ドン・キショット[全5幕]マスネ作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

フランスオペラ

J. Massenet, Don Quichotte 1909

ドン・キショット[全5幕]マスネ作曲


登場人物❖

ドン・キショット(B) サンチョ・パンサ(B) ドゥルシネ(Ms) ペドロ(S) ガルシア(S) ロドリゲス(T) ホアン(T)

概説

 晩年のマスネは、毎年春先の一ヶ月を温暖な気候のモンテ・カルロで過ごし、同地にあるお気に入りの歌劇場のために作品を書くのが慣習になっていた。この作品はそのようなマスネのオペラのひとつである。

 当初から主役ドン・キショット(ドン・キホーテ)を世界的な名バス歌手フョードル・シャリアピンが歌うことに決まっていて、彼の強烈な表現力を念頭において作曲された。シャリアピンのような個性的な歌手が求められるので上演の機会は多くはないが、適度なスペイン情緒もあって親しみやすい。

 
ドン・キショット.png
「ドン・キショット」1999/2000
写真提供:新国立劇場 撮影:三枝近志

第一幕

 

 十四世紀末のスペインのある村の広場。今日は祭りの日で、村人たちが陽気に歌い踊っている。ペドロ、ガルシア、ロドリゲス、ホアンの村人四人は、村一番の美女で娼婦のドゥルシネの家の下で彼女の美しさをたたえる。すると彼女はバルコニーに姿を現して歌い(「女が二十歳になると」)、彼らを相手にせずに部屋の中に戻る。

 四人がドン・キショットが本気で彼女を愛しているらしいと噂をしているところに、人々の歓声に迎えられてやせ馬に跨ったドン・キショットが、ロバに乗ったサンチョを従えてやって来る。ドン・キショットは、貧しい人たちに施しを与える。人々が去ると、ドン・キショットはドゥルシネの家の窓の下でセレナードを歌う。そこにやって来たホアンが冷やかすので二人は争いになるが、ドン・キショットは気を取り直して再びセレナードを続ける。

 それを聴いていたドゥルシネは二人の間の仲裁に入り、ホアンを去らせると、ドン・キショットに山賊に奪われた首飾りを取り戻して来てくれるならば彼の愛を受け入れると言う。ドン・キショットは本気で首飾りを取り返すことを誓い、四人の村人の嘲笑を背に受けて出発する。

第二幕

 

 霧に霞む田園の中。ドン・キショットはドゥルシネに捧げる愛の詩の創作に余念がない。

 一方サンチョは馬とロバを木につないで戻って来るが、主人がいつまでも詩作に夢中なのにあきれ果て、現実主義者らしくドゥルシネの悪口を言いはじめる。次第に霧が晴れてくると、遠方に大きな風車が回っているのが見える。ドン・キショットは馬に跨ると、「あれぞ怪しい巨人の出現」と言って無謀にも槍をかざして突進する。彼は風車に弾き飛ばされて、空中に放り投げられる。

第三幕

 黄昏が迫る山の中。ドン・キショットはドゥルシネに頼まれた首飾りを取り戻すために山賊たちを探して山中に入り、彼らを待ち伏せしようとする。ところが疲れ果ててそこに寝込んでしまい、いつの間にか大勢の山賊に取り囲まれているのに気づく。ドン・キショットは槍を持ってその中に突進するが、たちまち彼らに取り押さえられてしまう。それでも騎士としての尊大さと威厳を失わないドン・キショットは、毅然とした態度で「自分こそ世の中の不正をただす遍歴の騎士」と所信を述べ(「ドン・キショットの祈り」)、奪われたドゥルシネの首飾りを返してもらいに来たと言う。あまりにも名調子の語りぶりに山賊たちは感動してドン・キショットの前にひれ伏し、うやうやしく首飾りを差し出す。


第四幕

 

 ドゥルシネの家の中庭。四人の村人たちがドゥルシネにまとわりついているが、彼女は平凡な彼らを相手にせずに刺激を求め、ギターを弾きながら歌う(「愛する喜びのみを考えよう」)。

 皆が去った後、サンチョに続いてドン・キショットが現れ、二人は異なった人生観を歌う。ドゥルシネが踊りながら現れると、ドン・キショットは山賊から奪い返してきた首飾りを彼女に渡して手柄話をする。そして彼女に求婚を申し入れるが、それを聞いたドゥルシネは笑い飛ばして相手にせず、二人の二重唱となる。それでも率直に本心を語ってくれたドゥルシネにドン・キショットは感謝する。再び集まって来た村人たちはそれを嘲笑するので、サンチョはドン・キショットをかばって彼をたたえる。

第五幕

 

 ドン・キショットの死。古い森に通じる道。長い遍歴で病を得たドン・キショットは、木の幹にもたれて眠っている。死を間近に控えた彼の傍らで、サンチョは一心に祈っている。最期の時が迫っていることを悟ったドン・キショットはドゥルシネへの思いを回顧し、忠実なサンチョに美しい島を与えることを約束する。遠くからドゥルシネの歌声が聞える中で、ドン・キショットは息絶える。

 

Reference Materials



初演
1910
年2月15日 カジノ劇場(モンテ・カルロ)

原作
ミゲル・デ・セルバンテス・サベードゥラ/「ドン・キホーテ」

台本 アンリ・ケーン/フランス語

演奏時間
第1幕37分、第2幕13分、第3幕19分、第4幕31分、第5幕20分(下記DVDによる)

参考DVD
● スカンディウッツィ、ヴェルヌ、オールドリッチ/ギンガル指揮/東京フィル、藤原歌劇団唱(LV

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  




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