ティレジアスの乳房[プロローグと全2幕]プーランク作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

フランスオペラ

F. Poulenc, Les Mamelles de Tirésias 1944

ティレジアスの乳房[プロローグと全2幕]プーランク作曲


登場人物❖

座長(Br) テレーズ/ティレジアス(S) 亭主(Br) 憲兵(Br) プレスト(Br) ラクフ(T) 新聞記者(T) 息子(Br) 新聞売りの女(A) 他

 

概説

 この作品のオペラ化は、原作の詩がアポリネール自身の朗読で発表された場に居合わせた1930年代から暖められていたもので、プーランク特有の機知に溢れた音楽が楽しい。人口減少期のフランスをユーモアたっぷりに皮肉った喜劇であるが、少子化、性転換、男女共同参画など、現代の日本の置かれた問題に照らしてみると、ただ笑って済ませられないように思われる。

な お原作の舞台は東アフリカのザンジバールであるが、オペラでは南フランスの架空の同名の都市に置き換えられている。

 

プロローグ

 

 前奏曲が終わって緞帳が上がると、イタリア風の幕の間から座長が進み出て、風紀の一新を目指したこのオペラの意義について説明する。それによるとこのオペラのテーマは「家庭における子供の存在」であり、ユーモアを交えてくだけたスタイルで書かれているが、これを教訓にして家に帰ったら子作りに励んで欲しいと熱っぽく観客に語りかける。

第一幕

 

 ザンジバールの広場。手前にはカフェがあり、テラスには丸テーブルと二脚の椅子が置かれ、建物の隙間から港が見える。正面奥には地中海風の建物があり、二階の窓は開いていて、一階は煙草屋を兼ねるアパートになっている。庭には露店や新聞売り場がある。

 美人で若いテレーズが箒(ほうき)を持って出て来て、私はフェミニストで亭主に従うのは嫌だと職業選択の自由を主張し、子供なんか作らずに兵士にでもなりたいと叫ぶ。家の中から亭主の声が聞こえるが、彼女は弁護士でも代議士でも医者でも何にでもなって活躍してみせようと言う。再び亭主の声がする。突然テレーズの身体に変化が起きて髭が生え、ブラウスのボタンを外すと女性の象徴である乳房が赤と青の風船になって浮き上がる。彼女は糸に繋がれてふわふわと浮いている風船にライターで火をつけて破裂させてしまう。彼女は自分の姿を見るために鏡の方へ走る。

 大きな花束を持った亭主が家から出て来てテレーズを探すが、あまりにも変貌した姿を見て驚く。テレーズはもう自分はテレーズではなくて、ティレジアスという名前の男だと宣言する。ティレジアスは引越しをするために次々と窓から楽器や荷物を外に放り投げる。

 亭主が慌てて家に入ると、入れ替わりにカフェから酔っ払った賭博師ラクフとプレストが愉快そうにポルカを踊りながら出て来る。二人は些細なことから決闘になり、お互いにピストルを発射して二人揃って死んでしまう。

 ファッショナブルなスーツをエレガントに着こなして男になったティレジアスは、女装して両手を縛られた亭主を従えて出て来る。ティレジアスはまず新聞を買って市民と一緒に読んでいると、ラクフとプレストの決闘の事件が載っている。ティレジアスは市議会議員になるのだと言って立ち去る。

 その時、決闘の事件を聞きつけた憲兵がやって来て、女装した亭主を美しい乙女と思い込んで誘惑しようとする。亭主は憲兵に事情を説明するが、彼はさっぱりその話を理解できない。その時「ティレジアス当選万歳!」という声がして、子作り反対という合唱が聞こえる。亭主は女が出産を拒むなら、男の自分が子供を産んでみせると宣言する。いつの間にかラクフとプレストが生き返って、人々の合唱に加わる。

 

幕間の狂言

 

 幕の前ではコーラスがガヴォットを踊り、オーケストラ・ピットの中から赤ん坊の合唱が聞える。

 

第二幕

 

 第一幕と同じ場面で、たくさんのゆりかごが見える。亭主は一日に四万九千人もの子供を産んだと有頂天になって喜んでいる。そこにパリから新聞記者が取材にやって来て、女なしで子供を産む秘訣を尋ねると、亭主は意思の力があれば不可能なことはないと答える。養育費についての質問にも、子供たちは自分で稼いでいると説明する。新聞記者はそれならばお金を貸してくれと切り出すので、怒った亭主は記者を追い払う。

 亭主は、息子を新聞記者に育てればあらゆる情報が手に入るのだと言って、ゆりかごの中にインクと大きなペンを入れる。すると急に大きくなった息子は父親を強請る(ゆす)る。亭主は息子を追い出して、あれは失敗作だったとつぶやく。

 憲兵が現れ、急な人口増加でザンジバールは食糧危機に陥ったと言うので、亭主は戦争中に使われた配給カードを配ればよいと言う。憲兵はそのカードをトランプのカードと勘違いする。

 その時、立派なヴェールで顔を覆った女トランプ占い師が現れる。占い師は子供を作る人のために地球があるのだと言って、子供を作ろうとしない憲兵を非難する。怒った憲兵が彼女を逮捕しようとして格闘になり、反対に彼女に負けてしまう。ヴェールを取って美しいテレーズに戻った彼女は、愛し合うことが一番であることがわかったと言い、亭主と抱き合う。亭主は彼女に風船を渡し、全員で子作りに励もうと歌う。

 

Reference Materials



初演
1947
年6月3日 パリ・オペラ・コミック座

台本
ギョーム・アポリネール/フランス語

演奏時間
プロローグ・第1幕35分、幕間劇・第2幕22分(下記CDによる)

参考CD
● ラフォン、ボニー、フシュクール/小澤征爾指揮/サイトウ・キネン管(PH

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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