ヴォツェック[全3幕]ベルク作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

A. Berg, Wozzeck 1917~21

ヴォツェック[全3幕]ベルク作曲

 

登場人物❖

ヴォツェック(Br) 鼓手長(T) アンドレアス(T) 大尉(T) 医者(B) マリー(S) マルグレート(A)他

概説

 原作は未完の戯曲なので、終わり方には異本があるが、ベルクは20以上の原作の場面を各幕五つ計15の場面に整理し、場面転換の音楽によって緊張感みなぎる一貫したドラマの構成に成功した。また、無調手法による最初の大規模作品としても重要である。シュプレッヒシュティンメ(話すような発声法)という唱法が採り入れられているのが大きな特徴であり、特にとりたてて美しいアリア等はない。

 なお、原作のヴォイツェックは実在の人物で、当時殺人犯として死刑にされた有名な事件であったが、オペラでは初版の「ヴォツェック」の題名になっている。初演の指揮者はエーリヒ・クライバーで、137回もの練習を重ねて上演されたが、不成功であった。



第一幕

 

 第一場 大尉の部屋、早朝。理髪師上がりのヴォツェックが大尉のひげを剃っている。大尉はヴォツェックを馬鹿にして、私生児を育てているのを非難する。ヴォツェックは貧乏人に道徳の説教をしても無駄だと答えるので、大尉はあきれて彼を帰す。

 第二場 遠くに町が見える広い野原、日没時。ヴォツェックは同僚のアンドレアスと上官のために杖(つえ)を作っている。ヴォツェックは、この野原の毒茸(どくだけ)と首を拾って死んだ男のことを語る。やがて夕日で空が赤くなると、ヴォツェックはおびえる。

 第三場 マリーの部屋、夕方。ヴォツェックの内縁の妻マリーは子供をあやしながら窓の外の軍楽隊の行進を眺めている。先頭の鼓手長がマリーに気づいて挨拶するので、彼女は男前の鼓手長に見とれると隣人のマルグレートに冷やかされる。マリーは怒って窓を閉め、子守歌を歌って子供を寝かせる。幻想におびえたヴォツェックが入って来て、取りとめもないことを言うと放心状態で出て行く。

 第四場 医者の研究室、天気の良い午後。生活費を稼ぐために、ヴォツェックは医者の実験台になっている。医者は彼を単なる実験動物としか考えていないので、咳をするのは契約違反だと言い、豆以外のものを食べることを禁じる。ヴォツェックが幻覚症状を訴えると、医者は自分の実験の成果に夢中になり、世界的名声を得ることを夢見る。

 第五場 マリーの家の前の通り、黄昏(たそがれ)時。マリーは体格の良い鼓手長に見とれて彼に話しかける。鼓手長は、お前を特訓してやろうと言ってマリーを抱き締める。マリーは一旦は抵抗するものの鼓手長に身を委ねて、二人は家に入る。


第二幕

 

 第一場 マリーの部屋、午前。マリーが子供をあやしながら鼓手長からもらった耳飾りをつけて鏡に映していると、入って来たヴォツェックに見とがめられる。マリーは言い訳をするが、深く問い詰めもせずヴォツェックは生活費をマリーに渡して立ち去るので、マリーは良心の呵責(かしゃく)を感じる。

 第二場 町の通り、昼間。急ぎ足の医者を大尉が呼び止めると、大尉の顔を見た医者は貴殿も近いうちに半身不随になる、と言ってからかう。そこに通りかかったヴォツェックに大尉はマリーの浮気を仄(ほの)めかすので、逆上したヴォツェックは家に向かって駆け出す。

 第三場 マリーの家の前の通り、曇った昼。嫉妬(しっと)に狂ったヴォツェックが帰って来て、マリーを詰問する。興奮したヴォツェックがマリーに打ちかかると、彼女は打たれるよりナイフで刺された方がましだと言って家に入る。ヴォツェックは茫然とマリーが言った言葉をつぶやく。

 第四場 酒場の庭、夜。人々が踊っているところにヴォツェックがやって来て、マリーが鼓手長と一緒に踊っているのを目撃する。ヴォツェックが飛びかかろうとした時ダンスが終わり、アンドレアスは陽気に歌う。白痴が現れてヴォツェックに近づくと、血の匂いがすると言うので、ヴォツェックは目の前が赤く感じる。

 第五場 兵営の衛兵室、夜。ヴォツェックはうなされて一人目覚めると、アンドレアスにうるさいと怒鳴られる。酔った鼓手長がやって来て、おれには女がいると絡む。たまりかねたヴォツェックは鼓手長に挑みかかるが、逆にやっつけられてしまう。ヴォツェックは「順に一人ずつ」とつぶやく。


第三幕

 

 第一場 マリーの部屋、夜。聖書を読むマリーは自責の念にかられる。そして昨日も今日もヴォツェックが来ないのに不安になり、マリアに祈りを捧げる。

 第二場 池のほとりの森の小道、夕暮れ時。ヴォツェックがマリーと一緒に歩いて来て、付き合って何年になるか、お前は貞淑かなどと問い、マリーに接吻する。真っ赤な月が上ると、ヴォツェックはナイフでマリーの喉を突き刺して走り去る。

 第三場 居酒屋、夜。ヴォツェックは居酒屋で気を紛らわそうと入って来て、マルグレートに歌を歌わせる。そのうち彼女はヴォツェックの手に血がついているのを見つけ、皆も集まって来て騒ぎ出すので、ヴォツェックは逃げ出す。

 第四場 池のほとりの森の小道、月夜。殺害現場に戻ったヴォツェックはすっかり理性を失い、マリーの死体につまずいても気づかない。ナイフを拾って池に投げ、血を洗おうとして池に入っておぼれる。大尉と医者が通りかかって、誰かがおぼれているらしいのに気づくが、闇の中なので様子がよくわからない。気味悪くなった二人は立ち去る。

 第五場 マリーの家の前の通り、明るい朝。子供たちが遊んでいる。そこに一人の子供がマリーの母親の死を伝えるので、皆はそちらへ走って行く。木馬遊びをしているマリーの子供だけが取り残されるが、しばらくすると無邪気に仲間の後を追う。

Reference Materials



初演

19251214日 ベルリン国立歌劇場

原作
ゲオルク・ビュヒナー/「ヴォイツェック」

台本
アルバン・ベルク/ドイツ語

演奏時間
第1幕36分、第2幕35分、第3幕23分(ブーレーズ盤CDによる)

参考CD
● シュトラウス、ウール、ヴァイケンマイアー、デンヒ/ブーレーズ指揮/パリ・オペラ座管・唱(SONY

参考DVD
● ユリナッチ、ブランケンハイム、キャシリー、ゾーティン/マデルナ指揮/ハンブルク国立歌劇場管・唱(Art

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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