スペードの女王[全3幕]チャイコフスキー作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ロシアオペラ

P. I. Tchaikovsky, The Queen of Spades (Pique Dame) 1890

スペードの女王[全3幕]チャイコフスキー作曲


登場人物❖

ゲルマン(T) トムスキー伯爵(Br) エレツキー公爵(Br) 伯爵夫人(Ms) リーザ(S) ポリーナ(A) マーシャ(S) スーリン(Br)他

 

概説

 チャイコフスキーの円熟期に書かれたオペラであり、この作曲家にしては異例のわずか44日間で作曲された。フィレンツェに滞在して作曲が行われたが、弟のモデストはせき立てられるようにして場面ができ上がるたびに台本を送った。物語の筋書きがプーシキンの原作と異なっているのは、作曲家の要求によるものである。

 

第一幕

 

 第一場 サンクトペテルブルクの夏季公園。子守や家庭教師に連れて来られた子供たちがにぎやかに遊んでいる。近衛士官のチェカリンスキーとスーリンが友人ゲルマンの話をしていると、当の青年士官ゲルマンが友人トムスキー伯爵と現れる。彼は最近ある夜会で知り合った名前も知らない高貴な女性に恋してしまったが、身分違いで結婚できないと嘆いて立ち去る(「私は彼女の名を知らない」)。

 ゲルマンが再び友人たちと戻った時、エレツキー公爵が散歩に来る。ほどなく美しいリーザが祖母の伯爵夫人と現れると、彼はリーザを婚約者だと皆に紹介するので、自分が出会った高貴な女性の素性を知ったゲルマンは絶望に陥る。ゲルマンの思い詰めたような恐ろしいまなざしに、皆は恐怖に襲われる。エレツキーやリーザたちが立ち去るとトムスキーは、昔伯爵夫人がヴェルサイユのカルタ会で負けることのない三枚の秘密のカードを知る女だという噂が立ったと友人たちに披露する(「ある時ヴェルサイユの王妃のカルタ会で」)。ゲルマンはこの話を聞くと、カードの秘密をつかんでリーザと結婚する野心を燃やす。激しい雷雨になって、皆は公園から走り去る。

 第二場 リーザの部屋。リーザの女友達が集まっている。リーザとポリーナの二重唱に続いて(「夜のとばりがおりて」)、ポリーナが一人でロマンスを歌う(「懐かしい人々よ」)。さらに陽気な民謡風の歌を歌いながら騒いでいると、家庭教師にたしなめられて皆は帰って行く。リーザは一人になると、婚約したエレツキーよりも、あの暗い情熱的な目をした若者ゲルマンに夢中になっている自分に気づいて涙を流す(「この涙はどこから」)。

 そこに突然バルコニーにゲルマンが姿を現す。はじめは彼を拒絶していたリーザも、ゲルマンが美しい天使に例えて愛を告白するので心が傾いていく(「許したまえ、天の女神よ」)。その時物音に気づいた伯爵夫人が入って来るので、リーザは急いでゲルマンを物陰に隠す。伯爵夫人が出て行くと、二人は固く抱き合い、リーザはゲルマンに愛を告白する。

 

第二幕

 

 第一場 ある高官の家の仮面舞踏会。人々はにぎやかに歌い踊り、仮面が光っている。スーリンがカルタ遊びをしながらチェカリンスキーとゲルマンの噂をしていると、リーザとともに現れたエレツキーは悲しげな彼女に対する愛を歌う(「私はあなたを愛しています」)。二人が去ると、リーザからの手紙を持ったゲルマンが現れる。手紙には余興の後に広間で待っていると書かれている。余興の芝居が終わると、仮面をつけたリーザはそっとゲルマンに近づき、庭の隠し戸の鍵と自分の部屋に通じる伯爵夫人の寝室の鍵を渡す。ゲルマンはこれで三枚のカードの秘密を知ることができるとつぶやく。エカテリーナ女帝を迎えて舞踏会は盛り上がる。

 第二場 その夜の伯爵夫人の寝室。リーザに教えられた通りにゲルマンが忍んで来る。その時、召使に付き添われた伯爵夫人が舞踏会から帰って来るので、ゲルマンはカーテンの陰に隠れる。夫人が化粧室で着替えている間に、リーザも戻って自室に入る。寝支度をした夫人は、華やかな往時を追憶してまどろむ。そこにゲルマンが姿を現して、三枚のカードの秘密を教えて欲しいと迫る。あまりの驚きに声の出ない伯爵夫人にゲルマンがピストルを向けると、彼女はショックで死んでしまう。茫然とするゲルマンの前にリーザが現れ、あなたの目的は私ではなくカードの秘密だったのねと彼をなじって追い出す。

 

第三幕

 

 第一場 兵営内のゲルマンの部屋。ゲルマンがリーザから来た手紙を読んでいる。そこにはゲルマンに殺意はなかったと信じているので、もう一度冬宮運河のほとりで会いたいと書かれている。ゲルマンは恐ろしい幻覚にとらわれ、伯爵夫人の葬式の光景を思い浮かべる。するとローソクの光が消えて、戸口に伯爵夫人の亡霊が現れる。亡霊はゲルマンがリーザと結婚することを条件に「三、七、エース」とカードの秘密を教える。

 第二場 冬宮運河のほとり。凍てつく寒さの中でリーザはゲルマンを待っている。心配のあまりリーザが疲れ果てたところにゲルマンがやって来るので、二人は再び幸福の希望に燃える(「ああ、私は悩みに疲れた」)。リーザが二人で遠くへ逃げようと言った時、急に正気を失ったゲルマンは、あの婆さんからカードの秘密を聞き出したので賭博(とばく)場に行くと叫び、リーザを突き飛ばして走り去る。絶望したリーザは運河に身を投げる。

 第三場 深夜の賭博場。客たちが酒を飲んでにぎやかに歌いながらカード遊びをしている。客の中にはリーザとの結婚に破れたエレツキーもいる。そこにリーザが死んだとも知らずにゲルマンが現れ、一度もカード遊びをしたことがないのに仲間に加わる。全財産を賭けた勝負は、三、七と賭けて大勝する。その勢いに誰も相手になりたがらないが、復讐(ふくしゅう)心に燃えたエレツキーが敢然と挑む。ゲルマンはエースを引くはずだったが、出たのはスペードの女王だった。じっと見つめるうちにスペードの女王は伯爵夫人の顔に変わる。錯乱したゲルマンは短刀で自分の胸を刺し、エレツキーに許しを請う。そして、リーザを愛していると言ってこと切れる。

Reference Materials



初演
1890
1219日 マリインスキー劇場(サンクトペテルブルク)

原作
アレクサンドル・プーシキンの同名小説

台本
モデスト及びピョートル・イリイチ・チャイコフスキー/ロシア語

演奏時間
第1幕60分、第2幕54分、第3幕42分(小澤盤CDによる)

参考CD
● フレーニ、フォレスター、チェシンスキー、アトラントフ、レイフェルクス/小澤征爾指揮/ボストン響、タングルウッド祝祭唱(RCA

参考DVD
● プレオブラジェンスカヤ、アヴデーエヴァ、ミラシキーナ、アンジャパリゼ、キブカロ/スヴェトラーノフ指揮/ボリショイ劇場管・唱(NMC

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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