詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
フランスオペラ
C. F. Gounod, Faust 1857~59
ファウスト[全5幕]グノー作曲
❖登場人物❖
ファウスト博士(T) メフィストフェレ(B) マルグリート(S) ヴァランタン(Br) ワグナー(Br) シーベル(Ms) マルテ(Ms)
❖概説❖
グノーはリリック劇場(パリ)の支配人の勧めにより作曲を開始したが、同じ題材のメロドラマが他の劇場で上演されたので、一時作曲を中断した。しかしその失敗に勇気を得て、再度作曲の筆を進めて完成をみた。
最初は台詞入りのオペラ・コミックであったが、1869年パリ・オペラ座での上演を機に台詞を歌に変え、さらにバレエを加えて現在のグランド・オペラの形になった。
第一幕
ファウスト博士の書斎。長年の学究生活から人生に飽きたファウストが、この世に絶望して悪魔よ来たれと叫ぶ。すると悪魔メフィストフェレが騎士の姿で現れ、美しいマルグリートの姿を見せて、魂と引き換えに青春を与えようと言う。ファウストが契約に署名すると、たちまち青年の姿に変わる。
第二幕
祭りの定期市が立つ町の広場。広場は人々でにぎわっている。青年ヴァランタンは出征を前に、留守中の妹マルグリートを友人シーベルに託す(「門出を前に」)。友人ワグナーは、あまり心配しないで酒を飲もうと言う。
そこにメフィストが現れて、強引に仲間に加わる。彼は金権主義をたたえ(金の小牛の歌「金の子牛は常に生きて」)、ワグナーの手相を見て、戦死の卦が出ていると言う。またシーベルには、手に触れる花はすべてしぼんでしまうから、マルグリートに花を贈らない方が良いなどと言う。その上怒ったヴァランタンの剣を折ってしまうので、皆はメフィストの正体をいぶかる。ヴァランタンは折れた剣を魔除けの十字にかざして立ち去る。
再び人々が集まって、乙女たちはワルツを踊る。ファウストはそこに登場したマルグリートにひと目ぼれし、彼女に近づこうとした若者シーベルを追い払うと、マルグリートに話しかけるが相手にされない。メフィストがでは自分が手助けをしようと言う。
第三幕
マルグリートの家の庭。シーベルがマルグリートの窓辺でセレナードを歌い、彼女に捧げようと花を摘むが、すぐにしおれてしまうのを嘆く(花の歌「あの魔法使いの言ったように」)。しかし聖水に指を漬けて花を摘むとしぼまないので、花束を作って去る。そこにメフィストに連れられたファウストが現れ、マルグリートの清楚な生活ぶりをたたえて(「この清らかな住まい」)、窓の脇にあるシーベルの花束の横にメフィストが用意した宝石箱を置いて立ち去る。
戸口に現れたマルグリートは紡ぎ車を回しながら、昔のトゥーレの王の物語に寄せて、先ほど口説かれたファウストに今では思いを寄せている自分に気がつく(「トゥーレの王」)。そして宝石箱を見つけ、中の宝石を身につけて恍惚(こうこつ)としていると(宝石の歌「何と美しいこの姿」)、隣家の友人マルテに見とがめられる。そこに現れたメフィストは、邪魔なマルテを言葉巧みに誘惑して連れ去る。
その間にファウストはマルグリートの美しさをたたえ、二人は語り合う。夜になってマルグリートが別れを告げるが、ファウストは愛を告白してついに愛の二重唱となる。いつまでも立ち去り難(がた)く窓の外にたたずむファウストを、マルグリートは家の中に引き入れる。うまくいったとメフィストは高笑いする。
第四幕
第一場 マルグリートの部屋。前幕から一年後。ファウストに弄(もてあそ)ばれた末、マルグリートは妊娠して捨てられてしまった。近所の人々にも嘲笑(ちょうしょう)される彼女は泣きながら窓辺で糸を紡ぎ、ファウストをあきらめられずに彼が戻って来るよう願っている。シーベルが来て彼女を慰めるので彼女は感謝する。
第二場 教会の中。マルグリートが神々に祈っていると、メフィストが現れて彼女を脅かし、祈りを妨害しようとする。僧侶の声も加わってマルグリートの心は混乱し、ついに気を失う。
第三場 街路。兵士たちが凱旋(がいせん)して来る(兵士の合唱「武器を捨てよう」)。ヴァランタンはシーベルからマルグリートの件を知り、シーベルの制止も聞かずに家へと急ぐ。マルグリートの家の前では、メフィストがファウストをからかうようにセレナードを歌っている(「眠ったふりをせずに」)。
そこにヴァランタンが帰って来て、ファウストと決闘になるが、メフィストの魔力に助けられたファウストがヴァランタンを倒す。騒ぎを聞きつけて、人々やマルグリートが駆けつけるが、ヴァランタンは妹を呪いながら息絶える。
第五幕
第一場 ハルツ山脈のブロッケン山。ワルプルギス祭の踊りが悪魔や魔女によって踊られる。メフィストとファウストが山頂に現れ、ファウストはクレオパトラ以下歴史上の美女に魅了される。しかし彼はマルグリートの幻影を見ると、ひと目彼女に会いたくなる。
第二場 牢獄。気が狂ったマルグリートは自分の子供を殺してしまい、牢獄につながれてまどろんでいる。そこにメフィストに伴われたファウストが現れる。ファウストはメフィストを外へ出すと、自責の念に駆られながら変わり果てた姿のマルグリートを起こす。
気の狂った彼女と二人で昔を懐かしく回想すると、ファウストはマルグリートに一緒に逃げようと言うが、彼女は拒絶する。メフィストもやって来て二人を急がせるが、マルグリートはメフィストを見て悪魔だと叫び、清らかな神に祈ると息絶える(「清らかな天使」)。天使によって救済された彼女の魂はファウストが見守る中を天に昇り、メフィストは大天使ミカエルの剣に倒れる。
Reference Materials
初演
1859年3月19日 リリック劇場(パリ)
原作
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの同名戯曲
台本
ジュール・バルビエ、ミシェル・カレ/フランス語
演奏時間
● 第1幕25分、第2幕26分、第3幕49分、第4幕41分、第5幕31分(クリュイタンス盤CDによる)
参考CD
● ロス・アンヘレス、ゴール、ゲッダ、ブランク、クリストフ/クリュイタンス指揮/パリ・オペラ座管・唱(EMI)
参考DVD
● フレーニ、タイヨン、ゲッダ、クラウゼ、ソワイエ/マッケラス指揮/パリ・オペラ座管・唱(NMC)