詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
ロシアオペラ
M. I. Glinka, Ivan Susanin 1835~36
イワン・スサーニン(皇帝に捧げし命)[全4幕とエピローグ] グリンカ作曲
❖登場人物❖
イワン・スサーニン(B) アントニーダ(S) ボグダン・ソビーニン(T) ワーニャ(A) ポーランド王シギスムント(B) 他
❖概説❖
ロシア国民オペラの創始者であるグリンカが最初に書いたオペラである。フォン・ローゼンの台本によって書かれ、当初は「イワン・スサーニン」という題名だったが、初演に先立つリハーサルに立ち合ったニコライ一世によって「皇帝に捧げし命」という題名に改めさせられた。一九一七年まで毎年サンクトペテルブルクとモスクワのオペラ・シーズンの初日に上演されるのが慣例となっていた。ソビエト革命後の一九三九年の上演に際して「イワン・スサーニン」という当初の題名に戻され、台本もゴロデツキーによって現行のように書き直された。そして構成にも若干の変更が加えられた。
第一幕
ドムニン村の通り。国の大部分をポーランド軍に占領されたロシアでは、ポーランド軍を撃退すべく各地に義勇軍が結成され、農民たちもポーランド兵は撃退されたと大合唱する(「わが祖国ロシア」)。軍人ソビーニンの婚約者である農夫スサーニンの娘アントニーダは、婚礼の日が間近にやって来るのを喜ぶ(「ああ、私の野原」)。
民兵とともに町から戻って来たソビーニンは、新しい皇帝にロマノフが選ばれたことを伝え、ポーランド軍を撃退して祖国が本当に解放されるまでは結婚どころではないと言う。そこにロシアの国民軍がポーランド軍を追い払ってモスクワのクレムリンを包囲したとの知らせがあり、ソビーニンは喜びを歌う(「恋人のもとへは手ぶらで帰って来る花婿はいない」)。一同は喜びのうちにソビーニンの家にたどり着き、早く婚礼の祝宴が開かれる日が来るようにと合唱する。
第二幕
ポーランド軍の陣営。ポーランド王シギスムントを迎えて舞踏会が開かれている。ポーランド貴族たちはロシアから宝石や毛皮も奪ってやると陽気に騒いでいる。
そこに使者が到着して、ミーニンという一介の農民が組織した部隊がポーランド軍に対して立ち上がってゲルマン騎士団を破り、ポーランド軍は占領しているモスクワで籠城を強いられていると報告する。貴族たちは、新しいロシア皇帝が難を逃れて籠っているドムニンの村の僧院を襲おうと再び出発する。
第三幕
スサーニンの家。幼い頃に孤児になったワーニャはスサーニンの養子になっていて、母を失った悲しみを歌う(「まだ小さかった雛の母親が殺されると」)。スサーニンがそれを慰め、ミーニンの軍隊が森の中の野営地に到着したと言い、お前も大きくなったら国民軍と一緒に戦い、やがてポーランド軍に強烈な反撃を加えるのだと二人で祖国への忠誠を誓う。
農民たちがやって来て、ソビーニンとアントニーダの婚礼を祝っているところに突然ポーランド軍が押し入って、ドムニン村の僧院への案内を強要する。スサーニンは皇帝の命を救うために偽って彼らを森に連れ込むから、養子のワーニャにはその間に皇帝に急を知らせるようそっと指示する。父親が連れ去られて嘆くアントニーダを女友だちが慰め、最後は敵に対する憎しみを歌う。
第四幕
第一場 森の中の修道院の付属施設。ワーニャがいくら戸を叩いても寝静まって返事がない。やっと起きたソビーニンや兵士たちは、鐘を鳴らして森の中のポーランド軍襲撃に向かう。
第二場 雪の森の中。わざと道を間違えたスサーニンの思惑通り、ポーランド軍は風雪の中に難渋する。騙されたと知ったポーランドの兵士はスサーニンに詰め寄り、彼は一人静かに歌う(「我が夜明けよ早く来い」)。そしてここがお前らの墓場だ、祖国は救われたと叫ぶ。夜が明けると怒ったポーランド兵によってスサーニンは殺され、ポーランド兵も雪の中で凍え死ぬ。
エピローグ
モスクワのクレムリン宮殿前の広場。新皇帝ロマノフを迎えたロシアの群衆は歓呼する。スサーニンの娘アントニーダ、ソビーニン、ワーニャも集まっている。人々はスサーニンの崇高な功績をたたえようと歌い、その中を解放軍の兵士たちが宮殿に向かって行進する。
Reference Materials
初演
1836年12月9日 サンクトペテルブルク帝室劇場
台本
S. M. ゴロデツキー/ロシア語
演奏時間
第1幕45分、第2幕21分、第3幕48分、第4幕37分、エピローグ3分(マルケヴィチ盤CDによる)
参考CD
● ミハイロフ、スピラー、アントノワ、ネレップ/メリク=パシャエフ指揮/ボリショイ劇場管・唱(Nax)
● クリストフ、シュティヒ=ランダル、ゲッダ、ブルガリノヴィチ/マルケヴィチ指揮/ラムルー管、ベオグラード歌劇場唱(EMI)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止
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