モーゼとアロン[全3幕]シェーンベルク作曲

HOME > メディア > 詳解オペラ名作217 > モーゼとアロン[全3幕]シェーンベルク作曲
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
オペラ名作217 もくじはこちら
詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

A. Schönberg, Moses und Aron 1930~32

モーゼとアロン[全3幕]シェーンベルク作曲

登場人物❖

モーゼ(語り役) アロン(T) 少女(S) 病める女(A) 若い男(T) 男(Br) エフライムの徒(Br) 司祭(B)他

概説
 十二音技法による無調オペラの傑作である。台本ははじめオラトリオを書くためにシェーンベルク自身によって書かれたが、後に構想はオペラに変更された。一九三二年までに第二幕までが完成したが、ナチによって国外追放されるうちに作品を完成させる意欲が失われた。未完の第三幕は台詞だけで上演されることがある。



第一幕

 

 第一場「モーゼ召喚」 燃え立つ荊棘(いばら)の繁みを見て、モーゼが「唯一にして永遠の神」と叫ぶと、繁みの中から「汝の履物を脱ぎなさい、汝は聖地に立っている。今こそ我が声を民に伝えよ」と言う神の声が聞こえる。モーゼは神との対話で、自分はそのような説得力は持っていないとためらいがちに答え、羊飼いのままにしておいて欲しいと言う。神は、お前は奇跡を起こして人民に神を信じさせるだろうと言うが、結局神はモーゼの代わりに口の上手な彼の兄アロンを代弁者として神の言葉を伝えるよう命じ、荒野でアロンに出会うことを予言する。

 第二場「モーゼは荒野でアロンに出会う」 モーゼとアロンが現れる。モーゼはアロンに向かって、自分の代わりに神の言葉を民に伝えてくれるよう頼む。モーゼが人間の想像を超えた目に見えない絶対的な神の存在を信じようと語るのに対して、偶像を通してしか神を信じようとしないアロンにはそのような神の存在を理解することができない。二人の考えは対立したままであるが、最後にアロンは「全能の神よ! 民をファラオの奴隷から解放したまえ」と祈る。

 第三場「モーゼとアロンは神の福音を人々に告げる」 エジプトのユダヤ人居留地では民衆が往き交っている。人々はモーゼとアロンについて語る。少女と若い男はアロンが荒野へ出かけて行った時の様子について語り、別の男はアロンが弟モーゼに会いに行ったのだろう、と言う。司祭は苦役を課すエジ
プト人役人を撲殺したあのモーゼかと言うので、人々はどよめく。若い男はファラオよりも強い神がやって来て解放してくれることを望み、少女は光り輝くような美しくて若い新たな神の出現を期待する。

 人々は少女や若い男の言葉に従って、神を信頼する者と神を信じない者との二派に分かれるが、やがて遠くから姿を現わしたモーゼとアロンが次第に近づいて来る。人々も少しずつ希望を抱きはじめる。

 第四場 同じ場面。モーゼとアロンが到着し、人々は希望に神をたたえる。モーゼの意見に従ったアロンは、モーゼとともに民衆に語りかけるが、人々は目に見えない神を信じようとしないのでモーゼは絶望する。するとアロンは突如手を高く差し伸べて、モーゼの杖をひったくり地面に投げつけると、杖は蛇に変わる。アロンはさらに癩(らい)病患者の手をたちどころに治したり、ナイル河から汲んだ水を血に変えたりして見せる。人々や司祭もアロンが起こした奇跡に感服して、目に見えない神の力を信じるに至る。民衆は万能の神をたたえてエジプトを脱出し、荒野に向けて出発する。

 

 間奏曲

 

 人々はいつの間にか姿を消したモーゼの行方を不安がる。

 

第二幕

 

 第一場 シナイ山の麓。アロンが奇跡を起こしたのを快く思わないモーゼは、シナイ山に籠って神の啓示を持っている。人々は四十日経っても戻って来ないモーゼの帰りを待ちあぐむ。七十人の長老たちや司祭をはじめ、皆がモーゼに失望して騒然としている。

 第二場 前場と同じ。暴徒と化した民衆は「モーゼを八つ裂きにしてやる」と叫び、全能の神はどこにいるのかとアロンや七十人の長老たちに食ってかかる。アロンはこの群衆を前にして人々をなだめながら、モーゼは神に殺されたのかも知れないと言う。すると人々は司祭や長老たちの責任を追及するので、アロンはしかたなしに偶像崇拝を許し、黄金の仔牛像を運び込ませる。

 第三場 黄金の仔牛像と祭壇。祭壇を取り囲んだ人々に、アロンはこれがこの世の神だと言い、四方八方からたくさんの供物が運び込まれる。民衆は踊り狂い、偶像にたてつく者は殺される。処女がいけにえに捧げられ、少女も今ではこの偶像をたたえる。頂点に達した乱痴気騒ぎも収まって、あたりには虚脱感が漂う。

 第四場 前場と同じ。神の戒律を記した石板を持ったモーゼがシナイ山を下りて来る。モーゼは偶像を見つけると、一喝のもとに偶像を打ち壊してしまうので、人々は恐れをなして立ち去る。

 第五場 モーゼとアロン。モーゼはアロンに釈明を求める。モーゼはアロンの誤った指導と弁解に怒るが、戒律を刻んだ石板もひとつの像ではないかとアロンに反論されて、石板を打ち砕く。すると石板は火の柱と雲の柱になるので、人々は驚きの声をあげる。アロンが巧みな詭弁(きべん)によって再び神の力を得たのに失望したモーゼは「おお言葉よ、我に欠けたのは汝なり」と言って、絶望のあまり大地にひれ伏す。

 

第三幕

 

 捕らわれの身となったアロンは、モーゼの前に引き立てられる。モーゼとアロンの論争はなおも続き、アロンは民衆に神を納得させるために偶像は必要だったと主張する。これに対してモーゼは、偶像とともに言葉は逃げ出し、神の理念に仕えることだけに自由があると言う。そしてアロンを枷(かせ)から外して自由の身にするが、アロンはその場に倒れて息を引き取る。

Reference Materials



初演
1954
年3月12日 ハンブルク北西ドイツ放送局(舞台初演は1957年6月6日チューリッヒ市立劇場)

原作
旧約聖書(出エジプト記)

台本
アーノルト・シェーンベルク/ドイツ語

演奏時間
第1幕46分、第2幕50分(ショルティ盤CDによる)

参考CD
● ライヒ、キャシリー、パーマー、ウィンフィールド/
ブーレーズ指揮/BBC響・唱(SONY

● マツーラ、ラングリッジ、ボニー、ハーパー、ハウグランド/ショルティ指揮/シカゴ響・唱(D

● ピットマン=ジェニングズ、メリット、フォンタナ、ホール、ポルガール/ブーレーズ指揮/コンセルトヘボウ管、ネーデルランド・オペラ唱(DG

参考DVD
● ライヒ、ドゥヴォス、チャポー/ギーレン指揮/オーストリア放送響・唱(紀)

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  




◀︎◀︎◀︎ ほほえみの国           チャルダーシュ公爵夫人 ▶︎▶︎▶︎



  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 
KAWAI
YAMAHA WEBSITE