手を伸ばす。

 やがて夜が明けて太陽が周辺を照らすと、デュオニソス、ロクサーナ、また民衆は霧のように消え去ってしまっていた。王とエドリシだけが後に残され、祭壇の炎も消えている。こうして夢は終わった。不思議な世界を目撃しながら、夢の中に入らずにその虜にはならなかったロジェ王は、太陽の光に自分自身を捧げる。

 

Reference Materials



初演
1926
年6月19日 ワルシャワ大劇場

台本
ヤロスワフ・イヴァスキェヴィチ、カロル・シマノフスキ/ポーランド語

演奏時間
第1幕25分、第2幕39分、第3幕22分(ラトル盤CDによる)

参考CD
● ハンプソン、シュミトカ、ラングリッジ/ラトル指揮/バーミンガム市響(EMI

● ヒオルスキ、ザゴーザンカ、オフマン/ヴィット指揮/ポーランド国立放送響(Nax

参考DVD
● ドッバー、ブチェク、マイスナー/ミヒニク指揮/ヴァロツワフ歌劇場管(PoLski

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



◀︎◀︎◀︎ 青ひげ公の城                始皇帝▶▶▶


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