H. Purcell, Dido and Aeneas 1689

ディドとエネアス［全３幕］パーセル作曲

❖登場人物❖

ディド（Ｓ）　ベリンダ（Ｓ）　エネアス（Ｔ、Br）　魔法使いの女（Ms）他

❖概説❖

　パーセルが女学校の学芸会用に依頼されて書いたオペラである。在演奏されているイギリス最古のオペラとして、その高貴な音楽性によって寿命を永らえている名作である。

第一幕

　第一場　カルタゴの女王ディドの宮殿の中。ディドの顔が憂いに満ちているのを見た忠実な侍女ベリンダは、ほほえんで国を栄えさせたまえと女王を励ます。

　というのもディドは、トロイ戦争で敗れたトロイの王子エネアスが、イタリアへ向かう途中嵐に遭ってカルタゴに漂着した際に出会って以来、許されない恋に悩んでいるからである。ディドはベリンダの励ましに、自分は打ち明けられない心に悩んでいると答える（「ああ、ベリンダ、口に出せぬ苦しみが私を締めつける」）。

　ベリンダと家臣たちは、女王が思い切ってエネアスと結婚すればカルタゴは栄え、トロイは復活すると言う。ディドはエネアスへの想いを歌い、ベリンダも、エネアスがきっと女王を想っているに違いないと言う。そこにエネアスが現れてディドへの愛を告白し、家臣たちはキューピッドの矢が突き刺さると歌う（「キューピッドの放つ愛の矢は」）。ディドも愛を隠せなくなり、ベリンダや家臣たちは愛の勝利を喜んで踊る。

　第二場　魔女たちの住む洞穴の中。魔法使いの女が魔女たちを呼び集め、憎い女王ディドの名誉と愛を奪って彼女を不幸にして、エネアスをイタリアに向かわせねばならないと叫ぶ。そして、今二人は狩りに出ているから魔法で嵐を起こして館へ追い返し、魔女の仲間の一人がマーキュリーの姿になって、エネアスにイタリアへ行かねばならないことを思い出させようと言う。魔女たちはホー、ホーと声をあげて踊り回り、雷鳴と稲妻になる。

第二幕

　森の中の狩場。エネアス、ディド、ベリンダは従者を連れて狩りをしている。ベリンダは狩りの獲物が多かったと喜び、別の侍女は森の伝説を歌う（「この人里離れた谷間のお陰で」）。

　やがて嵐が来る気配に、ベリンダは急いでディドを館へ導く。エネアスがそれに続こうとした時マーキュリーに姿を変えた魔女が現れ、偉大な大神の命令として一刻も早くここを去ってトロイの再興を計るように命じる。

　エネアスは大神の命令に従うことを誓い、この楽しい日も一夜だけだとディドとのつらい別れを嘆く。魔女たちが現れて、自分たちの計画がうまく行ったとして喜ぶ（この魔女たちの合唱と踊りは、版によっては省略される）。

第三幕

　船が繋いである波止場。水夫たちが出帆の準備をしながら忙しく立ち働いている。魔法使いの女が魔女たちを連れて現れ、自分たちの計画がうまく運んで、が揚げられ帆がはためいていると喜ぶ。そして、今夜ディドは血を流し、明日はカルタゴは炎に包まれるのだと気勢をあげる。

　入れ違いにディドがやって来て、天と地に向かって嘆きを訴えるので、ベリンダはエネアスを信じるように言う。エネアスが現れて、神のお告げに従って出発しなければならないと言うのに対して、ディドは神のせいにして偽善を語るのかと彼の心変わりを非難し、捨てられた自分は死ぬだけだと言う。さすがのエネアスも、それでは神よりもディドを選ぼうと言うが、ディドは一度自分を捨てたことは許せないと言うので、エネアスは立ち去る。

　ディドはベリンダに喜んで死ぬ運命を悲痛に歌うと（「私が土の下に横たわる時」）、彼女の腕の中で死ぬ。人々はディドの墓にばらの花を撒き散らし、ここを守ってくれるようキューピッドに願う。

Reference Materials