カーリュー・リヴァー[1幕]ブリテン作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

イギリスオペラ

B. Britten, Curlew River 1964

カーリュー・リヴァー[1幕]ブリテン作曲


登場人物❖

狂女(T) 巡礼者の長(B) 渡し守(Br) 旅人(Br) 子供の霊(Boy-S) 他

概説

 ブリテンは1956年に盟友のテノール、ピーター・ピアーズと東南アジアに観光旅行した際、NHKなど関係者の招聘によって予定外に日本まで足を伸ばした。その時観劇した能の「隅田川」にブリテンは強い印象を受け、帰国後その内容をキリスト教的な奇蹟劇に構成し直し、時代を中世のイギリスに移してこのオペラを作曲した。「燃える炉」、「放蕩息子」とともにブリテンの教会三部作のひとつとして名高い。

 カーリューとは沼地に生息する大釈鴫(たいしゃくしぎ)のことで、その啼き声は哀愁を帯びているので英詩にもよく登場する。日本では原作の能の題名にちなんで「隅田川」という訳題で上演されたことがある。

 

 場所は中世の教会内部で、中央の仮舞台はカーリュー・リヴァーの河畔になっている。ラテン語の聖歌を無伴奏で歌いながら、修道院長を先頭に修道僧たちが現れる。中央に進み出た修道院長は、これから最近カーリュー・リヴァーで起こった神の奇蹟について披露すると言い、修道僧はそれぞれの役柄の衣装を着けて、自分が演じるべき所定の位置につく。

 まず渡し守が現れ、花の春も雪の冬もカーリュー・リヴァーで毎日のように渡し船を漕いでいる者だと自己紹介する。今日は去年亡くなった子供の御魂祭の日であり、その墓に参ると霊験あらたかだとの評判が広まったので、特に川を渡って対岸の墓を供養する人が多いと説明する。

 渡し船は満員となり、間もなく出発しようとした時に一人の旅人がカーリュー・リヴァーにたどり着き、西の国からやって来て遠い北国まで行かねばならないので、ぜひ乗せてくれと渡し守に言う。そこで渡し守が乗せてやると、今度は遠くから不思議な声が響き、当てもない旅を続けている狂女が現れるので、渡し守と旅人たちは驚いて眺める。狂女は、自分は黒峯山の麓に子供と一緒に住んでいたが、ある日子供がさらわれて異邦人に東のほうへ連れて行かれたという噂を耳にしたので、当てもなく探しに行くのだと言う。渡し守はどこへ行くのかわからない者を乗せるのを一瞬躊躇するが、川を渡りたいのならば詠ってみせるように言う。旅人たちは狂女が詠う歌をはやしたてる。その時カーリューという鳥が舞うのが見え、渡し守は狂女が舟に乗ることを許す。

 旅人たちが対岸の岸辺の人の集まりを不思議に思って渡し守に尋ねると、渡し守は子供の供養のためだと答え、次のような物語を語る。去年の今日、異教徒の人買いのような男と十二歳くらいの子供を舟に乗せたところ、慣れない旅に疲れきった子供は岸辺に着くと倒れてしまった。人買いは子供を鞭打ち、歩けなくなった子供を捨て去ってどこかへ行ってしまった。近所の人々が介抱してやったが、その甲斐もなく子供は死んでしまった。その子供は死ぬ前に、自分は黒峯山の麓に住んでいた貴族の一人息子で、幼い頃に父を病で亡くして母親と住んでいたが、見知らぬ男にさらわれて来たと語る。そして最期を前にして、自分を教会の前に埋めて墓の前に柳の木を植えてくれれば、故郷から来る人々のために涼しい木陰を作ってあげられるだろうと言って息絶える。近所の人々はその子供が聖人であると信じて、御利益を求めて岸辺の墓に供養する人が絶えないのだと言う。鎮魂歌の「キリエ・エレイソン」が唱和される。

 物語るうちに舟は対岸に着き、人々は自分たちも墓参りをしようと降りて行く。渡し守も弔いの祈りを捧げて舟を降りようとする。すると狂女はさらに詳しい話をしてほしいと渡し守に求め、その子供が自分の子供であると悟る。狂女は子供と巡り会う望みが断たれた過酷な運命を詠嘆し、空に舞うカーリューに空しい心を託す。人々は狂女を哀れに思い、渡し守は狂女を墓に案内してやる。墓の前で泣き崩れる狂女に対して、渡し守は泣いているよりも祈ってあげなさいと諭すが、狂女は今は泣く以外のことはできないと悲しみに暮れる。渡し守と旅人たちが祈っていると、狂女には子供の亡霊の姿が見える。亡霊は母親に安らかに自分の道を進むように言い、神の御許でいつの日にか母に会えるのを待っていると言う。一同の「アーメン」の声に、亡霊も「アーメン」と応える。狂女は正気に戻り、ひざまずいて墓に祈る。

 

 このようにして、修道院長は神の奇跡劇が閉じられたことを告げる。修道僧たちは神の力をたたえようと祈り、ラテン語の聖歌を歌って立ち去る。


Reference Materials



初演
1964
年6月13日 オーフォード教区教会(イギリス)

原作
観世十郎元雅の能/「隅田川」

台本
ウィリアム・プルーマー/英語

演奏時間
69
分(下記CDによる)

参考CD
● ピアーズ、シャーリー=カーク、ブラックバーン、ドレイク/ブリテン他監修/イギリス・オペラ・グループ管・唱(D

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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