ドクター・アトミック[全2幕]J・アダムズ作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

アメリカオペラ

J. Adams, Doctor Atomic  2004~5

ドクター・アトミック[全2幕]J・アダムズ作曲


登場人物❖

ロバート・オッペンハイマー(Br) エドワード・テラー(B) ロバート・ウィルソン(T) キティ・オッペンハイマー(S)  パスクァリータ(A  レズリー・グローヴズ将軍(Br ジャック・ハバード(Br   ジェームズ・ノーラン大尉(T

概説

 1987年に発表した「ニクソン・イン・チャイナ」が話題を呼んだアダムズは、現代のトピックスをテーマにしたオペラで注目を浴びている。この作品は公開されたマンハッタン計画の秘密文書や、エドワード・テラーの回想録など実在する資料から構成され、オッペンハイマーの使命と人間としての苦悩を描いている。

 原爆開発をテーマにしているだけに日本人にとっては複雑な感情を抱かざるを得ないし、2011年3月に起こった福島の原発事故を思うと考えさせられるところが多い。なお、このオペラによる交響曲版も作られている。

 

第一幕

 

 第一場 1945年6月、ニューメキシコ州ロスアラモスにあるマンハッタン計画研究所。原爆開発が大詰めの段階を迎え、研究者や作業員たちは、来月中に完成せよというワシントンからの指令に大わらわである。アメリカの原爆開発は、オッペンハイマー博士が優秀な研究者を集めてドイツの原爆開発に対抗して始めた研究であるが、科学者たちはドイツが降伏したいま、日本に投下すべきかに疑問を抱いている。

 オッペンハイマーはテラーに開発の必要性を説くが、テラーはトルーマン大統領宛ての科学者の意見を尊重すべきだとして、道徳的立場に立つハンガリーの科学者シラードが嘆願書の署名を集めているという内容の手紙を伝える。ウィルソンも物理学者の良心からテラーの意見に同調して、日本に原爆を投下する前に降伏の条件を知らせるべきだと主張する。オッペンハイマーは、民間人を犠牲にしても日本の都市に原爆を投下する決定がすでにワシントンで下っていると言うので、ウィルソンは権力に追随する博士を非難する。

 第二場 ロスアラモスのオッペンハイマー宅。オッペンハイマーは夜のベッドの中でも報告書のチェックに余念がない。それに妻のキティが不満げなのに気づいた彼は、ボードレールの詩を引用しながら、しばし情熱的な愛の世界に浸る。オッペンハイマーが仕事で出かけると、突然キティは幻想に捉われて現実と愛の狭間を漂う。

 第三場 1945年7月15日、ニューメキシコ州アラモゴードにあるトリニティ実験場。トルーマン大統領は、ポツダムでチャーチルやスターリンと会談する前に原爆実験を急ぐよう、オッペンハイマーと実験場を統括するグローヴズ将軍に圧力をかけている。主任気象予報官ハバードが、今日は気象状態が悪いので実験強行は無理だと言い、軍医のノーラン大尉が放射能の危険について説明するので実験場内に動揺が走る。

 将軍が部下たちを去らせ、彼がダイエットに失敗した過去を告白するオッペンハイマーとのやりとりがエピソードとして挿入される。やがて一人残されたオッペンハイマーは三位一体(トリニティ)の神に自分の心を打ち砕いてくれるよう祈り、このトリニティ実験場の名前が神の慈意に反して名づけられたことが明らかにされる。

 

第二幕

 

 第一場 ロスアラモスのオッペンハイマー宅。一九四五年七月十五日の深夜。博士をはじめとする科学者と兵士たちは、ロスアラモスを出発して百六十キロ離れたトリニティ実験場に向かう。家ではキティと家政婦のパスクァリータが留守番をしている。キティは酒を飲みながら戦争や死や魂の復活を想い、平和とは何かについて独白する。その傍らでパスクァリータが子供をあやしているが、やがてキティは眠りに落ち、夢の中で原爆の閃光を見る。

 

間奏曲

「サン・グレ・デ・クリストに雨が降る」

 

 第二場 一九四五年七月十六日、トリニティ実験場。プルトニウムの実験弾が鉄塔に設置されるが、ウィルソンは計測器を取りつけながら爆弾に対する恐怖を告白する。ハバードはこの日の実験の危険を指摘するので、科学者たちは悪天候下での実験が制御不能の連鎖爆発を起こして地球全体が火の海にならないか不安になる。

 オッペンハイマーはすでに集められたデータからそのような事態は避けられると主張するが、実験場は重い空気に支配され、オッペンハイマーも留守宅の家族の様子が幻想となって頭の中で二重写しとなる。ハバードはまだ雨風があると警告するが、将軍はすでに実験予定時刻に遅れているので午前五時三十分の実験開始を決断する。

 第三場 カウントダウン第一部。将軍ははじめから忠誠心を欠いた科学者たちを非難するが、実験の準備が開始される。起爆の瞬間を待ち、男たちは爆心地から三キロ離れたベースキャンプに避難する。

 オッペンハイマーの家族はロスアラモスで恐ろしい幻覚に捉われている。オッペンハイマーも幻覚から逃れられず、ボードレールの詩の一節を読む。男たちは爆弾の威力について賭けをし、オッペンハイマーも実験の成果を悲観するが、テラーはその威力を信じて疑わない。オッペンハイマーは、ヴィシュヌ神の恐ろしい姿を想像して怯える。

 第四場 カウントダウン第二部。将軍は気弱になっているオッペンハイマーを見張るよう部下の大尉に命じる。嵐が去って、実験場周辺の空は晴れ渡る。爆発五分前の警戒サイレンが鳴り、警告弾が発射される。全員が不安の中で時を過ごしていると、起爆二分前の二回目の警告弾が発射されるが、火付きが悪く落下する。次いで起爆六十秒前の三番目の警告弾が発射されて緊張感が漂う。静寂の中にカウントダウンの声だけが聞こえ、四十五秒前に技師がスイッチを入れ、実験は成功する。コーダに日本語で「オミズヲクダサイ」「タニモトサンタスケテクダサイ」などという声がスピーカーから流れる。


Reference Materials



初演
2005
10月1日 サンフランシスコ歌劇場

台本
ピーター・セラーズ/英語

演奏時間
第1幕81分、第2幕88分(下記DVDによる)

参考DVD
● フィンリー、フィンク、グレン、リヴェラ、オーウェンズ/レネス指揮/ネーデルラント・オペラ管・唱(DEN

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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