火刑台上のジャンヌ・ダルク[プロローグと1幕]オネゲル作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

フランスオペラ

A. Honegger, Jeanne dÅfArc au Bûcher 1935

火刑台上のジャンヌ・ダルク[プロローグと1幕] オネゲル作曲


登場人物❖

ジャンヌ・ダルク(語り役) 修道士ドミニク(語り役)  聖母マリア(S) 聖女マルグリート(S) 聖女カトリーヌ(A) 豚(裁判長)(T) 見習僧(T) ロバ(書記)(B) 子供の声(Boy-S)他

 

概説

 この作品はもともとオラトリオとして作曲されたが、オペラの形で取り上げられることが多い。それゆえにオペラ=オラトリオとも劇的オラトリオとも呼ばれることがある。オネゲルが敬愛していたクローデルの台本によっていて、緊張感に貫かれた音楽はオネゲル最高傑作のひとつとして認められている。

 

プロローグ

 

 暗闇の中、火刑台の上にジャンヌ・ダルクが鎖で縛りつけられている。人々がイギリス軍に蹂躙(じゅうりん)されて荒廃したフランスを救い給えと神に祈る。するとフランスを救うためにジャンヌという乙女を送ったという天の声が聞こえるが、人々はすぐに信じられない。

 

 第一景 天の声。ジャンヌの火刑が翌日に迫り、暗闇に犬の遠吠えが聞える。人々がジャンヌの名を三度呼び続けると、修道士ドミニクが一冊の本を持って現れる。

 第二景 一冊の書物。火刑台の柱の下にひざまずいているジャンヌに、ドミニクが声をかける。はじめは誰だかわからなかった彼女は、それがドミニクであることに気づく。彼は神を裏切って彼女を虚偽で告発した人の名前を記した本を持って来たと言い、天使がこれを語るだろうと言うので、ジャンヌは十字を切る。

 第三景 地上の声。ジャンヌの求めに応じてドミニクは本を読み始めるが、ジャンヌは自分が異端者とか魔女と非難されたことに驚く。人々はジャンヌを罵り、火炙(あぶ)りとか殺せと大声で叫ぶ。彼女は自分が愛した人までも自分を告発しているのを知る。ドミニクは、ジャンヌを裁こうとしたのは僧の衣を着た野獣どもだと明かす。

 第四景 野獣の手に委ねられたジャンヌ。宗教裁判が開かれるが、誰もが裁判長になることを尻込みする。すると豚が進み出るので人々は豚を称賛する。ようやく次々に山羊の陪審員やロバの書記などの役割が決まる。裁判長はジャンヌを法廷に引き出す。

 裁判官たちは、ジャンヌがイギリス軍を撃退したのは悪魔の助けを借りたからかと尋問するので、彼女はきっぱりと否定する。しかしロバは彼女の答弁を反対に翻訳し、その結果ジャンヌは魔女とされて火炙りの死刑と判決される。

 第五景 火刑台のジャンヌ・ダルク。地の底から彼女を非難する人々の声が聞える。暗闇の中にジャンヌとドミニクは二人になる。ジャンヌは世界の教会、司祭、賢人たちなど尊敬されるような人が、なぜドムレミイの羊飼いの娘に過ぎない自分を咎(とが)めるのかとドミニクに問いかける。ドミニクは、裁判は茶番で賢人が悪魔に魅入られたからだと言い、それは気の狂った王が考え出したトランプ・ゲームの結果なのだと説明する。

 第六景 王たちのトランプ・ゲームのまやかし。四組のトランプが用意され、フランス王夫妻、イギリス王夫妻、ブルゴーニュ侯夫妻など王侯貴族たちが現れる。布告人が奇妙なルールを説明するが、実際にゲームをするのは家臣であると告げられる。ゲームに負けたギョーム・ド・フラヴィはジャンヌ・ダルクをイギリスに差し出し、彼女の火炙りの刑が決まる。

 第七景 聖女カトリーヌと聖女マルグリート。夜更けに弔いの鐘の音が鳴るので、ジャンヌはドミニクに何の音かと尋ねる。ドミニクは人を弔う音だと答えるが、その時ジャンヌには聖女カトリーヌと聖女マルグリートの姿が見える。彼女は、そのお告げによってフランス王を護って戴冠式に導いたという決意を話す。

 第八景 ランスに向かう王。村ではクリスマス・イヴのために農民たちが酒を飲んで浮かれ、子供たちも歌っている。やがて見張りの農民が、ランスへ向かう王の一行が近づくのを見つける。神父は子供たちに聖歌を歌わせる。ジャンヌは聖女カトリーヌと聖女マルグリートに導かれて王を立ち上がらせ、フランスを救ったのは自分だと驚喜するが、人々はまたもや彼女を魔女とか異端者だと罵るので絶望する。

 第九景 ジャンヌの剣。ジャンヌは天から聖女マルグリートの励ましの声を聞く。ジャンヌはイギリス軍を撃退した不思議な力を持つ剣のことを回想して、ドミニクに話して聞かせる。ジャンヌはそれが故郷ドムレミイで授かったものであり、その剣には誰も逆らえない力があると語る。その時、ジャンヌのみに「ジャンヌよ!神の娘よ、行け」という聖カトリーヌの声が聞える。再びジャンヌは話を続け、ある冬の日に聖カトリーヌと聖マルグリートの声を聞き、その手に握られていたサン・ミシェルの剣で戦いに参加したと語る。

 第十景 五月の歌。ジャンヌは子供たちが歌っていた「トリマゾ」の歌を口ずさみ、皆に自分のために祈って欲しいと言う。

 第十一景 炎に包まれるジャンヌ・ダルク。突如現実に引き戻されたジャンヌは、聖母マリアに清らかな灯を捧げる。彼女は自分でも聖なる乙女か悪女なのか判断できない。ドミニクもいなくなり、一人になったジャンヌは、同胞たちが自分を火炙りにしようとしているのかどうかわからずに嘆く。その時、彼女を励ます聖母マリアの声にジャンヌは怯えるので、人々も彼女が哀れな少女に過ぎないのではないかと思う。

 司祭が彼女に嘘をついたと告白するように迫るが、愛がそれを拒み、ジャンヌをたたえる讃歌となる。天の声は「炎を恐れるな、神の娘よ来たれ!」と言うので、ジャンヌは鎖を断ち切って奇蹟を叫ぶ。彼女は燃え盛る炎の中で、法悦の境地で力強く天の呼びかけに答える。人々は彼女の偉大な力強さをたたえる。

 

Reference Materials



初演
1938
年5月12日 バーゼル(スイス)

台本
ポール・クローデル/フランス語

演奏時間
69
分(下記CDによる)

参考CD
● ポレ、コマン、シュトゥッツマン、エイラー/小澤征爾指揮/フランス国立管・唱(DG

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  




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