詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
フランスオペラ
A. Thomas, Mignon 1866
ミニヨン[全3幕]トマ作曲
❖登場人物❖
ミニヨン(Ms) フィリーヌ(S) ヴィルヘルム(T) ロタリオ(B) ラエルト(T) フレデリク(T、A)他
❖概説❖
トマの最高傑作であり、ワーグナーもこの作品に興味を抱いたと言われる。洗練された抒情的な音楽ながら、その中にロマンティックで暖かな息吹が感じられるからであろう。初演から大成功を収め、半年間に百回も上演される大ヒットとなった。
第一幕
ドイツの片田舎の旅籠(はたご)の中庭。村人たちがくつろいでビールを飲んでいる。昔娘を誘拐されて以来気のふれた老辻音楽師ロタリオが現れるが、人々は彼を相手にしない。
ジプシー娘の一団がやって来る。彼女たちの踊る様子を、女優フィリーヌと男優ラエルトがバルコニーから見物している。一行の団長ジャルノはミニヨンに踊りを命じるが、機嫌の悪い彼女は踊ろうとしない。怒った団長はミニヨンを杖(つえ)で打とうとすると、ロタリオがミニヨンをかばう。学生ヴィルヘルムはピストルをかざして団長を脅かし、フィリーヌは団長に財布を与えてその場を収める。
ミニヨンはヴィルヘルムにお札の花束を捧げる。フィリーヌはヴィルヘルムの態度に興味を持ち、彼女の意を受けたラエルトがヴィルヘルムに素姓を尋ねると、彼は諸国漫遊中の学生ヴィルヘルム・マイスターと答える。バルコニーから降りて来るフィリーヌを見て、ヴィルヘルムは彼女の美しさをたたえる。
やがてヴィルヘルム一人になったところに、再びミニヨンがお礼に現れる。ヴィルヘルムの問いに、彼女は幼い時に人に誘拐された記憶を答え、そこはオレンジの花が咲く南の国だったと言う(「君よ知るや南の国」)。
心を打たれたヴィルヘルムが団長からミニヨンを買い取って自由にしてやると、ミニヨンはロタリオとともに喜んで立ち去る。フィリーヌが若者フレデリクを伴って現れ、ヴィルヘルムは彼が恋敵だと悟る。
そこにラエルトが、フィリーヌに宛てたローゼンベルク男爵からの招待状を持って来る。フィリーヌはヴィルヘルムに同行を誘うと、そこにミニヨンがやって来て、小姓として連れて行って欲しいと頼む。はじめは断っていたヴィルヘルムも彼女を連れて行くことにする。
第二幕
第一場 ローゼンベルク男爵邸の優雅な衣裳部屋。立派な控室に満足しているフィリーヌのところに小姓姿のミニヨンを連れたヴィルヘルムが入って来て、フィリーヌといちゃつく。ミニヨンは眠ったふりをしてそれに耐えている。二人が去った後、ミニヨンは鏡の前で化粧して、フィリーヌの衣裳をまとった美しい自分に見とれる。ミニヨンが部屋を出て行くと、フィリーヌを慕うフレデリクが彼女を探して窓から忍び入る。戻って来たヴィルヘルムと決闘になりかかるが、次の間からミニヨンが駆け込んで二人を仲裁する。
ヴィルヘルムは化粧して着飾った年頃のミニヨンを見て、小姓にはしておけないと申し渡して別れを告げる(「さよなら、ミニヨン」)。現れたフィリーヌに皮肉られたミニヨンは、身につけていたフィリーヌのドレスを引きちぎって部屋を出て行く。そして自分の服に着替えた彼女は、フィリーヌへ憎しみの言葉を投げかける。
第二場 ローゼンベルク男爵邸の庭。放心状態で庭に出たミニヨンが、嫉妬(しっと)から池に身を投げようとしているところにロタリオが現れて、誘拐された自分の娘とミニヨンとを取り違える。館内の劇場からフィリーヌの演技をたたえる喝采(かっさい)が聞こえると、ミニヨンはあの館を炎で包んでやりたいと叫んで走り去り、ロタリオも炎という言葉を繰り返す。
芝居が終わって、人々はフィリーヌを囲んで庭に出て来る。皆に囲まれたフィリーヌは上気して歌う(「私はティタニア」)。その時ロタリオはミニヨンに、お前の仇を討つため館の劇場に火を放って来たと告げる。
フィリーヌはミニヨンの気持ちを確かめようとして、劇場に置き忘れて来たヴィルヘルムからの花束を取って来るようミニヨンに頼むので、彼女は劇場へ向かう。その直後に劇場の火事が告げられる。ヴィルヘルムは火の中に飛び込み、花束を持って失神しているミニヨンを救い出して来る。
第三幕
イタリアの古城の広間。ロタリオが眠っているミニヨンのために子守歌を歌っている(「心の痛手も癒(い)えて」)。ヴィルヘルムがやって来て、ミニヨンのためにこのチプリアーニの館を買ってやるつもりだと話す。チプリアーニと聞いて記憶を取り戻したロタリオは部屋を出て行く。
ヴィルヘルムは眠っているミニヨンを見てロマンスを歌う(「無邪気な彼女は」)。やがて目を覚ましたミニヨンと互いに愛を告白していると、遠くからフィリーヌの声が聞こえるのでミニヨンは気絶するが、ヴィルヘルムはミニヨンに優しく愛をささやきかける。
そこに立派な貴族の衣裳を着けたロタリオがやって来て、自分はこの館の主人だと言ってミニヨンに小箱を贈る。それには彼の娘スペラータの思い出の品々が入っている。スペラータと聞いてミニヨンも何かを思い出す。そして箱の中の祈祷書を読み出すと、途中から全部をで読み終える。不思議な気持ちになったミニヨンは、ヴィルヘルムにここはどこかと問うので、彼がイタリアだと答えると、ミニヨンはすべての記憶を取り戻す。
ロタリオとミニヨンは、この館の主チプリアーニ侯爵とその娘スペラータであることが判明し、父娘は喜びに抱き合う。ヴィルヘルムは改めてミニヨンに愛の告白をして、二人は結ばれる。チプリアーニ侯爵とスペラータ、それにヴィルヘルムの三人が神をたたえる中に幕となる。
Reference Materials
初演
1866年11月17日 パリ・オペラ・コミック座
原作
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ/「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」
台本
ジュール・バルビエ、ミシェル・カレ/フランス語
演奏時間
第1幕69分、第2幕71分、第3幕55分(デ・アルメイダ盤CDによる)
参考CD
● ホーン、シュターデ、ウェルティング、ヴァンゾ/デ・アルメイダ指揮/フィルハーモニア管、アンブロジアン・オペラ唱(SONY)
参考DVD
● ヴィニヨン、マッシス、ガブリエル、トレギエ、カサール/フルネ指揮/コンピエーニュ・インペリアル劇場管、ル・マドリガル(NMC)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止