ムツェンスク郡のマクベス夫人[全4幕]ショスタコーヴィチ作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ロシアオペラ

D. D. Shostakovich, Lady Macbeth of the Mtsensk District 1930~32

ムツェンスク郡のマクベス夫人[全4幕]ショスタコーヴィチ作曲


登場人物❖

ボリス・イズマイロフ(B) ジノヴィ・イズマイロフ(T) カテリーナ(エカテリーナ・イズマイロヴァ)(S) セルゲイ(T) アクニーシャ(S) ボロを着た百姓(T) ソニェートカ(A)他

概説

 このオペラは荒唐無稽なブルジョワ趣味として事実上の上演禁止となったが、雪解けの機運を迎えた1962年、いくつかの改訂を加えて「カテリーナ・イズマイロヴァ」と改題して復活上演され(1963年1月8日、モスクワのスタニスラフスキー・ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場)、大成功を収めた。近年はオリジナル版での上演が一般的である。



第一幕

 

 第一場 地方の豪商イズマイロフ家のカテリーナの部屋。商人ジノヴィの妻カテリーナは退屈な毎日に飽き飽きして、ベッドで貧しくても自由だった娘時代を懐かしんでいる(「ああ、もう眠れやしないわ」)。横暴な舅(しゅうと)ボリスが入って来て、結婚して五年も経つのに子供も産めず、若い男を引っかけて駆け落ちでもしたいのだろうと毒づく。

 その時イズマイロフ家の製粉所から、土手が決壊したとの知らせが入る。ジノヴィはただちに現場に向かうが、カテリーナはボリスの命令で夫の留守中貞操を守るよう誓わされ、ひざまずいて別れの挨拶をさせられる。

 第二場 イズマイロフ家の庭。主人の留守をよいことに召使や百姓たちがふざけ合い、太った女中アクニーシャを無理やり樽(たる)に押し込めて騒いでいる。カテリーナが出て来て一同をたしなめ、召使セルゲイを責める。

 カテリーナが女を馬鹿にするものではないと言ったことからセルゲイと力比べの取っ組み合いをする羽目になり(「おまえたちだけが強いつもりで」)、彼女はセルゲイに押し倒されて抱き締められる。そこにボリスが姿を見せるのでカテリーナは釈明するが、ボリスはお前の夫が戻ったらすべて報告すると怒る。

 第三場 カテリーナの寝室。カテリーナが寝支度をしていると、部屋の外から早く寝ろというボリスの声が聞こえる。カテリーナは自分を愛してくれる者も喜びもないと嘆いていると(「子馬は雄馬のところへ急ぎ」)、セルゲイが本を貸して欲しいと入って来る。彼はカテリーナへの想いを打ち明け、強引にベッドで彼女を抱いてしまう。何も知らずにボリスは外から鍵をかけてしまう。

 

第二幕

 

 第一場 夜のイズマイロフ家の庭。寝つかれないボリスがランプを持って庭を見回っている(「年をとるってのは何だ」)。カテリーナの寝室に明かりが灯っているので、彼女の部屋に忍んで行こうかと邪悪な心を抱く。その時窓から雨樋を伝って出て来るセルゲイを見つけ、ボリスは使用人たちを集めて皆の前でセルゲイを激しくむち打つ。空腹になったボリスはカテリーナに食事を用意させるが、きのこ料理を食べて苦しみ、死んでしまう。実はカテリーナが料理に猫いらずを入れたのだが、司祭をはじめ、誰もがきのこに当たったと思い込んでいる。

 第二場 カテリーナの寝室。カテリーナはまたセルゲイをベッドに誘っている。二人は愛に酔って今後の行く末を語るが、ボリスの亡霊が現れるので、カテリーナは恐怖におののく。

 そこに妻の不貞を耳にしたジノヴィがわざわざ突然夜中に帰宅するので、セルゲイは物陰に隠れる。しかしセルゲイのベルトを見つけたジノヴィは妻を激しく責め、ついに乱闘になる。隠れていたセルゲイが飛び出して、カテリーナと二人でジノヴィを殺してしまう。そして死体を地下の酒蔵にそっと運び隠す。

 

第三幕

 

 第一場 イズマイロフ家の庭。カテリーナがセルゲイと結婚式を挙げる日、晴れ着の彼女は酒蔵を気にしながら、やって来たセルゲイと教会へ向かう。その後に酔っ払った百姓がやって来て、カテリーナがしょっちゅう気にしている酒蔵には良い酒があるに違いないと蔵の中に潜り込んでジノヴィの死体を発見し、仰天して警察に走る。

 第二場 警察署。警官たちが給料は安いし賄賂もないとこぼし、署長もイズマイロフ家の結婚式に招待されない不満を述べている。そこに一人の百姓がイズマイロフ家で死体を見つけたと届け出るので、署長以下意気込んで現場に向かう。

 第三場 イズマイロフ家の庭の祝宴の席。客たちが新郎新婦を祝福し、二人は何度も接吻を交わす。そのうちカテリーナは酒蔵の鍵が壊されているのに気づき、セルゲイに耳打ちして逃亡することにする。セルゲイがお金を持って逃げようとした時、警官が到着して二人は逮捕される。

 

第四幕

 

 シベリア街道の森の中。夕暮れになってシベリア送りの囚人が野営の準備をしながら、つらい道のりと過酷な運命を嘆いている(「道のりは果てなく」)。男囚と女囚は別々のグループに分けられている。皆が寝静まるとカテリーナは番兵を買収してセルゲイに会いに行き、今なお変わらない彼への愛を訴える。しかしセルゲイは自分の一生を目茶目茶にした彼女を憎悪し、若くて美しい別の女囚ソニェートカに心が移っている。セルゲイはカテリーナから大切な靴下をだまし取ると、それを足が痛くてもう歩けないと言うソニェートカに与え、二人で森の中に消える。女囚たちに嘲笑されたカテリーナは、深い絶望に襲われる(「森の奥の湖は」)。戻ったソニェートカはカテリーナに靴下を見せて嘲笑(ちょうしょう)する。

 やがて出発の合図で囚人たちは出発する。その時すきを見てカテリーナは橋の欄干にたたずむソニェートカに近づき、彼女を湖に突き落とすと自分も身を投げる。囚人たちは悲痛な歌声とともに遠くに去って行く。


Reference Materials



初演
1934
年1月22日 マールイ劇場(レニングラード)

原作 ニコライ・レスコーフの同名小説

台本
アントン・プレイス、ドミトリー・ショスターコーヴィチ/ロシア語

演奏時間
第1幕48分、第2幕48分、第3幕26分、第4幕32分(ロストロポーヴィチ盤CDによる)

参考CD
● ヴィシネフスカヤ、ヴァルヤッカ、クレン、ゲッダ、ペトコフ/ロストロポーヴィチ指揮/ロンドン・フィル、アンブロジアン・オペラ唱(EMI

参考DVD
● ウェストブロック、ヴェントリス、ヴァネーエフ、ルドハ/ヤンソンス指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ネーデルランド・オペラ唱(DEN

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  




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