イオランタ[1幕]チャイコフスキー作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ロシアオペラ

P. I. Tchaikovsky, Iolanta 1891

イオランタ[1幕]チャイコフスキー作曲


登場人物❖

レネ(B) ロベルト(Br) ボデモン(T) エブン=ハキヤ(Br) イオランタ(S) マルタ(A) アリメリク(T) ベルトラン(B) 他

 

概説

 チャイコフスキー最後のオペラである「イオランタ」は、作曲者の円熟した技法によって抒情的な美しさが最高度に発揮されている。一幕物の比較的短い作品であり、バレエ「くるみ割り人形」と一緒に上演することを意図して作曲された。台本は「スペードの女王」と同じく、作曲者の弟モデストである。

 

 15世紀南フランス・プロヴァンス地方の山中。生まれつき眼の見えないイオランタ姫は、乳母マルタ、二人の女友達ブリギッタとラウラなどとともに、レネ王の別邸である小さな城に住んでいる。王は全員に、イオランタが眼の見えないことを自分で悟るのを懸念して、外部の人と接することがないように厳命している。

 美しい娘に成長したイオランタは、花に囲まれた美しい城で何不自由なく平穏に暮らしているが、ある日、得体の知れない不安を覚えて何かが物足りないと訴えるので、それを聞いた乳母は思わず涙ぐむ。

 イオランタは乳母の顔を触って彼女が泣いているのを知り、なぜ彼女が泣いているのかと尋ねる。乳母はイオランタが泣いているので、つい涙ぐんでしまったと答えるが、イオランタは彼女が自分の顔に触れもしないで、どうして自分が泣いているのがわかるのかと訝(いぶか)る。

 一同は困惑し、ブリギッタはそれは音楽のせいに違いないと言い、乳母は楽師たちを去らせる。イオランタは、眼は泣くためだけにあるのかとマルタに尋ねる(「悲しい涙など知らずに過ごした日々」)。乳母はイオランタに私を困らせないでと言い、友人たちは花をたたえる歌を歌って彼女を慰める。イオランタは皆の優しさを感じながら、小さい頃に歌ってくれた子守歌を歌うようにマルタに所望する。それに応えてマルタが子守歌を歌い、皆は城内に入っていく。

 そこに角笛の音がして、王の従者アリメリクがやって来る。門番のベルトランは王の命令に従って、ここに入る者は死刑だと言って従者の行く手を遮(さえぎ)る。従者は王の指輪を見せて、王の伝令が亡くなったので自分が代理としてやって来たと言い、王がムーア人の名医を連れて現れると言う。詳しい事情を知らない従者はここは何なのかと尋ねるので、門番は王が眼の不自由な娘を匿(かくま)っている立入禁止の城であるとその経緯を説明する。

 再び角笛が聞こえ、王が医者エブン=ハキヤを連れて現れる。王は出迎えた乳母に娘はどうしているかと尋ねるので、彼女は休んでいると答える。医者は眠っているほうが診断しやすいといって、乳母に案内されて城内に入る。王は不憫な娘を思って父親としての苦しみを歌う(「罪がなくなぜに苦しむ、この運命」)。

 診察を終えた医者は、イオランタの眼は治る可能性はあるが、彼女に見たいという強い意志がなければ手術は無駄だと病状を告げる。そのためには彼女に真実を知らせなければならないと言い、医者は夕方まで王の返事を待つことにするが、王は悩みながらも決して娘に真実を教えまいと考える。

 そこに、イオランタの婚約者ロベルト公爵と友人のボデモン伯爵が迷い込んで来る。ロベルトは一度もイオランタに会ったことはないが、新たに恋人マチルダができたので、イオランタとの婚約を解消しようと王に申し入れるために旅をしている途中だった。二人の騎士は美しい城を見て驚き、マチルダをたたえる歌を歌う。「これより先に立ち入る者は死刑に処す」という立て札を見て一瞬戸惑うが、二人は城内に忍び込んで昼寝をしているイオランタを発見する。婚約者のいないボデモンはひと目で彼女の美しさに惹かれ、目を覚ました彼女に名を名乗り、先ほどの立て札のことを思い出して言い訳をする。

 イオランタは彼らにワインをふるまおうとするが、その様子や庭に咲くバラの花の色の区別がつかないことから彼女の眼が見えないことがわかる。ロベルトはこれは罠かもしれないと考え、ボデモンを残して助けを求めに出て行く。ボデモンは光をたたえて歌う(「神の創り賜うた最高の美女よ」)。イオランタは「光が見たい」と叫ぶ。

 そこに王や城内の者が現れ、イオランタはボデモンから光の話を聞いたことを話す。戸惑った王は娘に眼の手術を受けるかどうかを尋ねる。イオランタはどうしたらよいか判断がつかず、王の命令に従うと言うが、医者はその程度の気持ちでは手術の成功は覚束(おぼつか)ないという。すると王はボデモンに対して、立入禁止の立て札を見たであろう、もしイオランタの眼が治らなければお前は死刑だと宣言する。それを聞いたイオランタは、眼が見えるとはどういうことかわからないままに、彼のために絶対に治ってみせると言い切って、医者と別室に入る。

 王はボデモンに死刑と言ったのは言い過ぎだったと謝るが、ボデモンがイオランタを妻にしたいと所望するのに対しては、すでに彼女に婚約者がいると言って断る。

 そこに武装した兵士を連れたロベルトがボデモン救出に駆けつける。ロベルトは王を見て驚き、イオランタとの婚約の解消を申し出る。王はそれを受け入れ、もしイオランタの眼が治ったら彼女をボデモンに与えることを約束する。

 手術が終わり、眼に包帯を巻いたイオランタが戻って来て、緊張する皆の前で包帯が取られる。彼女は「明るい光だわ」と叫び、初めて父王の姿を知る。王はお前の新しい保護者はこの人だと言ってボデモンを紹介すると、二人はしっかりと抱き合う。

Reference Materials



初演
1892
1218日 マリインスキー劇場(サンクトペテルブルク)

原作
ヘンリク・ヘルツ/「ルネ王の娘」

台本
モデスト・チャイコフスキー/ロシア語

演奏時間
96
分(ゲルギエフ盤CDによる)

参考CD
● ゴルチャコーワ、アレクサンキン、ホロストフスキー/ゲルギエフ指揮/マリインスキー劇場管・唱(PH

参考DVD
● オレイニチェンコ、ペトロフ、アンジャパリゼ、リシツィアン/ハイキン指揮/ボリショイ劇場管・唱(映画版)(NMC

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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